くらばど!(crush on bud!!!)

与作

イブキ、出会う

退屈

恵殿〈エデン〉。それは空に浮かぶ美しい島。その島には花御子という美しい生物が存在している。彼らは背中から根付いた花を咲かせ、それらを羽ばたかせて空を飛ぶことができる。

 そして、地上の平和を守るため、常に空から人間を見守っているのだ。



 青みのかかった銀髪を太陽で煌めかせながら、イブキという花御子は大した目的もなく、自分の上をあてもなく流れる雲と同じようにただただ飛んでいた。

 なんて退屈な日々なのだろう。自分が土の中から生まれてから何十年間も同じことをしている気がする。ただ空から人間を見守り、有害な魔物が現れれば退治する。

 花御子とはなんて退屈な生き物なのだろうか。自分はずっとこのまま終わりの見えない任務を続けていくのか。

 生まれてこの方、心が大きく動いた記憶がない。まるで生ける屍のように、目の前に与えられた任務だけをこなしてきた。おかげで恵殿の中では優等生なのだが。

 だが、退屈だと思っているのはどうやら自分だけで、他の花御子はこの現状を不満に思っていないらしい。むしろこの魔物が蔓延る不安定な地上を、安全な空から見下ろすことに優越感を抱いている者の方が多い。イブキはそんな仲間達をあまり好きになれなかった。だから常に単体で行動して、自由に空を飛ぶ。この時間だけがイブキの心を少しだけ晴れやかにするのだ。



「ふぁ…」と小さなあくびをして、イブキは太陽に腹を向けながらその場で花羽をバサバサやってホバリングする。この飛び方も暇を極めて習得したなぁ、と地上ではなく、空を見守りながらイブキは思う。

 せめて、どこかで魔物でも暴れてくれればこの退屈からは逃れられるのに。

 我ながらなんて身勝手な望みなんだと自嘲を浮かべ、くるりと地上に振り返る。

 すると、1人の人間が森の中に歩いていくのが見えた。その森は何種類かの魔物が棲家とするところで、少なくともこの辺りに住んでいれば、他の理由も含め、自ら進んで入る者はいない。

 イブキはいつも大体この辺りを見回っているので、その人間が外から来た者だとすぐに分かった。見慣れない雰囲気だったのだ。

 この森の事情を知るイブキは、先程まで何事も起こらない退屈を呪っていたのに、いざとなると何事も起こらないよう願いながら人間の後をこっそり追いかけた。

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