暇つぶし
イブキは、恵殿で生まれてからずっと疑問に思っていたことがある。
この世界における恵殿の在り方についてだ。
花御子は魔物を退け、人間を守る存在。
生まれる前、恵殿の土の中でイブキは幾度となくこの声を聞いてきたから、きっと自分もそんな存在になるのだろう。
そう思っていたが、実際は違った。
花御子は種族に関係なく恵殿に反するものを退け、人間ではなく恵殿を守る。
恵殿にとって魔物だろうが人間だろうが関係ないのだ。恵殿に従うなら守る。邪魔するなら、消す。
それがこの世界のルールだ。
そしてその恵殿を統べるのが、花姫エマである。
エマは時に無理難題を言ってよく周りの花御子を困らせては、その反応を楽しんでいるようだった。イブキもその中の一人であった。
『自分は花姫の衝動的でくだらない願いを叶えるためだけに、生まれてきたのだろうか』
いつしかイブキは段々と、この世に対して希望を持てなくなっていた。自分の人生全てが花姫に支配されているようで、何もしても心が満たされることはなかった。
だから、少し反抗してみたくなったのだ。
どうせすぐにバレてしまって、花姫は取り乱し、自分をお気に入りから外すだろう。いや、もしかしたら恵殿を追放されてしまうかもしれない。
どちらにせよ、イブキにとって困ることではない。それに、恵殿に反抗することは退屈を打ち壊す究極の暇つぶしだったのだ。
初めて魔物を倒した時、イブキは心の底から笑いが出た。花御子としての本能なのか、それとも花姫に反抗してやったという思いからか、満たされた気持ちになった。
それから数年、イブキの行為は誰にも気付かれることなくついに山猫以外の森の魔物を全て倒してしまっていたのだ。
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