弁当と噂話

 翌朝、学校へ行く時間にしっかり起床して朝御飯を食べようとリビングに降りると黒姫がわざわざ弁当まで用意して朝食を作っていた。


「おはようございます、翔君は学校ですからね、帰ってくるまでは私と神鳴で街を見て回ります。帰ってきたら携帯に連絡ください」


「なかなかにしっかり準備してるんだな…ゆっくりすればいいのに」


「お礼もしないといけませんからね、空き部屋まで貸していただいていますし」


 食べ終わる頃に物置の扉を開けて欠伸をしながら神鳴がリビングに入ってくる。


「おはよー」


「おはようございます、神鳴も早く食べてくださいね」


 トーストと目玉焼きを眠たそうな顔で食べる神鳴を尻目に食べ終わった翔がそそくさと登校しに家を出る。


「んじゃ行ってくるわ」


 学校では魔物の騒ぎが一般人に本格的に露呈してきて放課後の外出を控えるようにと教師から伝えられる。


(最近多くなったって、このままじゃ社会崩壊するんじゃ…)


 魔物の危険性をあまり理解できていない生徒が文句を言う中で八坂が怒鳴る。


「お前達マジに危ないから首突っ込むんじゃねえ!」


 教室が沈黙で満たされ八坂の剣幕に教師が震えた声でホームルームを終わらせる。


「っち、ただでさえ最近同業者多くて稼ぎ少ねぇんだから手間かけさせるな」


 八坂の呟きが聞こえた翔が近付き質問する。


「俺以外にもいるのか?」


「あぁ!?そうだよ、企業かチームか知らねぇがな、面白くねえ」


 イライラしながら受け答えする八坂に協力しないかと持ち掛けるが断られる。


「悪いがチームは組まない、そういうのめんどくさいからな」


「そうか、まぁお互い頑張ろう」


 嫌われていて仕方ないと自席に戻り授業を受ける。


 昼休み、黒姫お手製の弁当を開け質素ながらしっかりと作られたおかずに感動の涙をホロリと溢しながら食べる。


(焼きそばパンとかもう購買行かなくていいとか最高だな、あぁ旨い)


 弁当食べ終わった翔を猪尾が呼ぶ。


「翔っち、ちょいといいか?」


「どうしたんだ?」


 空になった弁当を鞄に押し込んで廊下に出る。


「朝に話された街での怪物騒ぎでお前や八坂を見かけたって聞いてな、気になってさ」


「あー、うん、魔物?っての退治はしたが…もう見られてたのか…」


「噂は早いからな!」


 そこに西園寺がやってくる。


「あ、浜松、丁度良かった街でデートあんたを見たって噂が」


「私服なのにどうして簡単に身バレしてるんだ!?」


 翔が呆れるがあの時の状況を思い返して黒姫がバチバチに目立つドレスだったし自分の前髪も特徴的だったと気付いて軽く溜め息をつく。


「は?デートだと!?」


 猪尾が掴みかかる。


「いや、買い物に付き合っただけだから…」


「そぉれはもうデートだろうがよぉ!」


 悔し涙を流す猪尾を憐れみの目で西園寺が見つめる。


「まぁ噂話は誇張されやすいからね、なんでもドレス着てるお嬢様…」


「玉の輿だとぉ!」


 猪尾が襟を掴んで揺さぶってくる。


「夜間とたまたま再開して買い物に付き合っただけだって…」


「荷物持ちやらされてたわね」


 西園寺がニヤニヤして翔に語り掛ける。


「目撃者と噂流したのお前かよ!」


 西園寺がバレたかと頭を掻いて爆笑する。


「夜間?…あー、学校辞めた?」


 猪尾がパッと手を離し冷めた顔をする。


「何て言うか…うん、いいんじゃない?」


「急に冷静になったな」


「いや、根暗っぽくてちょっと同情しちゃった」


 記憶が無い猪尾の辛辣な意見に翔は目を細める。


「本人が聞いてたら刺されるぞ…」


 携帯にメッセージが届く音がして翔が取り出す。


「あら、噂をすればってやつー?」


 相変わらず西園寺は鋭いと思いながら否定する。


「あーもう違うって」


「翔、噂が深くなる前に認めておいた方がいいぞ」


 猪尾は既に嫉妬する側から茶化す側に回ってニヤニヤしだす。西園寺も頷いて茶化す。


「そうそう、恥ずかしがる必要ないわ」


「…取り敢えずお前ら街には個人で行くなよ?本当に危ないから」


 なんとか誤魔化しながら二人を追い払うのだった。


(全く…取り敢えず弁当の感想送っておくか)

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