動揺
「ね〜え?ちょっと、花御子さん?私をどこまで連れていくつもり?」
大人しくイブキに抱かれながら、アムは問いかける。上空を結構なスピードで飛んでいるというのに呑気な態度だ。
しかもこの人間、小柄な体格なので軽い。しっかり支えていないと落ちてしまいそうでヒヤヒヤする。
「うるさい!あいつから逃げてるんだよ!」
こっちは色々考えているのに、飄々とした態度につい苛ついてしまう。まだ気分が高揚しているからかもしれない。
「別に逃げなくったって…、というか君、森の入り口からずっと私をつけてたよね?何?ストーカー?もしかして今私誘拐されてる?」
アムはイブキを揶揄うようにケタケタと耳元で騒ぐ。こいつ、最初から気づいていたのか。
だいぶ森から離れた所でイブキは地上に降り、アムを適当に地面に転がす。
「おわっ!ちょっと!もっと丁寧に扱ってくれないかなー、これだから最近の花御子は…」
ぶつぶつ言いながらアムは服についた土埃を払う。
「あなた、何者?」
イブキは率直に問いかける。下手に遠回しに聞くと、このタイプはきっとはぐらかす。そう思ったからだ。
アムはその質問に特に表情を崩すことなく、はっきりとした笑顔で答える。
「私はアム。」
違う、そういう事を聞いたのではない。名前ならもう既に知っているし、この状況と質問で名前を答える馬鹿がいるのか。イブキはゲンナリした。
真っ直ぐとイブキを見据える自信に満ちたその瞳は、呆れた顔をするイブキをはっきり映していた。
「アハハ!そんな顔しないでよ!」
何がそんなにおかしいのかアムは、イブキの腕を叩きながらゲラゲラ笑う。初対面なのに馴れ馴れしい奴だと、イブキはうんざりもした。
「もういい」
さっきの自分の感動を返してほしい。いや、感動でもないな。きっと、動揺だったんだ。
あまり関わると面倒なやつだと思い、アムの手を払ってそっぽを向く。
「ぶぇっ」
イブキが急に反対を向いたので、花羽が思い切りアムに激突する。その光景を見てイブキは一気に肝を冷やす。
「あっ…!」
「いったー、何?他人との距離感掴めないタイプ?」
鼻を押さえながら、憎まれ口を叩くアムを見てイブキはひとまず安心する。特に先程と変わった様子はない。だが、直接花羽に触れたのだ。何も無いはずはない。とイブキは恐る恐るアムの顔に触れる。
「…何、どうした?そんなに心配しなくても別に痛くないよ?普通に花でしょ、それ。」
アムは咲かせっぱなしのイブキの花羽を指差す。
「違う!だって、これは…!」
イブキは思わず大きな声を出す。アムは面食らった表情だが、ふと合点がいった顔をした。
「…あぁ、そうか。そういえばその花って…」
「…そう、毒なんだよ」
イブキは震える声でアムの言葉の続きを言った。
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