予感
この森は山猫の魔物をボスとして、様々な魔物がお互いの領域を侵さないように住んでいる。そのほとんどが夜行性のため昼間は中々姿を現さないが、夜になると人里に降りて狩りを始める。
もちろん、この行為は人間を危険な目に合わせているので花御子の討伐対象である。だが、一体どこから情報を仕入れたのか、山猫は昔、恵殿の花姫が求めてやまなかった宝石を献上したのだ。
その見返りに恵殿は、今でも山猫達の所業を見逃している。この事は多くの人間に知られている。
だから、この森には誰も近寄らない。もし魔物に襲われても花御子は素知らぬふりをするからだ。
「…なにやってんだか。」
イブキは小さなため息をついて、あの人間に見つからないように木の上から見守る。相変わらずイブキに気づく様子はなく、どこかを目指してずんずん進んでいる。
この森のルールをイブキはもちろん知っているし、他の花御子も同じだ。この森に近づいても何もすることがないのでイブキ以外の花御子は誰も近寄らない。
それにしても、この人間はどこに向かっているのだろう。この先は山猫の棲家しかないが。自殺志願者なのか?
それとも人間ではなく魔物なんだろうか。頭巾を被っているので、上からだと顔がよく見えない。だが、身体的特徴はどこから見ても人間だ。それに、魔力を少しも感じない。この距離でも普通の魔物であるならば、かすかに魔力を感じるはずだ。
イブキは下に降りてその人間に忠告することも考えたが、既に森の中に入ってしまっているので、他の魔物に見られて、山猫に告げ口されては困る。それに、過去に自分と出会った人間達の様子を思い出し、降りることをやめた。
人知れず葛藤するイブキに対して、相変わらずその足取りに迷いなく森の奥に進んでいくその人間は、イブキに奇妙な好奇心を抱かせた。この人間の行く末が見てみたい。何故かこの人間には惹かれるものがある。イブキは目が離せなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます