逃走
「おー、出てきた出てきた。」
自分よりひと回りもふた回りも大きい山猫と対峙したその人間は恐怖することもなく、あっけらかんとしている。むしろ、面白がっているようにさえ見える。こいつは一体なんなのだ?
「ダレダ、オマエは?」
ゼイゼイ言いながら山猫は脇腹の辺りから血を流している。先ほどの攻撃でやられたのだろう。
「私はアム。訳あって魔物を倒しながら旅をしてるんだ、けど……いや〜、それにしても生きてるとは、驚いた。結構丈夫な体してるんだね」
アムという人間は、顔に浮かべた笑顔を崩すことなく堂々と名乗ると、山猫にヒョコヒョコ近づいてバスバスと傷口あたりを叩く。やっぱりただの世間知らずなのだろうか。
山猫は髭をヒクヒクして顔を引き攣らせている。こんなに無礼な態度をとる人間が初めてなので対応に困っているのだろうか、それとも脇腹が痛いのだろうか。まぁその両方だろうが。
「コノオレが山猫リンクとシッテのコトかァァァ!!!」
ついに、山猫が鋭くて硬い爪をアムに向かって振り翳す。
まずい!いくらあの人間が不思議な力を持っていても、あの攻撃をまともに喰らえば怪我じゃ済まないだろう。
イブキは咄嗟に近くの葉っぱをちぎって力を込めると、アムと山猫の間に向かって投げた。
その葉が山猫の爪の先に触れると、バチっと鋭い電流が山猫の全身に走った。ほんの一瞬だが、山猫の気を逸らすには十分だろう。花御子が使える不思議な力だ。
「逃げるよ!」
「えっ、ちょっと!なんなの!?」
山猫が身を捩らせた隙に、イブキはすかさず飛び出すと困惑するアムを抱えて森を逃げ出した。
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