第19話 ストームとは? 2

第19話 ストームとは? 2


男は他のSKについても少しの間話した。主にこの辺に出没するSKで、デッドクラス並の強さをもつものを説明された。だが、ここではその詳細は伏せておく。いつか語るべき時がきたら話をしよう。

「さて、ここまではSKの話をしたが、ここからは“ストーム”と、それに関することを説明していくぞ」

そう言って、今まで黒板に書かれていた文字を全て消していく。

「SKの処理も我々の仕事だがもう一つ、大切な仕事がある。それが“ストーム”の処理だ」

本来の目的はこちらだ。ストーム財団に軍隊の機関ができた理由。それは継続的なストームの研究と、SKの対処、それらを両立させるだけでなく、市民たちをストームの災害から守るために発足した。

「ストームは今でも恐ろしい災害だ。時には地震や人災よりもひどい被害をもたらす。故に素早く、確実に対応しなければならない」

ストームは謎が多いからこそ、早めに対処する必要があるのだ。

「近年までは移動先を予測するしかできなかったが、2420年代、この状況を大きく変化させる出来事が起きた」

そう言って一つの文字を指差す。

「それが対嵐専用兵器バスターの開発だ。ストームを破壊できる唯一の兵器であり、対ストームにおいての基本兵装となる」

対嵐専用兵器バスター。この世界を変える兵器と言っても過言ではない兵器だ。その兵器はストームを破壊できる——

「特殊兵器の技術を流用して作られた兵器で、ストームのエネルギーを拡散、消滅させることができる。これをストーム内で爆破させると、内側にある特殊な物質がストームエネルギーと結びつき、自然由来の物質に近いものへと変質、無害化してくれるのだ」

「ストームエネルギーってなんですか?」

再び疑問が出てきた。

「ストームエネルギーはストーム及びSKが活動するために必要で、保持している未知のエネルギーのことだ。ストームはこれの純粋な集まりで、SKはこれが体内で循環している」

男は一拍おいて続ける。

「このエネルギーはまだ未知のエネルギーで実用化はおろか、精製方法すらも解っていない。だが、このエネルギーを感知することはできる。それによりSHを見分けることが比較的簡単になったというわけだ」

このエネルギーはSKであれば常時放出してしまうらしい。そのため、その溢れ出るエネルギーを検知することで、相手がSKなのかどうかを判断できるのだ。

「さらに、このエネルギーは種によって固有の波長を有している。そのため、残留したエネルギーからSKの種類を特定し、追跡することが可能になったのだ!」

嬉々として語っているが、それほど前とは比べ物にならないほどストーム災害への対応がしやすくなったということだ。

「ストームはこのエネルギーが一定以下になると自然消滅し、SKはこのエネルギーの供給が極端に減ると、活動が著しく低下することが分かっている。だが、それはそのSKが極限まで疲労した状態でなければそうはならない。なぜなら、このエネルギーをSKは絶えず生み出せるのだからな」

SKの体内には血管、リンパ管の他にもう一つ、大きな循環器官がある。研究により、それは“ストーム管”と呼ばれた。

「このストーム管を通して体内にエネルギーを循環させている。そのエネルギー生成と、循環の全てを司るのが、我々がコアと呼ぶ部位だ」

そう言うと男は急に生々しい死体の写真を出してきた。そこには死体となり横たわるSKがあった。その死体は首元を開かれ、そこにあったある器官を取り出されていた。写真には赤黒い球体が写っていた。

「この写真に写っている赤黒い球体・・・・・・それがコア、もしくは核と呼ばれるものだ。ストームエネルギーを唯一生み出せる器官であり、同時にSKの生命維持を行う、重要な器官である」

SKと従来の生物には類似点が多い——だが、相違点も存在する。それは、生命維持のはかりかた、である。一般的に従来の生物は脳をはじめとする中枢神経系、もしくは心臓などに致命的な損傷を負った場合に死ぬことが多い。故に頭を飛ばされれば死ぬし、首と胴を切り離された場合、問答無用で息絶える。他にも呼吸が必要であるため、首を約三分、締め続けられれば文字通り息絶える。

だが、SKはそうはいかない。SKはコアが生命維持を行っている。コアには多少のストームエネルギーと、中枢神経系が集結している。それによって、頭のほうが吹き飛ばされても本能的に活動できる。血液はストームエネルギーによる活動を補佐する役割を持つので首を締められたとしても、ストームエネルギーがある限りは死なない。同じ理由で、心臓を破壊したとしても致命傷にはならない。

