とり合わない【KAC20246】

郷野すみれ

第1話


「そういえば、地元帰って報告しなきゃじゃね?」

「ああ、そうだね」


何やら遊びに行っていた卓人が帰ってきたらそんなことを言い始めた。お気に入りの鳥のぬいぐるみを弄びながら答える私の左手の薬指には、シルバーの指輪が光っている。


卓人とは、幼稚園、小学校、中学校、高校と一緒だったため、ある程度まとめられるにしても共通の知り合いがすごく多い。


仲の良い数人と繋がり、連絡を取り合っている私とは真逆で、卓人はかなりの人と連絡を取り合い、帰省のたびに会っているくらいだ。


どうしてもう少しで夕飯という今、急に言い出したのかもわからないが。


「やっぱり結婚式挙げない? 地元で」

「却下」

「なんで話を取り合ってくれないんだよー」

「挙げなくていいって言ってるじゃない。さては、この間、大学の山口君の結婚式に参加して羨ましくなった?」

「うっ……」


単純な卓人のことだ。目をあからさまに逸らしているが、バレバレである。そして、卓人は転職先で慣れてきて余裕が出てきたから考えられるようになって……という流れだろう。


「挙げたって私側の知り合いほとんどいないよ。まあ、地元だったら親戚は来るけど」

「俺が佐紀子のウエディングドレス姿を見たいから、もう少し考えてほしい」


不意打ちで、一瞬口ごもる。いつまで経っても慣れないし、こういうところ、他の子にモテたんだろうなーと考えてしまう。


結婚式に気が進まない理由の一つはここで、小中とか特に、女の子達の初恋キラーになっていそうで怖い。さらに、成績は中の上の目立たない私が相手だと知った時に嫉妬が向けられそうでもっと怖い。


私は、珍しく自分から卓人にくっつきに行った。


「ん? どうした?」

「なんでもない」


なんとなくバレている気がするけど、別にいい。


「夕飯どうする?」


照れ隠しに言った言葉で全てをわかったらしい卓人が笑う。幼馴染はこういうところが筒抜けで嫌だ。


「とりあえず、焼き鳥でも食いに行かね?」

「却下!」


私たちの攻防戦は、しばらく続く。

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