襲撃


「…どうした?大丈夫?」

 暗い顔をしていたイブキを心配するアム。

 イブキは、はっとしてすぐにいつもの仏頂面に戻る。

「別に、何でもない」

 「そっ、…助けてもらって何だけどさー、やっぱりさっきの森に戻るわ、私」

「そうしたければすればいいよ、おせっかいして悪かったね」

「ううん、嬉しかった。まだこんな花御子がいたんだってね」

「こんなって?」

「自分の身の危険を省みずに、目の前の相手を救える花御子」

「……」

 アムは屈託のない笑顔でいう。イブキは何も言えなかった。自分で言うのも何だが、イブキのような花御子は少ない。ほとんどの花御子が人間のために魔物と戦うことを放棄し、己の保身ばかりを考えている。花姫にさえ愛されていれば、永遠に良い暮らしができるからだ。

 だから、あえてイブキのように面倒ごとに首を突っ込んだりはしないのだ。


「イブキに会えて良かったよ」

 ニカっと歯を見せて笑うとアムは再び、「じゃあね」と山猫の森の方へと歩き出した。その後ろ姿になぜかイブキは寂しさを覚える。

「ねぇ!」

 理由なんてないのに、つい呼び止めてしまった。

「なぁに?」

 アムが振り返って首を傾げる。

「…あ、えっと。……やっぱり、何でもなかった。」

「ふは、何だそれ」

 しどろもどろなイブキを見て顔を緩めるアムの後ろに、大きな影が重なる。

山猫だ。

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