試験

 暫く待っていると黒鴉がマイクを握り舞台の上に立って挨拶を始める。


「ようこそ覚醒した皆様。私は神藤黒鴉、神藤グループの次期代表。本日は日本、ひいては世界の危急存亡の秋に備え我々神藤グループの新規事業にご応募いただきありがとうございます」


 壇上には他に黒服の男達が睨みを効かせていた。

 緊張と期待の入り雑じった空気に翔も流石大企業と緊張する側に立っていた。


「皆様は優秀な成績を納めた各地域の精鋭、是非頑張ってくださいね」


 会場では詳細の説明は特に無く審査の過程でランク分けは既にしているようで試験を行うためと幾つかの班分けを行われ翔は三人の男性と共に黒鴉に連れられて地下の駐車場に連れてこられ黒い服の人達から説明をされる。


「遠藤様、久坂様、加藤様、あと浜松様は別会場です」


 メンバーの中には先程声をかけてきた男もいた。


「別会場?ふはは、特別待遇か!」


 筋肉質な大男が嬉しそうに用意された高級車に乗り込む。


「無愛想な君もか…成る程ね、俺は久坂健吾くさかけんご、俳優やっているんだ、ヨロシク」


 久坂と名乗った男は口だけの挨拶を翔にして大男に続いて車に乗る。残った細身の眼鏡の男性が翔に挨拶する。


「君とは挨拶してなかったね、若いね、多分浜松君かな?僕は遠藤貞光えんどうさだみつ、お互い何が待ってるか分からないけど頑張ろう」


(ということは残った大男が加藤か)


 歳上な男達に翔も遅れないように車に乗り込む。車内は終始ピリピリした空気で息苦しさを覚える。

 暫く走って到着した先は一軒の豪邸だった。広い庭に黒服の案内で移動すると縁側で黒鴉が仁王立ちして四人揃ったのを確認して堂々と宣言する


「貴方達の実力を知った上で一番難しいテストをするわ!」


 黒鴉は手を叩くと結構大きい魔石を黒姫に持ってこさせる。


「ま、一人実績二千円のお馬鹿も居るみたいだけどどうしてもってお願いだから、死なないでよね?」


(それ今言うかぁ?)


 男達の目線が翔に集まる。


「はぁ?っち、足引っ張るなよ」


「てっきり裏で稼いでた凄い人だと思っていたよ」


 特に加藤と遠藤は微妙な表情で翔を見てきて顔から火が出そうな程恥ずかしい思いをさせられる。


「一番の働き者には顔役になってもらわないといけないからね、末永く支えてもらうためにも…黒姫をあげるわ!」


 何を言っているのかと翔が言おうとするが男三人は財閥の一族になれると知って歓喜の声をあげる。翔は一人酷い話だと黒鴉を睨む。


(黒姫…こうなること知って俺を呼んだのか…)


「じゃあ行くわよ、魔石は使い方を知っていれば魔物を呼び出すこともできるのよ」


 黒鴉は大きい魔石を投げようとするが諦めて転がして叩き割る。

 すると石はヒビから光を放ち中から大きな飛竜が現れる。


「コイツは、中々にヤバい感じじゃねぇか?」


「ワイバーンってやつか…日本じゃ未確認じゃないか?」


 久坂と遠藤は逃げ腰になっていた。

 鼻を鳴らし加藤が勇猛果敢に拳で立ち向かうがひらりと宙を舞う飛竜を捉えられずにいた。


「上位ランクでも厳しかったかしら…飛行型なのは不味いわね…黒姫に任せようかしら」


 中身までは知らなかった黒鴉が指を噛みながら恨めしそうに飛竜を睨む。


「なぁ黒鴉、あれ倒せばいいんだな?」


「は?アンタは茶番の為に…」


(確か神鳴の話じゃ武器呼べるんだったよな?…恥ずかしいし氷雨が呼べるか分からないが使えればアキトさんみたいに…)


 翔はダメもとで焰鬼と氷雨を呼んでみる。


「焰鬼!氷雨!」


 二本の刀が手元に現れ手に取り腰に携える。


「あれ一体で数十万か…神螺倒す前の俺ならビビっただろうけど…アイツに比べたら勝てる自信しかないな!」


 翔は三人を飛び越え氷柱を飛ばし飛竜の動きを制限させながら氷の足場を作り焰鬼の一撃を当て飛竜を燃やす。


「ふぅ、ぶっつけ本番で上手く行くもんだな!」


 全員から色んな感情の混じった熱い視線を向けられて翔が自慢気に手を振る。

 悠々と飛竜は魔石になりそれを拾おうとする翔だったが目の前を何者かが素早く通り過ぎて妨害され魔石を奪われてしまうのだった。

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