神藤
約束の試験日、記載されていた集合場所のビルの前に翔はやってきていた。
「神藤ビル…か。デッカいビルだな何十階あるんだ…?」
正面から入ろうとする翔を呼び止める声がする。
「翔君、こっち…」
ヒラヒラのたっぷり付いたドレスを着た黒姫に呼ばれ裏口から入る。
「ごめんなさい、本来翔君の討伐数や成績だと正面通してもらえないから…私の推薦で話をさせてもらうね」
「討伐数や成績記録されてるのか?」
それはつまり自分でなかったらスカウト無意味だったのではと思ってしまう。
「ええ、翔君が思っているよりもシステムはしっかりしてるの…私達の知らない技術が使われてるみたい」
エレベーターに乗り会場とは別の部屋に案内される。
「あら?黒姫、その男が推薦したいって奴?ふーん…」
品定めするようにドレスを着た翔と同年代の女性が近付いてくる。
「まずは自己紹介から、
かつて黒姫が話していた姉らしい。双子というのも納得するように翔は二人の顔を見比べる。見えている範囲で口元が瓜二つの一卵性双生児そうだった。
「神藤?夜間じゃないのか?」
「それは母の旧姓、まぁ妹の推薦みたいだし実績二千円の一般人でも通してあげるわ」
二千円と強調、嘲笑しながら部屋の出入りに必要なIDカードを渡される。
「今日は私達を楽しませて頂戴ね」
言いたいことを言い終えたのか翔は部屋を追い出されるように外に出る。
「ごめんなさい、姉さんちょっとプライド高いから…」
謝られてから笑いしか出来ない翔は話を変えることにする。
「黒姫、母親の姓だったってことは複雑な家庭ってやつだったんだな」
「…私と姉さんは産まれた時から全然違う扱いで…何でも与えられた姉さんとは違って私は…母は病弱だったけど無理して私を本家から離して生活してたの、その母も死んで…」
「だから学校を辞めて…」
踏み込むにはちょっと重い話で申し訳なくなる。
「学校を辞めたのは私の意思、絶望の淵で記憶が戻って私は私の意思で今ここにいるの」
気丈に振る舞う黒姫に翔はなんて声を掛ければ良いのか悩んでしまう。結局何も言えずにそのまま試験会場と思える広間に通される。ほぼフロアぶち抜きの場所に様々な年代の男女が集まっていた。
「なんか視線集まってるんだけど?」
「私が一緒にいるからかな…一応私も令嬢だし」
「あぁ俺じゃなくて黒姫に視線集まってるのか…」
それにしては少し敵意を感じられるなと苦笑いになる。
「それじゃあまた後で」
黒姫が去ると共に会場の人間は皆視線を戻してそれぞれの会話を楽しんでいた。
(知り合いもいる訳じゃないし神鳴に状況でも報告でもするか)
入り口から少し進み壁に寄りかかりながら携帯を取り出し神鳴にメッセージを打とうとする。
「試験終了まで携帯は使用禁止だ」
突然顔の良い男が声をかけてくる。
「そうだったんですねすみません、電源切らねーと…えっと…あれ?」
声をかけてきた男性に翔は見覚えがあった。テレビに出ている有名人に似ていたが確証が無く大人しく携帯をポケットに戻す。
「先程麗しのレディと一緒に居たようだけど、ナンパが上手みたいだね君」
(黒姫は令嬢、やっぱりそういう目で見られてるのか…)
令嬢としての身分しか見ていない相手に翔は少し険しい表情をする。
「無愛想だね君、どんな縁か知らないけどあまり期待しないことだな」
(ん?何の期待?)
言い訳や説明の暇もなく何か勘違いされたまま男は去っていった。
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