四、Amazonのサイトはログインしっ放し
島本の実家は電車の最寄り駅からはバスで三十分ほどかかる。できればその時間は短縮したいと思い、父親に車で迎えに来てもらうことにした。
「父さん、ありがとう」
「いや、こっちこそ悪いな」
「いいんだけどね。母さんは?」
「なんか買い物に行ったで。多分、果物買いに行ったんやろう」
父の運転する軽自動車の助手席に座ってポツポツと話す。私が来るということでひとまず安心したらしく、孫(私の息子)へのお土産に果物を買いに行ったのだと。いや、遊びに来たんじゃないのにな。まぁもらうけどさ。結構な緊急事態だというのに、切り替えの早いこと。それだけ頼りにされているなら悪い気はしないが、なんだかなぁ。
どうやら母がコンビニに走ろうとしたときに、私に電話するように言ったのは父だったらしい。
「なんか慌ててコンビニに行くって言うから、とりあえずおまえに連絡しろって」
コンビニに行ってたらギフトカードを買わされて、裏面のコードを伝えることになっていたところだ。父、グッジョブ。
◆
「わざわざ来てもらってゴメンネ」
「いや、まぁ仕方ないよ」
実家に着くと母は買い物から戻って来ていた。
オレオレ詐欺などの特殊詐欺は各所で啓蒙されているのになんで引っかかるんだろう。ここに来るまでには、そういう思いもあった。けれども、思っていた以上にしゅんと肩を落としている母の姿を見ると、責めようという気にはなれなかった。そもそも、悪いのは詐欺を働く輩だし。
とりあえず、パソコンを確認しようということになった。何が起こったのかを確認し、また使える状態に戻さなければならない。それと、どんな被害に遭っているのか、だ。
電源を立ち上げると、画面一面にLINEの写真でも送られてきた警告画面が表示された。ピーピーと警告音も鳴り響く。とりあえずはWiFiの接続を切っておく。このあとの被害を抑えるためだ。
ちょっと詳しいと対処もできるが、いきなりこうなったのでは確かに焦るだろうと思った。画面いっぱいに表示されていて、キー操作も受け付けないし、アラート音はとても耳障りだ。
一見システムの警告表示のように見えて、実はブラウザのページを最大化しているだけなので、ショートカットキーを使いながら表示を戻していく。ずっと鳴りっぱなしだったアラート音も消えて、母は見るからにホッとしていた。
不要なプログラムがインストールされていないかを確認すると、案の定リモート操作のソフトが入っていた。なるほど、このソフトをインストールさせて、外部から画面を色々操作したようだ。もちろん、削除。
ブラウザのキャッシュやらCookieやらを削除しようとして、ふとブラウザの閲覧履歴を見てみる。どこでサポート詐欺のページに飛んだのだろうか、と思ったのだ。
「おっとアカン。Amazonで買い物されてるで」
閲覧履歴をみると、Amazonのサイトにアクセスした形跡があった。わざわざ言語の表示を英語に切り替えて、買い物をしたようだ。Amazonのサイトを開いてみると、言語表示は英語のままだった。
購入されていたのはAppleのギフトカードを五万円分だった。ご丁寧に、購入履歴を非表示にして見つけにくくしてある。いやらしい。
「え? どういうこと?」
「遠隔でこのパソコンを操作されてたので、Amazonのサイトに行ったら母さんのアカウントでログインされた状態なのよ。だから、登録された支払いカードでそのまま買物できちゃう」
「キャンセルできるの?」
「うーん、どうだろう」
調べると、最近のギフトカードはアカウントにチャージする形式のものが多いので、発行してしまうと返金は無理のようだ。一日に購入できる金額上限が五万円だったためそこまで購入されてしまった。考えようによっては、上限があって助かったとも言える。
「まぁ、勉強料と思うしかないかな」
このあと実は運の良いことにアマゾンジャパンのサポートから電話がかかってきた。急に高額のギフトカードを購入されていて、送信先が海外のフリーアドレスだったために、本物の注文なのかを確認してきたのだ。Amazonプライムのクレカを停止してもらうように電話したのも良かったのかも知れない。
最近、こういったサポート詐欺はやっぱり流行ってるようで、怪しい注文はシステムが確定せずに一旦保留するようになっているということだった。
もちろん今回の注文は詐欺にあったということで、取り消しを受け入れてもらえて、五万円の損害は無かったことに。
ありがとう、Amazon。これからも便利に使わせてもらいます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます