第21話 戦慄のマーチ

第21話 戦慄のマーチ


その連絡は突如入った。

「こちら南α、そちらに向かって移動するSKを確認!さらにその数、5体以上!」

その連絡が駆け巡った瞬間、団員の表情が険しくなった。

「その中にカウションクラス以上はいるのか!?」

その問いに、南α、と呼ばれる団員はこう答えた。

「ほとんどがセーフクラスとカウションクラスです。でも・・・・・・」

「なんだ!?はっきり言え!」

「二体、同一個体ですけどデッドクラスがいます・・・・・・」

「なんだと・・・・・・!」

説明した通り、本来であればデッドクラスは1師団で討伐するのが普通である。2体となれば2師団で倒すのが普通だが・・・・・・。

「今、他の師団は遠征中だろ!?一個師団じゃ対処できねえ!」

生憎と、他の師団からの援護は望めないようだ。

誰もがこの状況に絶望していたとき、聞き慣れた人の声が響いた。

「おい、何戦う前から諦めてんねん」

「サ・・・・・・サルベル副団長・・・・・・!」

「確かにこんな状況なら2師団で討伐を行うのが定石や。でも、それはできひん」

それに続けて、

「でもな、やらなあかん時がくるんや。それが今だっただけで、やることはいつもと変わらん」

全員がゴクリと息をのむ。

「総員、戦闘準備!」

サルベルのその一声で団員たちは戦闘形態へと移行する。

「戦闘パターンはOー115でいく。南α、おまえはSKの位置をずっと捕捉し続けろ!」

「わかりました!今は南に1.5㎞ほどの場所を移動しています。移動スピードは約30km/s前後です!」

「了解、作戦展開領域を少し北側に移す。真正面から削るぞ」

「「「はい!」」」

サルベル兵団長の指示で的確に団員が動き始める。

「サルベル団長、我々は・・・・・・」

教官がサルベルに聞くと、

「オマエたちは一旦後方で待機や。まだスーツも着てない人間をいきなり戦場に出しても邪魔になるだけや。できる限り危険のないところに下げて、できれば俺達の戦いを観戦させてほしい」

「了解、護送車両とともに移動させておくよ」


どうやら、現場で何かあったようだ。団員が慌ただしく動き出した。

(一体どうしたんだ?こんな張り詰めた空気になるなんて・・・・・・)

それほど危機的な状況におかれているのかもしれないと、エヴィルは息をのんだ。

「どうやら何かあったみたいね」

ハナもこの現場の異様な雰囲気を感じ取ったらしい。

「うん。SKかなにかが来ているのかな」

そんなことを話しているときだった。背後で何かが地面に降り立つような音がした。驚いて振り向くと、そこにはサルベル兵団長が乗ってきた車からなにかを取り出していた。

「あ、中にある武器、もっていくで」

背後に立っていたのはサルベル兵団長だった。護送車のトランクを開けると、そこから二本の刀を取り出した。

「それは構わんが、銃火器じゃなくていいのか?」

なんで兵団長とタメ口で話せるのか気になったが、サルベル兵団長が武器を取りに来たということはやはりSKかなにかの接敵があったということだ。

「ああ、多量の敵にはこれを振り回すぐらいが丁度ええ。それに・・・・・・」

そう言って刀を起動させると、軽く振るう。

「僕はコッチのほうが得意やから」

彼の持つ刀は特注の刀だ。鞘と刀身が一つになっており、トリガーを使って、鞘のロックを解除することで刀身が出現するのだ。

「今からSKとの戦闘が始まる。ここらも戦闘区域になる。急いで後方に避難しろ」

サルベル兵団長のその言葉に従って、かなり後方まで移動した。おそらく2kmほど北側に移動した。そこから見える景色は圧巻だった。ひらけた荒野に複数人の団員が散らばっている。

「このように人を配置することでSKを囲んで包囲、殲滅する」

「でもこれじゃあ、前線の団員はほぼ援護を受けられませんよ。どうするんですか」

エヴィルが尋ねると、こう教官は返した。

「確かにおまえの言う通りだ。最前線に立つものは相手の全ての敵と対峙することになる。それこそ、個人でな。だからこそ最前線にこちらの最強戦力を置くんだ。我らが兵団長、サルベル兵団長を

