再開と噂話

 学校にて

 記憶の戻った翔には久しぶりの学校だがなんというか違和感が凄かった。


(ある程度の学業の知識は残っているが周りの髪色とか違和感あって集中できねぇー)


 クラスが変わった事で異世界に一緒に行った面々とは離れ離れであった。


(とりあえず河内がいいか、最初の休み時間に話してみよう)


 休み時間になって廊下で河内智樹かわち ともきと合流する。


「翔か、急に呼び出すなんてどうしたんだ?」


(呼んだはいいがなに話すか考えてなかった…)


 以前の記憶通りの姿のままで少し安心する。


「三年生になって今後どうするか不安になってさぁ」


「それ僕に言われてもな、まぁお前平均的だから大学とか大変だろうしなぁ」


 何気ない辛辣な言葉に翔は渋い顔をしてしまう。


「だ、だよなぁ…?じゃあ恋関連は?なんか噂ない?」


 唐突な無茶振りに腕組みして怪訝そうな目をされる。


「僕は情報屋じゃないんだが…女子の噂じゃないが番長の八坂ってヤツが昨日街で着ぐるみと殴りあいしてたとか変な噂がクラスで話題になってたな」


 着ぐるみと聞いて翔は違う違うと内心ツッコミしてもう一つの気掛かりな方に話を変える。


「八坂?誰だ?」


八坂仁やさかじん、喧嘩自慢の三年、お前のクラスだろ?」


 聞き覚えのある名前、その微かな可能性に神鳴のそれなりの立場という言葉を思い返す。


(ジン?まさかな…)


 ちょうどチャイムが鳴り二人は解散する事になる。


(河内は多分記憶消えたままか…次は猪尾だな)


 次の休み時間に猪尾忠俊いのお ただとしと会う。


「おー、翔、呼び出しなんて珍しいな、放課後遊ぶか?」


「それもいいんだが、ちょっと噂とか知ってたら聞きてぇと思ってな」


 河内の時と同じように聞いてみる。


「噂ぁ?うーん…最近街でヒーローショーが無差別開催してるとか?見たこと無いけどな、生徒の中に見た奴いるらしい」


 見た側の翔はショーじゃないんだと言いたい気持ちを圧し殺す。


「他には?生徒の噂とかでも」


「あ!さては女子の話だなぁー、恥ずかしがり屋めー、餅は餅屋、女子のヘッド呼んでやるよ」


「あー、いやそういう訳じゃ…」


 勘違いされて翔は必死に首を横に振るが更に勘違いされる。


「オレに任せとけって!」


(あーもう!猪尾も記憶戻ってないのか…)


 更に次の休み時間、廊下では西園寺晴さいおんじ はるが待っていた。そうだよなと微妙な顔で挨拶をする。


「誰かと思ったら浜松か、え?マジ?告白?」


「ちっげーよ、噂話とか詳しそうって思ってな女子のネットワークも気になってな」


 取り敢えず適当に理由を付けて話を変える。


「噂話なんて集めて何するのよ?新聞部じゃああるまいし…」


「街のヒーローショーとか知ってるか?」


 今までの反応を元に質問を組み立ててみる。


「あー、あんたのクラスの八坂が居たって話?本人に聞いたら?」


「そうか、西園寺もダメか…」


 取り敢えず今までの記憶が無いことが分かり落胆する。


「ダメって何よ!来て損したわ!」


「言い方悪かったって、そういえば占い好きの子居たよな?」


 記憶無いなら次は黒姫だなと西園寺に頼もうとする。


「あー、夜間さん…知らないの?学校辞めたわよ?」


 瞬間翔の思考は停止して目を丸くして固まってしまう。


(は?辞めた?黒姫が?…なんで?)


「ふーん、浜松ってああいう子が好みなんだ」


「え?なんでそういう事に…」


 西園寺は面白がって顔に出てるわよと言いたげに指差ししてくる。


「べっつにー、情報要求だけなんてズルいじゃない?」


「いや、悪かったな時間使わせて」


 ニヤニヤしながら西園寺が去っていく。


(なら最後に噂の張本人に話すしかないな…)


 昼休みに噂の八坂と話してみることにする。

 黒髪ツンツン頭、黒の国の王子だったジンと思える人だった。


「えっと、浜松だっけか」


 八坂のぶっきらぼうな雰囲気に翔は困惑しながら話をする。


「街で怪物退治してた噂についてなんだが…」


「…あぁアレか、噂信じてるのか?」


「いい金になるって聞いてな、王子様にははした金だったか?」


 敢えて王子と口にして匂わせで本人か尋ねてみる。


「へぇ、記憶戻ったって訳だ、あの神様の話聞いたのか?」


「やっぱりジンか、記憶戻って皆と話噛み合わなくて辛かった」


 実際異世界でも会話殆んどしていない相手だったが今は心強い味方に見えた。


「んで?お前も金稼ぎするならライバルだ、話すことねぇ」


 しかし残念ながら突き放されて翔はショックを受けてすがる思いでごますりする。


「仲良くしようぜ番長さん」


「気持ち悪いな、全員記憶無いからここらは俺の稼ぎ場だったのによぉ…邪魔するなよ」


 仲良く出来そうにない雰囲気に今日何度目かの肩を落とす。


(あとはミナだが…ジンのこの様子だと記憶無いで学校内か場所すらわからないか…)


「じゃあな浜松、邪魔するなら拳で語り合うことになるからな」


 流石に喧嘩はしたくないと謝りながらその場を後にするのだった。


(あの様子じゃお仲間ってのは無理そうだな…)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る