「SKを手っ取り早く処理する方法。それは、“SKのコアを正確に一撃で破壊する”だ」

SKは並大抵のやつが常軌を逸した再生能力を持つ。その細胞分裂速度は最高で一秒に25兆もの細胞を作り出すことができるらしい(人間の細胞の平均的な数は60兆個)。さらに、コア自身も再生が可能で、その再生を止めるには少なくともコアの60%を破壊することが必要となる。

「コア自身もかなりの耐久性を持っている。基本的に、最先端のライフルでもほぼ傷がつかんからな」

ストームバスターのライフルは特殊な銃弾のため、コアを傷つけることが可能である。だが、たとえその技術をもってしてもコアは硬い。いつか近距離に持ち込んでコアを潰すか、強力な兵器を使い、一撃でコアを丸ごと吹き飛ばす必要性が出てくる。

「特殊な武器を使う必要性があるが、それもあくまで道具だ。使えるものにするにはそれ相応の時間がいる。まあ、才能でその努力を飛ばすやつもいるが」

対SK用の武器は、全て使用者の練度によって威力が変わる。それは武器の力を引き出す方法が特殊だからなのだが・・・・・・。

「先に話した最厄災テンペストも、コアが損傷したため現在は活動を休止しており、コアの復元が終われば長い眠りから目覚めるだろう。それまでに我々はそれをねじ伏せる戦力を用意しなければならないのだ」

最厄災テンペストの復活はいつになるかわからない。故に戦力を極限まで高めた状態にしておかなければならない。

「コアは個体によってどこにあるかが違う。そこら辺はしっかり知識として覚えろ」

(2000種全部のコアの位置を覚えるの?大変だなあ)

他人事のように思っているが、自分もやらなくてはならない。それをエヴィルは自覚しているのだろうか。

「また必要なことはおいおい話す。しっかりと今話したことを覚えておくように!解散!」


授業が終わり、各団員はそれぞれの部屋へ一旦戻る。エヴィルたちも同じように寮へと戻った。

「なあ、オマエ。」

自分の部屋に入ろうとした瞬間に、アランに呼び止められる。

「オマエたちは変な方法でここに入ってきた。それは今ではどうでもいいが、一つ聞かせてもらう。オマエがストーム財団に入った理由はなんだ?」

素直に答えることはできない。だが、うわべだけでも答えておくのが良いと思った。

「僕は幼い頃にSKとストーム災害で立て続けに両親を失った。そのままやられっぱなしじゃ嫌だから努力してここに来たんだ」

完全に嘘偽りの作り話である。どこからこのような作り話を一瞬で作り上げられるのだろうか。

「じゃああっちの女は?」

エヴィルは彼のハナを呼ぶ言い方にイラッときたが、ここで揉めてもしょうがない。素直に何も言わずに答えることにした。

「さあね。幼馴染だが心の中まではわからないよ。大方多分僕と一緒だと思うけどね」

そう言い捨てて、エヴィルは自分の部屋へと入っていった。取り残されたアランはしばらく呆然としていたが、急にこう言い放った。

「はっ・・・・・・面白え」


(マジで何なんだ、あの野郎)

エヴィルは自室のベッドの上でアランのことを思い返していた。

(流石に同年代といっても女性を呼ぶ時に“女”はないだろ)

確かに考えていることはまともである。

「ていうか、暇でやることねえや」

エヴィルはベッドから跳ね起きて、本棚にある本に触った。

「久しぶりに本でも読もうかな。最近忙しくて全く読んでなかったしね」

そう言って彼は読みかけだった本をとり、しおりが挟んであるページを探る。そうしてそのページに指をかけたところだった。

『緊急連絡、緊急連絡。北東5km先にストーム発生。総員、出撃準備』

このアナウンスはストーム発生の時に流れるものだ。俗に言う、緊急招集というやつだ。

(まあまだ俺等は装備もってないし関係ない・・・・・・)

そう思った瞬間だった。

『入団員も至急、門の前に集合せよ。繰り返す・・・・・・』

エヴィルはそれを聞くと、

(めんどくさ・・・・・・)

そう思いつつも本を閉じ、机の上に置くと、急いで部屋を出ていったのだった。

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