誘い
高級なリムジン車に乗り込んだ翔に座席奥に座った人物が声をかけてくる。
「あなたが新しく覚醒した人…あ、かけ…じゃなくて浜松君…」
聞き覚えのある声に翔はジト目になりながら尋ねる。
「…どういうことかな?黒姫?」
紛れもなく学校を辞めたという
「えっと、その…」
相変わらずの長い前髪に目元が隠れているが困っているのは声色から読み取れて翔は優しく対応する。
「名前を呼び掛けたってことは記憶あるんだな?」
「…翔君よりずっと前にね、凄く寂しかった…」
寂しいと言いつつ落ち着いたのか黒姫は姿勢を正す。
「なんで黒服の高級車に…いや、それに覚醒ってのは…退魔士のことか」
「退魔士?…あぁ翔君はそう呼ぶのね、いいかもね」
黒姫はやはり表情が読みづらいが再開に嬉しそうに身の上を話し出す。
「私の実家がこういう感じだから…財閥?まぁそんな所、私の双子の姉が跡取りで私は母親と共に逃げて普通の生活してたの」
一つ高級車な事の疑問が解決する。
「全く知らなかった話だ、学校辞めたのも実家に戻ったから?」
「うん、そんなところかな、それで実家の都合で退魔士?のチームを作って事業をしようってなって…そのスカウトなの」
「成る程な、神鳴が言ってたのは黒姫達の事だったのか…」
財閥が財力でチームを作ってビジネスにする。理に叶っていると翔はフムフムと頷く。
「翔君が居てくれたら心強いかな…って」
黒姫は用意していたその話のチラシを手渡してくる。
「募集、試験…?」
「任意だけど、翔君には来て欲しい」
手を取り何かを訴えるように見つめてくるのを見て承諾する。財閥に就職となれば就活しなくて済むし自慢できると意気込む翔。
「何か企んでいるのか知らないが友人の頼みは断れないな、福利厚生はちゃんとしてるよな?給与どのくらい?行く時の服装はやっぱり制服?」
「翔君?これは就職とは違うと思うんだけど…」
違うのかとちょっと調子に乗った事を恥ずかしく思いながらチラシを読み進める。
「次の土曜か、行くからヨロシク」
チラシの試験日時と場所を確認して行く約束をする。
自宅前に下ろしてもらい財閥に就職という変な期待しながら帰宅する。
玄関先で不安そうにしていた神鳴が出迎える。
「大丈夫?変なことされてない?」
「スカウトの話だったよ、ほら」
チラシを渡すと神鳴が
「覚醒者の募集と試験…騙されてない?」
「でも黒姫の話だしな、断るわけにも…」
黒姫の名前を出すと何故か神鳴は怒りだす。
「黒姫!?信用する気?一番怪しい企業チームじゃない」
「企業チーム?組織化ってこの企業が運営してるんじゃないのか?」
なんでそんなにムキになるんだと翔は報酬の良さを主張する。
「バカね、組織化ってのは有志のチーム活動なのよ、企業とかも確かにあるけど基本的には違うわよ!…中抜き怖くないの?」
「八坂は個人みたいだが、ふむぅ…」
魔石の処理面倒臭いしと翔は思い悩む。
「企業系なんて真っ黒でヤバい事になるわよ、黒姫には悪いけど断りなさい!んで私達でチーム立ち上げ!」
「行くって言っちゃったしまぁ説明だけでも…」
就職の可能性に希望的な口振りの翔は呆れ顔の神鳴に謝りながら次の土曜を待つことにする。
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