怖い人

 翌日の日曜日、朝に困り顔の前日と同じドレス姿の黒姫に起こされる。


「おはようございます、すみません、服が無いです」


「買いに行けば…金がないか、下で待っててくれ」


 寝ぼけ眼で今後の事を考えて頭を抱える。


(参ったな…買い物か…)


 階下に降りてリビングで黒姫と神鳴に挨拶する。


「服ねぇ、取りに帰れないの?」


「勘当されちゃったから、どうでしょう」


 勘当と言うより家出ではないかと神鳴は訝しんだ。


「翔、この子あなたとデートする口実作ってるわ!」


 突拍子のない発言だったが否定できず注意する。


「邪推するなよ、マジで服は無いみたいだし」


「神鳴は服どうしてるの?」


 話をそらすように黒姫が尋ねる。


「御安心あれ、ここにあるわ!」


 神鳴がリビングから物置に繋がる扉を開く。しかし物置にではなく神鳴の部屋である異空間に繋がっていた。

 とんでもないことしてくれたなと翔は唖然とする。


「人ん家を勝手にとんでもリフォームしてんじゃねーぞ!」


「広くなるんだから良いでしょ!」


「そういう問題じゃないだろ!」


 翔は親になんて説明したらいいんだと頭を抱えてしまう。


「神鳴?そういうのは良くないと私も思います…」


 黒姫の追撃に開き直る。


「もうやっちゃったもんねー」


 直す気はないらしい。


「仕方ないな…とりあえず服買いに行こうか。金は無いんだろ?」


「う、ごめんなさい…必ず埋め合わせはします」


 財閥の娘の埋め合わせはどうなるんだろうと好奇心と恐怖心が翔を襲う。


「えー二人だけで行くの?私もー」


 ぴょんぴょん跳ねて手を上げるが翔が物置を指差してへの字口になる。


「留守番、それ元に戻すまで許さんからな?」


 文句を言う神鳴を残してとりあえず出発する。

 駅前までやって来てから翔は優しく尋ねる。


「買うとは言ったものの…どのくらい買うんだ?」


 黒姫は自分の衣装を指差して苦笑いする。


「とりあえずこのドレスから変えないと一目が…」


 まずは一着さっさとワンピースを購入して着替える。


「…体のいい荷物持ちになる予感がするぞ」


 財布を心配しながら次々と服を購入していき翔の想像通り両手いっぱいになる。旅行中の親の残した生活費貯金が崩れていく音が聞こえてきて翔は恐る恐る尋ねる。


「く、黒姫さん?何日分買うんですか?」


「一週間…?」


「すまん!金無くなる、ドクターストップでお願いします!」


 翔の本気の顔を見て納得して最後と言って下着コーナーに向かう。


「っ!?ここは…男の入れない聖域…!」


「すぐ終わります、待っててください」


 店の前で待たされるのもキツいものがあるぞと早く終われと願う翔。言葉通りさっさと済ませてくれたのは本当に救いだった。


「ありがとうございました」


「うぅ…暫く飯代と交遊は我慢だな…」


 昼をとうに過ぎている時間まで買い物をして一段落して二人のお腹が鳴る。


「…飯か」


「安いところでも…」


 苦笑いしながら歩く二人の前に豚顔の魔物が現れる。


「あぁ、丁度良かった!今すぐ飯の金に…」


 翔が刀を呼び出すより早く死神の鎌がオークの首を飛ばす。


「…邪魔しないで」


 声色からも怒り溢れる黒姫に翔は冷や汗ダラダラになる。


「黒姫さん?いつからデスを?」


「え?あ…その、ずっと」


 神だろうが問答無用で殺しそうな剣幕からサッと元に戻り黒姫は魔石を拾う。


「翔君!これでご飯も服も…デート続けられますね!」


「あぁ、うんもうデートと隠す気も無いんだね」


 笑顔で返しながら翔はたまに君が怖く見えるよと内心で呟く。


「ディナーとか行けますか?」


「うーん、晩御飯は家で食べような…?」


 昼飯だけなと翔に言われて黒姫はムッと頬を膨らませるがダメなものはダメと注意すると諦めてくれた。

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