翔、辞退する

 乱入者を無事退けた上に大将を捕まえることに成功した翔は都合よく喋れる玉藻前と名乗る狐娘を尋問する。


「最近巷に出没してるのはお前らの世界からの攻撃ってことでいいんだよな?」


「何聞かれても話せへんよ、知らんしー」


 嘘くさい言い方に囲む面子の苛々が見てとれた。

 業を煮やした久坂が平手をかまそうと腕を振り上げるがキャラじゃないなと手を止めてきびしい表情で尋ねる。


「知らんというのは…無差別に送り込まれてるってことか?」


 何も話さないとプイッそっぽを向かれる。


「さっさと絞めて換金しちまおう、雑魚を群れで呼ぶ奴がいるとは驚きだが」


 加藤が冷静に玉藻前の危険性を訴えトドメを刺す提案をして遠藤も同意する。


「酷いやっちゃ、か弱い狐をよってたかっていじめよう言うんか?」


「聞く耳もつな、仕留めろ」


 久坂がレイピアを顔の前で構えると慌てて首を横に振って降参する。


「ほんま堪忍、ウチらの話やろ?…ウチみたいにそれなりの格ちゅうもんがあれば手下呼べる…その程度や、この世界に来たんのはおもろいもん見れる言われたからや」


 最初からそうしろと溜め息をついて黒鴉が扇子をパシッと手で鳴らして脅すように尋ねる。


「誰に?」


「…わからん、ただ暇やったしほんまにおもろいならって話に乗っただけや!ほんま!」


 黒姫がそっと玉藻前に声をかける。


「じゃあ玉ちゃんは悪さしに来た訳じゃないのですね?」


「た、たまちゃ…、まぁええか、そうや、ほんの遊び心やー」


 黒姫がナイフを取り出して玉藻前は冷や汗を垂らすが微笑みながら拘束していた縄を解く。翔以外の全員がさの行動に驚く。


「元の世界に帰りなさい、二度と来ないこと、この世界に来てはいけない事を広めなさい…」


 普段の控えめな性格とは思えないほど冷たく凄みのある声色に翔も背筋が凍る感覚がする。


「わ、わかったわ…それで助かるなら」


 酷く怯えた様子で玉藻前は簡単に次元の穴を開けて逃げ帰っていく。黒姫はこれでいいですかと姉を見つめ尋ねる。


「乱入もあったけれど試験は終わり、姉さん、いいよね?」


「え、ええ、そうね…それじゃあ…」


 先程の黒姫の剣幕にビビった三人が翔を前に突き出す。


「ワイバーン倒したのこいつだ」


「そ、そうですね」


「ふん。勝ちは譲る」


 久坂、遠藤、加藤の順に翔を認めて渋々黒鴉がめんどくさそうに祝福してくる。


「んじゃ浜松ね、あーあ、噛ませ犬のつもりで呼んだのに…えらい出世ね」


(このまま神藤グループに所属したら神鳴がうるさいだろうなぁ)


 期待通りの結果に満足そうな黒姫を見ながら翔は申し訳なさそうにする。


「神藤グループに所属するのは辞退するよ…期待してもらえて無いみたいだし」


 翔は深々と頭を下げて謝る。


「~ッ!人のメンツをどこまでも潰す気なのね!黒姫も分かってて送り込んだんでしょ!?二人とも早く私の目の前から消えて頂戴!」


 怒鳴り喚く黒鴉を尻目に逃げるように翔と黒姫は退散する。


「覚えてなさい浜松!必ず私の前で後悔させた上で土下座させてやるぅー!」


 逃げながら翔は今度は黒姫に謝る。


「せっかく実家に戻る決意したのに勘当させてごめんな…」


「そう…ですね、でもいいんです、姉さんこれで昔みたいに優しくなって欲しいな」


「無理だろ、ぶちギレだし寧ろ悪化するんじゃないか?」


 翔は背中に感じる黒鴉からの殺気にこれから因縁が続くんだろうなと半ば後悔しながら走る。


「その時はまた返り討ち、…頑張ってくださいね?」


「容赦ねぇ事言うなー」


 なんとか無事に帰宅した翔と隣の黒姫を見て喚く神鳴に事情説明し理解してもらう事には相当時間がかかるのだった。

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