よいこ


「……」

 奇妙な静寂が2人を包む。広い草原の中で抱き合う2人。しかも、抱きしめられる側の方が身長が高いので体勢がキツそうだ。だが、別にアムの腕の中から逃れようともしなかったので、アムも特にイブキを離しはしなかった。

 腕の中で大人しくなったイブキにアムは再び質問を始める。

「…そうだ。君、名前何て言うの?」

「…イブキ」

「いい名前だね、覚えておくよ」

アムがイブキの柔らかい髪を撫でながら、そう答えると、イブキは顔を上げた。

 元のスンとした顔に戻っていたので、アムは再び先ほどの質問の続きを始める。

「…えっと、落ち着いたかな?さっきの続きなんだけどさ」

「そうだよ、私は森の魔物を倒した。それもたくさん」

 イブキは間髪入れずアムに答える。先ほどまで泣きじゃくっていた人物とは思えないほど、凛とした態度だ。

「だから、地上に追放するなり、花姫の前に連れて行くなりしなよ」

元からその覚悟はしていたのだ、別に罰は怖くない。イブキはアムを睨む。

「まさか!」

 だが、アムは首を横にぶんぶんと振った。

「誰がそんなこと!」

目をこれ以上無いくらいに輝かせてイブキの両手を握るアム。

「イブキは最高のワルイコだよ!」

アムの眼差しがイブキを掴んで離さない。まるで、迷子が親を見つけた時のような希望と安堵が感じられる。

 イブキは思っていた反応とは違っていたので「はぁ…」と曖昧な相槌を打ってただただ困惑するしかなかった。

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