五、八朔を食べながら

 一通りパソコンのウィルスチェックやら、悪質なソフトの除去、主要なサイトのパスワードとかを変更し終えて一息つく。色々とパソコンの中のデータも調べたが、具体的な被害は取り消しできたAmazonでの買い物だけだった。

 まあ、クレカが再発行になるので、各所の支払方法を変更していくという煩わしい作業は残っているけれど。


「今日はほんとにありがとうね」

 

 ちょっと元気が出てきたのか、母がいつのまにか八朔を剥いてくれていた。少し酸っぱくてほんのりした苦味が美味しい。そういえば、よく剥いてもらったなあ、こんなふうに保存用のタッパに大量に。そして剥いてあって食べやすいのでパクパク食べてあっという間に無くなるのだ。

 

「いやいや、まあ被害が無くてよかった」

 

 八朔を食べながら、本来ならこういった詐欺のリスクの少ないタブレットなどを使うように言い含めた方が良いのかなぁと思った。パソコンは便利なんだけど、使い方次第で結構危険もある。今日みたいに。


 けど、町内会の配布物を作ったり、ネットで買い物したり、嵐のオンライン配信を見たり、ゲームしたりと、母なりに楽しんでいるのを知ってる。

 これを取り上げるのはちょっと出来ないと思った。

 幸いにも、職場からでも自宅からでも実家まで一時間ほどの距離だ。何かあったら今回のように駆けつけよう。

 

「またこういうことがあったらどうしたらいいの?」

「そうやなぁ。まずは一切相手にしないことかな。あとは、ネットの回線を切断する。パソコンは電源を切る」

 

 母は手帳を開いて熱心にメモしていく。パスワードやらソフトの操作方法などがたくさん記載されている手帳だ。これまでも、私が何かをレクチャーするたびにここに書き込んでいた。

 

「とりあえずは、ぼくに連絡するように。遠慮しなくていいから」

 

 母の手元をみると『ようにれんらく』としっかり書きこんでいた。この歳でもこうやってステップアップしようとするのなら、協力しなきゃな、と思うのだった。


 八朔はやっぱりその場で食べきった。


 ◆


 結局、このあとは仕事に戻った。

 実家での滞在時間は二時間ほどだっただろうか。ほんとうに実家が近くて幸いだったし、私が対処できる範囲の被害で良かった。

 

 せっかく便利なツールとして浸透しているパソコンなんだけど、やっぱりこうやって悪用する人は跡を絶たず、しかも巧妙になっている。腹立たしい。


 実際に電話しちゃったケースはなかなか体験できない(したくないけど)ので記録の意味でも今回はこのような形で公開しました。

 誰かの、何かの役にたててたら良いな。

 


 本編終わり

 おわりに、に続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る