な——」


(報告だともうそろそろだが・・・・・・)

サルベル兵団長は荒野にふく強い風を一身に受けて立っていた。

「!来たか・・・・・・」

遠くのほうで土埃が舞っているのが見えた。サルベルは大きく呼吸をする。

(距離は大体音の響き方からして100m。あと十秒くらいで間合いに入る・・・・・・)

だが、急に走っていたSKの一体がさらにスピードを上げた。

「チッ!」

サルベルはさらに深く踏み込み、剣に手をかける。剣が白煙をあげ、起動する。

「ギャアアア!」

トカゲ型のSKがサルベルとすれ違った瞬間に、首が落ちた。

(は、早い・・・・・・!)

いつの間にかサルベルは剣を抜いて振っていた。だが、それすら見えなかった。正に最速の抜刀術だ。

「ほな、殲滅するで」

次々とSKはサルベルめがけて突っ込んでいく。だが、的確に小型なSKから一撃で仕留めていく。

彼の武器の性質上、どうしても小型を倒すのは簡単だが、中型から大型にかけては処理がしにくくなっている。もちろん、剣の振り方によっては全身を切り刻んで殺すことも可能であろう。だが、いかんせん肉が分厚い大型と真っ向勝負しては、こちらの体力が削られる。そのため、大型のみは別の場所へ誘導する。

「シュルルルルル・・・・・・」

数本のミサイルが大型のSK三体をめがけて飛んでいき、命中する。サルベルのほぼ真上でミサイルが爆発した。だが、的確に爆破のタイミングを読み、爆風を食らわないように立ち回っている。

(あれだけコンパクトに、しかも後方から飛んできたミサイルを音だけで読み取って的確にかわすだなんて・・・・・・、とてもじゃないけど、人間にできる動きじゃない)

エヴィルは素直にそう感じた。いくら戦闘スーツの補助があると言っても、もともとの戦闘センスがなければそのような動きをすることは不可能だろう。

「サルベル兵団長は元軍人なんだよ」

そんなエヴィルの考えを透かしてか、教官が言う。

「十二年前まではこの国の戦争に参加し、最前線の兵として大きな役割を担っていたらしいからな。そこいらのやつとは一線を画すほど実戦経験がある。さらに元々潜在的な戦闘能力も高かったらしい」

(あの技術はたった数年で身につけたものではないということか)

でもそれは、彼の動きを見ていてもわかる。明らかに人を殺すような動きが彼の剣術には混ざっていた。対SK用には改造されているんだろうが、居合い切りや袈裟斬りなど、日本の剣術が所々に見られた。

(もしかしたら、彼の元々の居住地は日本?しかも剣術家としてはかなり名声のある・・・・・・)

そう考えている間にもサルベルは次々とSKたちを切り刻む。小型の処理は終わったらしく、他の団員が相手をしていた中型と戦闘を始める。

「遅すぎ、俺がおらんかったらどうするつもりや」

そう言いつつ、SKの脇腹から上に切り裂いていき、最後に脳天から真下に剣を下ろす。ズズン、という音を立ててSKは地に伏せた。

「まあいい、次や」

そう言って別のSKのところに行こうとした瞬間、

「バリバリバリバリ!」

急に電撃が走り全員がもろにくらう。

(くっ、油断した。この電撃おそらく・・・・・・!)

岩陰から姿を現したSKは先ほどまで戦っていた中型の2.5倍くらいは大きいサイズだった。だが、この姿をみるまでもなく、誰もがそいつを想起した。

(こんなタイミングでコイツまで来とったんかい。そういえばデッドが1、2体おるんやったな)

遠くから見ていたエヴィルたちもその姿には見覚えがあった。

(あいつは・・・・・・!)

あの列車を襲い、サルベル兵団長に討伐されたSK。クラスはデッド。体長は40m、体高は30mほど。この地域で最も知名度の高いSkであり、その悪名も名高い。

そのSKの名は、ストーム:1123 テスタドラン——

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