目的
「ごめんなさい、つい高揚してうっかりしてたんだ。…本当に何もない?大丈夫?」
声を震わせながら縋り付いてくるイブキに、やれやれと頭をかくアム。
「大丈夫。私、人間の中でも突然変異だから。……というか、君の中で私はまだ人間に分類されてたんだね。さっき、あんな場面まで見たのに。」
アムが本当に何ともなさそうだったのでイブキは落ち着きを取り戻す。念の為、自分の活動に支障が出ない程度に花羽を閉じた。
「だって、魔物には見えないから」
魔物にしては、あまりにも威厳が無さすぎる。と言いかけてやめた。アムがあまりにも嬉しそうな顔をしていたからだ。まるで花が綻ぶような笑顔で、イブキは何だか恥ずかしくて目を逸らした。
「そんなこと言ってくれる人初めてだ。」
「そうなの?」
「うん。普段はバケモノとか、悪魔って言われる」
「…へぇ。もっと感謝されてもよさそうなのに。…だって魔物を倒して旅をしてるんでしょ?」
アムと山猫との会話をふと思い出す。
「まぁ、感謝されたくて魔物倒してるわけじゃないし、いいんだけどね。」
「じゃあ、何のために倒してるの?」
すかさずイブキが質問する。やっとアムの本質に触れそうな話題が出た。目を輝かせるイブキを見て、アムは少し考えた後に口を開いた。
「…宝探し」
「宝探し?」
「綺麗な宝石をね、探してるんだ」
「…はぁ。」
何だか、うちの花姫と同じ事を言っている気がする。
イブキは生まれてこの方、宝石や装飾品といったものに興味がない。だが、イブキが仕える恵殿の花姫は、異様にこういったものに執着している。欲しい宝石の代わりに魔物の安全を保証するほどだ。イブキは内心、花姫を軽蔑していた。アムも案外同じようなクチなのか。
「命をかけてまで探すなんて、よほど価値のある宝石なんだろうね。私には理解できないな、そんな石ころのために命張るなんて」
こんなに無害そうな雰囲気をしているが、結局は己の欲のために行動しているだけに過ぎない。もしかしたら、宝探しと銘打って人間も何人か襲っているのからバケモノなどと呼ばれるのではないか?何だか拍子抜けしてしまった。
イブキはそんな思いから、つい冷たい口調でそう言い放つ。
アムはそんなイブキを気にする様子はなかったが、目を伏せて何かを思い出しているように言う。量の多いまつ毛がアムの瞳を隠してしまった。
「うん。形見なんだ。…大好きな人の。」
「…ごめん。」
「別に!謝らなくていいよ。確かに元は石ころなんだし。」
イブキは自分が恥ずかしくなり、もう何も言えなくなった。アムといると調子が狂う。恵殿で他の花御子と話すときはこんなに不器用では無い。
誰かと会話するのに、こんなに労力を使うことはイブキの人生史上初めてのことだった。
「たぶん、どこかの魔物がもってるはずなんだ」
軽くダンスでもしているように、ひらひらとその場でまわりながらアムは明るく言う。
「だから私は魔物倒してるの。周りからなんて言われようと私はやめない。絶対に負けてやらない。」
イブキの目の前で止まり、挑発するような目線を飛ばす。イブキは目を逸らすことはおろか、その場からピクリとも動けずに、ただアムを見おろすしかできなかった。
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