出会う


 やはり、人間は山猫の住む洞穴の前で歩みを止めた。そして、片腕をまっすぐ洞穴に向かって伸ばし、指をさした。

「…?」

 一体、何をしているのだろう。イブキはこの人間の一挙一動を見逃すまいとしていた。一瞬、ピタリと風が止み、森のざわめきが消える。

「ばん!」

 その人間はそう叫ぶと、指の先からまるで弾丸のような凄まじい衝撃波が放たれた。「ギャア」と山猫の悲鳴が奥から響いてきた。

「えっ」

 イブキは突然の出来事にその場から動けないでいた。

 一体何が起きたのか。あの人間はやはり魔物だったのか?でもなぜ山猫を狙う?何が目的で?色んな疑問がイブキにまとわりつく。

 声に気がついたのか謎の人物が振り向き、イブキと目が合う。先ほどの衝撃波で頭巾が取れていたので顔が見えた。

 真綿のような髪に、ツンとした小さい鼻。目は夜の湖面のようで、目に入るもの全てを反射していた。

 イブキはその瞳に不思議な高揚感を覚えた。生まれて初めて味わう感覚だった。呼吸が止まっているのか、心臓がやけに脈打つ。

 きっと、衝撃的な場面を見たせいだとイブキはゆっくり呼吸して心臓の鼓動を落ち着かせる。魔物に立ち向かう人物なんて初めて見たのだから。しかも、恵殿の許しを得ている魔物にだ。いや、ただ山猫と恵殿の関係を知らない世間知らずなだけなのかもしれない。

 すると、地獄の底から響いてくるような声が洞穴からした。山猫の声だ。生きていたのか。

「ダァレダアアアア!!オレのネムリをサマタゲタノハァァ!!!」

 ドスンドスンと荒々しく地を鳴らしながら、この森の主が出てくる。花御子の自分が見つかってしまうと色々まずいと思い、イブキは木の影にサッと身を隠した。


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