第二章 憧れの舞台(ステージ)
第10話 新たな依頼
「巫来ちゃん可愛いな~」
「まじそれな!」
「まさかうちにこんな可愛い転校生がくるとは想像してなかったよ」
有楽町虚界作戦から数日後、俺たちは何件か小さい依頼をこなしていた。
巫来が転入してからもそれなりの期間が経過し、すっかりクラスに馴染んでいた。
とは言うものの、うちのクラスだけでなく他クラス、ましては他学年の人まで巫来を見に来るようになって、ここ最近では彼女に告白する奴まで出て来たらしい。
巫来情報では面倒だからバッサリ断っているとか。
それもそれで告った奴がかわいそうな気もしなくはないが。
「セイ、今日って君の家に行けるかな?」
新が急にそんな提案を小声でしてきた。
幸い、周りの男子も巫来を見ながら小声でなにか話しているのでそこまで浮いては無かった。
「別に平気だが、何かあったのか?」
「うん、ちょっとね」
「わかった。巫来にも伝えておく」
「ありがとう」
新はそのまま教室を出て行った。
恐らく京子を迎えに行ったのだろう。
「ねえ巫来ちゃん、今日遊びに行かない?」
「最近、駅前に可愛い洋服屋ができたから見に行こうよ」
巫来はクラスの女子の何人かに囲まれ放課後どこかに遊びに行かないか、誘われていた。
「悪いが、今日は先約があってな」
俺は彼女たちの間を遮るように間に入りそう言った。
「そうなの巫来ちゃん?」
「ごめん。そういうことだから」
巫来も俺が介入したことを察してくれたようだ。
「そっか、じゃあしょうがないわね」
「そうね」
うちのクラスの女子は基本的にみんな聞き分けが良くて助かる。
「謙醒君、親戚だからって、巫来ちゃんに手を出したらダメだからね」
「しねぇよ」
「そうかな?さっきも新君となにかこそこそ話してたみたいだし」
「そんな話じゃねえよ」
「ほんとかな~?」
このままじゃ埒が明かなそうだな。
俺は巫来の荷物を持って、彼女の手を掴む。
「兎に角、そんなことしなから安心しろ。行くぞ巫来」
「うん。じゃあバイバ~イ」
俺たちは逃げるように帰っていった。
***
家についてすぐ、新と京子が訪ねてきたので二人をすぐに中にいれた。
4人全員がリビングに集まると新はパソコンを開いた。
「それで、急にどうしたんだよ?」
「ほんと、なんで了承しちゃったのよセイ君?」
「はぁ!?俺!?」
なぜか京子がこの集まりの提案者の新ではなく俺に文句を言ってきた。
「だって、今日アタシの推しVチューバーのライブ配信があるから帰って準備しようと思ってたのに。新がセイ君が断ればまた後日って言ったから期待したのに、お姉さんガッカリよ」
それは流石に理不尽ではないか?
「新、これ何?」
謙醒と京子を置いて、巫来が新のパソコンを覗き見る。
「うん。今日はこれについて相談があったんだ」
新が俺たち3人にあるホームページを見せてきた。
「全国地下アイドル総選挙?」
「なんだこれ?」
「アイドル総選挙は聞いたことはあるけど地下アイドル総選挙は聞いたことがないわね。てかアンタ、アイドルなんて興味ないでしょう?」
全員が首を傾げる。
「実は此間言いそびれたけど、一件怪しい依頼が来たんだ。あまりにも変だったから、いたずらかとも思ったんだけど、一応相談しようと思って」
新はページを変えてあるファイルから一件のメールを見せる。
『はじめましてナイトメアの皆様。
まずは諸事情により名前は控えさせてもらうことをお詫び申します。
私の所属する地下アイドルグループ、スターライトの中のメンバーの一人の様子が最近おかしいと感じています。杞憂であればよいのですが、どうしても気になったしだいご依頼させてもらいました。それと、どうかどうかこのことはメンバーにも関係者の皆様にも他言無用でお願いいたします。
スターライト、匿名Nより』
「なんだこのメールは?」
「匿名の癖に、ターゲットの名前も無し。どういうつもりかしら?」
流石にこんな依頼メールは初めてだ。
そもそもターゲットの情報すらないとなるとこちらとしても何も対策や下調べができない。
「でもこんなのいたずらでしょ?」
「僕も最初はそう思ってたんだけど、そんな矢先にさっきの地下アイドル総選挙の噂を聞いたんだ。あまりにもタイミングが良すぎて」
「このメールが来たのはいつなんだ?」
「これが僕のところに届いたのはだいたい1週間前、そしてその2日後にこの地下アイドル総選挙の発表があったらしいんだ。そして調べてみたところ、このスターライトっていうグループも何人かがエントリーしてるらしんだ」
「なるほどな。確かにタイミングが良すぎるな」
仮に依頼者が一般人で、ターゲットがこの総選挙にエントリーされてることを知って、この依頼を出したのなら、タイミング的違和感は残るが、関係者なら発表前に知っていてもおかしくない。
それにこのメールがもしいたずらだとしたらかなり面倒なことをしているしな。
「新はこれが本物の依頼だと思うんだな?」
「調査をする価値はあると思う」
「百聞は一見に如かず」
「……巫来の言う通りだな。まずは下調べから行ってみよう」
「潜入調査?」
「そうだな。とりあえず2人ぐらいにしとくか」
地下アイドルのことなんて今のネットでもそこまで多くないし大半が個人的な感想とかが多い。
そう考えると現地に行って確かめてみるしかないか。
「ならまずは新は決定ね。この依頼を受けたいって言ったんだから、いいわね_」
「そうだね。うん、僕が行くよ」
「じゃあ決まりだな。それでもう一人は」
「私無理、アイドルわからない」
そうか、こう見えて巫来はちょくちょく常識というか、そういう一般的メディアや娯楽系の知識が少ない。
それに加えて、巫来はあまり対面調査にはそもそも性格的に向いていない。
「となると…」
「アタシしかいないか~」
「おい、なんで速攻で俺排除されてんだよ」
「なに言ってんのよ。こういうのは女子同士だから話せることもあるのよ。元からセイ君は除外されてたのよ」
「……そうかよ…」
とりあえず、こうして現地調査班も決まった。
「それにしてもスターライトか……その名前どこかで……」
「セイ、どうしたの?」
「ああ、いや、何でもない」
そしていよいよ次の依頼を始まる。
依頼
『地下アイドルグループ、スターライトに潜むドリーマーの発見と攻略』
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