第18話 ストームとは?
第18話 ストームとは?
「ここが、お前たちの住む寮や」
サルベルが案内した寮はそこら辺の大学の学生寮と何も変わらない、普通の寮だった。だが、エヴィル達は大学なんてところに行ったことはない。高校でさえ、高校見学で数回行った程度だ。これが普通なのだということにも気付きやしなかった。
「すごく大きい寮ですね」
「部屋の数は100を超えとるからな。そこらのマンションと同じくらいの部屋の数はあるで」
それがすごいのかはわからないが、エヴィルは取り敢えずでかい、ということだけを頭に入れた。
それから各自で部屋を案内された。どうやら女性と男性で寮の部屋は別になっているようだった。まあそれはそうか。現実でもそうなっているし。ただ意外だったのは、エヴィルの部屋とアランの部屋が隣同士だったということだ。どうやらアランもこの寮に入るのは今日からだったらしく、僕と部屋が隣同士だということを知ると、あちらも嫌そうだった。僕も嫌だけど。
何はともあれ、今日からしばらくはここで過ごす、ということになる。初めて見る天井に違和感を隠せない。
「取り敢えず荷物を開けておくか」
エヴィルは寮の部屋の中に置かれていた段ボールから自分の荷物を出していく。
「うん?」
エヴィルは自分の部屋にある段ボールを開けていくと、見知らぬ人の物が入っている箱に当たった。
「誰だ、この持ち物?」
見たところ、その持ち主は男らしかった。下着が男物のそれだったりが入っていたからだ。
おそらくお隣のものだろう。
「しょうがない、届けに行くか」
そういってその箱を持ち、隣の部屋へと移動した。
「これ、君のものでしょ?」
そうエヴィルが尋ねると、
「ああ、そう!それ俺のだ!さっきからずっと探してたんだよ!混ざっちまったのか、ありがとな」
他の荷物はすべて入れ替わってはいなかったようだ。部屋のドアを閉めたアランは中のものを確認する。
「あぶねえな、荷物の管理はしっかりとしねえとな」
そういってその段ボールの一番下に手を伸ばすと、そこから見慣れない端末機器が顔を出した。
「一番まずいこれを見られなくてよかった。これからは肌身離さず持たねえとな」
そう言ってその機器をポケットの中へとしまい込むのだった。
エヴィルはうるさく鳴る目覚まし時計で目を覚ました。
「うーん・・・・・・もう朝か・・・・・・」
いつもより朝が来るのが早い気がする。そんなことはないはずなのだが。
「もともと僕は早起きは苦手なんだけどなあ・・・・・・」
そう言いつつも身支度をし、動く準備をする。
「あ、そうだった。“アレ”で今日はいかなくちゃいけないんだった」
「エヴィル、おはよう」
寮の階段を降りていく途中でハナに出会った。
「その服、様になってるじゃない」
「そう?」
エヴィルは自分の着ている服を見直した。今着ている服はストームバスターの制服だ。全体的に黒を基調とした布地で、ところどころ赤や黄色のラインが入っているのが特徴だ。
普段はあまり着用しないらしいが、今日は正式な入団式だ。だから全員この服装らしい。
「ハナも似合ってるじゃん」
ハナの着ている服装は、こちらも制服には変わりないがズボンがスカートに変更されており、ラインの色が青や緑へと変更されている。
「正直、採寸とかの情報をどこからとってきたの、って聞きたいけどね」
「まあとりあえず行こうよ」
式は厳粛な雰囲気の中、執り行われた。保護者や観覧者はいない。理由はストーム財団はほとんど一般人の立ち入りを頑なに禁じているからだ。
式の内容も簡潔で、団員証明書をもらい、師団長に挨拶をもらう、ということだけだった。師団長、というのでてっきり北アフリカ師団の師団長かと思ったのだが、第二兵団の兵団長、サルベル団長が代わりに挨拶をした。
式に参加していた新たに兵団に加わる人は20人ほど。兵団全員を合わせても百人いるかどうかというところだ。
(こんな人数で兵団として成り立つのかな)
エヴィルは疑問に思いながらも式を受けるのだった。
式が終わり、時間も午後で表されるようになった。エヴィル達新人は座学として、SKの特徴などを学ぶ事になっていた。
「では今日はSK(ストームクリーチャー)とは何なのかについて教える。二度は言えないのでちゃんと聞くように」
そう言って男は話し始めた。
「SKとは、知っているとも思うが、過去の戦争の影響で生まれた“ストーム”によって生み出されたと言われてる過去の地球環境では存在し得ないような生物群を指す。だが、それ故に謎が多く、あらゆる生態、体のメカニズム、発生の原因が全て不確定である。先に言った“ストームによって生み出された”かも不明であり、現在分かっていることはほぼないと思ってもらっていい」
(それじゃあ学ぶことなんてないんじゃ・・・・・・)
「だが、基本的事項を知っておくことは意味のないことではない。人類のルーツは学習にあるのだから」
そう言って長い前置きを終わらせた。
「SKには多種多様なものがあり、既に存在していた生物の体をつなぎ合わせたようなものから、全くもって未知の生物まで様々で現在確認されている種類だけで2100種類、未確認を含めると5000種以上存在するとの研究結果もある」
あまりの数の多さにエヴィルは絶句した。
(いや、2100種類ってなに!?そんな多くの生物の情報なんて頭に入れられないよ!)
