十二周期

夢月七海

十二周期


「十二年に一度よ」

「十二ヶ月に一度だ」


 顔を合わせて挨拶を交わした後、私と彼はすぐその話題で喧嘩する。どちらも眉を吊り上げて、一歩も譲らない。

 対立の内容は、私たちが再会する周期に関してだった。十二年と一度と十二ヶ月に一度とでは、全く違うのだが、いつも噛み合わない。私は怒ったまま言った。


「十二年前なんだから。あなたがご飯にたっぷりかけたマヨネーズ見ネズミて、気分悪くなったのをよく覚えているから」

「俺の中では、マヨを必需オヒツジ品としているからな。そんなよく覚えているんだったら、十二年も昔じゃないんじゃ」

申しウシ訳ないけれど、あなたは、ちゃんと十二年分歳取っているわよ」

「おうおうオウ負しようぜ。俺とあんた、どっちが若々しいかで」


 そんなの、どう勝敗決めるのよとため息交じりに言ってから、私は空を見上げる。春分の翌日の朝は、よく晴れていて青色が眩しい。

 まだ、祝日の朝の町は、みんな眠そうに歩いている気がする。私たちは、駅へ向かう人々と擦れ違いながら、ぶらぶら歩く。


「学生の頃、ックに色々乗せて、旅に出たよね?」

「ああ。その時は、ちゃんと目的地決めてな。楽しかったけれど、アールが大変だったな」

「ゴールの後でいいでしょ、何その言い方。あなたが急にお腹痛くなったってどっか行って……探しに行ったらトラックも消えていたから、そう言う詐欺ウサギかと思ったわよ」

「あー、あの時は、周期的に会うようになって浅かったから、確かにカニそう思われても仕方ないかもな。でもちゃんと帰ってきただろ。トラックが他の車の邪魔になっていたから一時的に動かしただけで」


 彼に対して半信半疑。そんな時期もあったなと懐かしく思っている。今ではすっかり信用しているけれど。会う周期の不一致以外は。


「あなたの家のこたつタツでのんびりしていた日もあったよね。あの時は、お互い社会人で。そういえば、途中で固定電話に掛かってきて、あなたが離席してたけれど、あれ、誰からの電話だったの?」

「俺の師匠シシ。ほら、当時は見習いだったから」

「ああ、師匠! だからーな話をしている雰囲気だったのね。戻ってきて、話の内容、聞けなかったのよ」

「実際は、そうでもなかったんだけどな。師匠の娘さんが金髪の青年と付き合っていて、『娘を止めオトメるにはどうすればいい?』って内容で、まあ、俺は娘の恋愛に賛成派だったから、仕方なく雰囲気合わせていただけ」

「振り返ると、色々出てくるわね。週末ウマに会ったのはいつだっけ?」

「この前の前。映画を見たよな。あんた、創作者としての視テンビン感だったから、あまり行きたくなかったけど」

「酷い言い方ね。私だったら、ここを加ヒツっくりするけれどなぁって意見しただけよ」

「俺は深く考えずに楽しめるけどな。やっぱ反りソリが合わないと感じるよ」

「創作物を漁るサルように読んできた私と、幼少期からラーメン一筋だったあなただもの、当然でしょ」

「だからなのか、一緒に過ごしていてイテ、気が楽なんだよな」


 そもそも何で昔から、私たちは一緒にいるんだっけ? とふと思う。恋人同士ではないし、血縁もないし、友人と呼ぶには微妙な距離だ。

 実は遠い前世で深い仲だったのかもしれない。実際は、同じ病院で同じ日に生まれて、新生児室のベッドが隣同士だった、くらいの縁なのかもしれない。


とりトリあえず、何か食べに行かない? そういえば、あんたの店も近かったでしょ?」

「どうぞどうぞって言いたけれど、いリギリなんだよな。俺がいない時の店は」

「後進の育成はちゃんとしてよ。飼い主イヌの責任でしょ」

「ペットじゃねぇよ。……って言い返したいが、あいつらの頼りなさを見たら、そんな風に扱いたくなるな。情けなくって、水が目ミズガメから出てくるわ」

「何その表現、安直ね。私のデビュー作だった『誓いの詩集イノシシ』にだって出てこないわよ」

「デビュー作をそんな風に扱うのか? ま、今日をウオ台無しにしたくなかったら、また俺がいる時に店に来てくれ」


 彼がそう言っている表情を見ると、自分の味をすごく誇りに思っているんだなぁと感じて、ほのぼのする。師匠にしごかれている時期も知っている身からすると、嬉しい変化だ。

 その時、私たちの目の前を、猫が横切った。たったそれだけなのに、私たちは同時に立ち止まる。


「ギャッ、ネコ!」

「うわっ、ネコ!」


 一緒に飛び上がったので、顔を見合わせて、苦笑し合う。

 色々と合わない私たちだけど、猫のことが苦手なのは、唯一の共通点だった。





















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十二周期 夢月七海 @yumetuki-773

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