第20話 出撃
第20話 出撃
エヴィルが門の前に着いた頃には、ほとんどの団員がすでに集まっていた。
「いいか!オマエたちは今回、見学として実際の現場に連れて行く!くれぐれも危険な真似はしないように。分かったか!」
そうとだけ教官に告げられると、僕達は大型の車両に乗り込んだ。
他の団員は既にストームとのコンタクトを行っているという。
「ストームの消滅作業は主に3つの部隊に分けられて行われる!」
教官は目的地につくまでの間に、ストーム発生時の対処方法について説明するらしい。
「1つ目は観察部隊だ。ストームには複数個の種類があることが分かっている。それぞれが別々の特徴を持つため、種類によって対処法を変える必要がある。それを判断したり、移動速度・方向などを予想、伝達する。」
たとえストームを消滅させることができても、ストームのことをしっかりと補足しなければならない。
「2つ目が消滅部隊だ。これはもはや説明は不要だな。
主に消滅作戦の立案、計画、実行をほぼ全ておこなう部隊と言ってもよい。
民間人の命がかかっているため、失敗は許されない。そのような責任の大きい部隊でもある。
(だいたいこれが全てだと思うんだけど・・・・・・。もう一つの部隊は何だ?)
「最後が・・・・・・対SK用の部隊だ」
確かに、精密な作業が求められるこのような時に、SKの乱入は作戦を単に妨害するだけでなく、最悪の場合には民間人に多大の被害を出すことになってしまうだろう。
「作戦展開領域内への人間およびSKの侵入を阻害、対処を行う部隊だ。作戦の裏で必要となってくる部隊だ」
普通であれば、SKの対処は師団全員が団結して行う。だが、この場合ではSKの処理が上手い者のみを選抜し、それらを配置する。作戦展開領域の中心を基準に半径1kmになるように横並びで円を描くように配置される。だが、ストームの進行方向に配置される場合は、万が一作戦が失敗したときに、すぐに退避できるようにしなければならないため、兵装をどうしても軽くしておく必要性がある。故にそこが穴となる。だが、基本的にストームに向かって進行するSKはいないので、ほとんど問題はない。
「作戦領域内にSKが侵入した場合、 速やかな作戦遂行が不可能となる場合がある。特にデッドクラスが乱入してくるなら、もうそれは作戦どころではない。通常、デッドクラスは一師団と同等、もしくはそれ以上の力を持つ個体が多い。デッドクラスを単騎で処理するようなヤツもいるが、そんなものは限られたほんの一部の人間のまぐれに過ぎない。基本的にデッドクラスは最低でも20~50人の編成で挑むものだと、定義されているからな」
そのような話をしていると、目的地に着いたようだ。
車両から降りると、目の前には紫色の巨大な竜巻のようなものが移動していた。
「あれが“ストーム”だ。そして、今回これを処理する」
ストームはあらゆるものを巻き込みながら移動していた。どうやら小屋か何かを破壊したらしく、その残骸を纏いながら進んでいた。
「今回の個体は平均よりも小せえなぁ。おかげか、破壊力もかなり低い」
エヴィルはえ?と思った。ストームは近くの岩を粉々に砕きながら動いており、間違いなく近づけば一瞬で四肢がバラバラになるだろうと感じていた。その圧倒的なほどの力に驚いたが、これでも中途半端。これ以上の強さをもつストームがいくつもあるということに、更に驚かされた。
「これで低いんですか?」
エヴィルは驚きが隠せなくて胸中の疑問を発した。
「ああ、全然。本来だったらもっと強く風が吹き荒れるし、なにより巻き込んだものは全て分子レベルで分解される。ものを纏うってのは本来、珍しいことなのさ」
ストームの特徴として最も恐ろしいのがその破壊力だろう。ストームに巻き込まれたものは全て例外なく分子・原子レベルで分解されるため通ったあとには何も残らず、ただ生命の跡を何も残さない荒野が広がるだけである。
だが、今回のストームはそれすらもできない。故にレベルの低い事例だと判断されたわけである。
そんなことを話していると、教官の無線に連絡が入った。
『こちらは全て準備できた。始めるぞ』
どうやら全ての準備が終わったようだ。
「ようく見とけよ。これが——」
そう言うと、横から高速のミサイルが飛んでいき、
「我々の仕事だ」
「ドカン!」
ストームに大きな穴を開けた。
(・・・・・・いや!まだ終わりじゃない!)
