涙
やはり、バレていたのだ。自分が恵殿の反逆者だということは。さすがに山猫以外の魔物全てを倒すのはやりすぎた。せめて、半数以上で止めておくべきだったか?
くそ、完全に油断していた。そうか、この森に不思議と魔物がいなくなったから、この機会を逃すまいと山猫を倒しにきたのか。恵殿にとっていつまでも山猫などの低級魔物に気を使ってはいられないから。
つまり、自分は泳がされていた。
結局は花姫の手のひらで転がされていただけなんだ。
エマの満足げな笑みが自然と脳裏に浮かんでくる。
イブキは途端に、自分が今まで魔物を倒すことで感じていた達成感も、自分が花姫に抱いた反抗心も、その全部が台無しにされてしまった気がした。
その思いが涙として溢れてしまった。
「……ぐすっ」
「!?」
突然泣き出したイブキに驚くアム。
「えっ、え〜?!なんで?ワルイコって言われたのそんなにショックだった?」
口元に手をやり、アワアワとイブキを見るアム。
「…っうぇ、ごめ、なさ、い……ぐすっ」
「え?」
「すこしでも…ヒック、はなひめを…グスッ…こまらせだぐでぇ…」
イブキはしゃくりあげながら泣いた。
「は?」
「…あなた、恵殿の使いなんでしょ?」
ズビッと鼻を啜りながらイブキは言う。涙で視界がぼやけているが、口をあんぐり開けるアムが見えた。
「…ん〜?どういうこと?私、人間だってば。さっきから言ってるじゃん」
「だって、森の魔物を倒した私をワルイコってぇ…、それに、あの力…」
「お〜お〜お〜、よしよしよし。落ち着いてぇ」
再び泣き出しそうなイブキをアムが抱きしめて、背中を優しく撫でる。
イブキは生まれて初めて誰かに抱きしめられたので、少し気恥ずかしかったが、それ以上に気持ちが混乱していたのでアムを拒むことはしなかった。
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