ストームの穴は瞬時に塞がっていき、元通りに戻ってしまった。
「戻っ・・・・・・た?」
「いや、そうじゃない」
次々とミサイルが飛び交い、ストームに次々と穴を開けていく。だが、次々とその穴は塞がっていく。
「ストームはエネルギーの塊だといっただろう。エネルギーの強力な結びつきなんだ。ちょっとやそっとでは目に見えるようなダメージをだせん。だが」
再びミサイルが着弾した。すると、明らかに穴が塞がるスピードが遅くなっているのが分かった。
「確実にエネルギーは減るんだ。いつかは耐えきれなくなって、エンドだ」
次々とミサイルはストームに命中し、その一部を刈り取っていった。刈り取られていけばいくほど、目に見えるようにストームの勢力は弱くなっていった。
ちなみにストームの対処に使うミサイル、
進行している当たり判定のない的に弾を当てるのは難しい。コンマ一秒の誤りがミサイルを味方にぶつけるような羽目になることもある。だが、それをいとも簡単にこなすのがすごいところだ。
「もう死にかけだな。あと一発か二発だな」
そう教官が言った瞬間、日本のミサイルがストームに突き刺さり、爆発した。
その瞬間、ストームは跡形もなく消し飛び、空を覆っていた雲も、段々と晴れてきた。
「これが・・・・・・ストーム財団の実力・・・・・・」
エヴィルはもちろん、生きている人のほとんどはストーム財団の活動を目にすることはない。人の生死を問う現場であるからだ。だからこそストーム財団の実力というものはよくわからないのが一般的な常識なのである。
「ま、こんなもんだな。あと数年後にはオマエたちがこうならなくてはならんのだぞ?」
えー無理ですよ、と言う人も何人かいた。でもこうならなければここにいる意味はないのである。
「単純に仕事量からこうなるのが普通と言っている訳では無い。ストーム財団は常に人員が不足している。なにせ、命が軽いからな」
ストーム財団の団員は常時不足になりがちである。その理由は2つ。一つはストーム財団は常に最高級の人員を要求するからである。それ故に本来は東大と同じくらい難しい試験を突破しなければならないのである。
2つ目は、常に死と隣り合わせだからだ。このような危険な現場に常にいなければならない。その事実だけで精神を病むものもいる。それだけではない。前のデーモン・フェザーのような強力なSKとの戦闘で命を落とすものや、腕や足などを失い、二度と現場で働けなくなるものもいるのだ。
これらの理由からストーム財団は常に欠員を補わなければならない。では一番手っ取り早く欠員を埋める方法は何か。それは新たに入ってきた人員を早急に育てて欠員の補助に充てることである。故に教官は我々に早く育てと言っているのだ。
「逆にこういう言い方もできるな」
そう言って教官は息を吸うと大声で、
「死にたくなければ死ぬほど自分を鍛え上げろ!オマエたちに明日の命の保証はない!だから自分で自分の身を守れ!」
教官は厳しい。だが、その言葉の中にある叱咤激励はいつだって僕達に寄り添っている。人の上に立つ器をもっている。
(僕も・・・・・・ああいう人になりたいな)
「なれるわよ」
ハナが自分の思考を読んだように言ってくる。思わず振り向くと小悪魔のような笑いを浮かべていた。
「・・・・・・うるさいな」
エヴィルは少し鬱陶しいと思いながらも、あまり悪い気はしていなかった。
その頃、エヴィルたちのところから南に2km離れたところでは異常事態が発生していた。
「な、なんだよこれ・・・・・・」
一人のストーム団員が目撃したのは——
「こんなの、勝てるわけが・・・・・・」
大量の、疾走するSKだった——
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