だが、それを読まれたのか、先生はこう続けた。
「流石に2100種類も話そうとは思わん。お前たちに既に渡された端末機械があるだろう。それを使って調べろ」
そう言われたためエヴィルは先ほどもらった電子辞書のような折りたたみ端末を出した。開くと、ストーム財団のロゴマークが浮かび、ストームナンバーを入力してくださいとある。
「その端末はストーム財団本部にあるデーターベースとつながっている。その端末で調べたいSKの写真、もしくはストームナンバーを入力すれば検索結果として情報が表示される。表示されなれけば新種だ」
「すいません、ストームナンバーってなんですか?」
ある人が素朴な疑問を聞いた。
「そうか、それを話してなかったか。ストームナンバーとはSKに個別に振り分けられるナンバーのことであり、発見順によって数が振り分けられる。最初がストーム:1、次がストーム:2というふうになっている。だが、これは正式な呼び方ではなく、あくまでストーム財団のつけているものだということを分かっておくように。
民間人には一切伝わらないからな」
「じゃあ民間人にはなんて説明したらいいんですか?」
「その場合はそれぞれの学名で呼ぶと良い。学名というのは国際基準でつけられる名前だ。例えを言うなら・・・・・・最近近くに現れたストーム:1655、学名はデイビル・イーグル。こんな感じだ。大抵の場合、うちではストームナンバー、学名の順に呼ぶことが多いな。最初は慣れんかもだが、覚えたらすぐだ」
(なるほど、いつも呼ぶ時に使っていた名前は、学名だったのか)
エヴィルはまた一つ新しいことを覚えた。
「それと、教えておかなければならないことがある」
そう言って、男は黒板になにやら文字を書き連ねた。書き終わり振り向くと、黒板には3つの言葉が連なっていた。
「SKにはそれぞれ分類の仕方がある。これは覚えておけ」
そう言って1つ目の単語を指す。といってもその単語は既にこの話でも何度も出てきている。
「まずはSK。ストームの影響で出現したとされる生物は全てこの分類にまず属する。俺達の戦う敵の総称とも言っていい」
そして、次の単語へと移る。その単語は、SKから枝分かれした矢印の一つの先にあった。
「これはSB(ストームビースト)。普通はよく耳にせん言葉だろう。だが、ストーム財団内、または生物学上ではよく聞くことになるだろう。SBとはSKをさらに細かく分けたときの一つの分類だ。基本的に行動原理が動物に近いものが分類される。知能が低く、人間とのコミュニケーションが測れないものが多い。だが、動物のような外見をしながら言語を使うものもいるため、分類が難しいところでもある。だが、基本的に危険な個体が多いと思っていい。なぜなら本能的に動くため、行動が先読みしにくいからだ。だが、それ故に倒しやすくもある」
そう言って一息つくと、今度は枝分かれしたもう一つの文字、こちらはさっきのSBよりも見たことがなかった。
「SH(ストームヒューマノイド)。主に人形の体を有し、知能が高く、言語を用いて人と言葉を交わす。そのようなSKはこのSHに分類される。こちらは実に難しい個体ばかりだ」
完全に主観の入った説明をされた。
「コイツらは知能が高えからまず俺達と真正面から戦おうとはしねえ。隠密機動みたいに動いたり、言語を使って巧みに人を操ったり。実際の対面ではラクだが、たどり着くまでが長い奴らが多い。それだけじゃなく、付き合い方にもよるやつが多くてな。言語を話せてコミュニケーションが取れるからこそ、難しい場面もあるんだ。こちらの手の内を明かさせて反旗を翻すタイプもいたからな」
そう聞くと、人間の知能を持った人間でない敵とは、どれほど恐ろしいのかがよく分かった。
「だが、基本的に数が少ない。実際に登録されている、確認されているものも合わせて50種ちょっとしかいない。さらに発生の数も少ない。現場での割合はSB:SHで99:1ぐらいだ」
(少なッ!)
あまりの少数の割合にびっくりした。流石に9:1ぐらいだとおもっていたからこそ来る驚きだ。
「故に対処が難しい。SH出現のケースは5年に一回あるかないか。ペース的には5〜8年に一度だな。世界中で」
世界中で5〜8年置きにしか発生しないってどれだけレアなんだよ、って思う。でも、現れる確率が低くて被害が少ないからいいってことなのかな?
「まあこれが“1つ目”の分類の仕方だ」
そう言って男は黒板に書かれた文字を消していった。そして、きれいになった黒板に、また新たな文字を書き始めた。
「今のは生物学上の分類であり、ほとんど俺達とは関係ねえ。なんならこっちだけ覚えてればいいと、俺は思うぜ」
そう言って今度は4つの単語を書き連ねた。
「こっちは戦闘時の強さ、厄介さを基準に分類分けしたものだ。順に『Safe(セーフ)』『Caution(カウション)』『Dead(デッド)』そして『Deadest(デッダスト)』。それぞれ説明すると、セーフクラスは分類法に乗っ取って説明するなら、『危険性が極めて少なく、人間との有効的関係を築くことが容易である。または成功している。』ものだ。要は戦闘することのない、または戦闘に陥っても全く脅威にならないSKの総称だな。2つ目にカウションクラス。こちらも分類法に乗っ取ると、『比較的危険であり、人間との意思疎通が難しいもの。または少なからず人的被害をだしているもの。』だ。ほとんどのSKがここに属する。一番俺達が戦うことになる分類群だ。そしてデッドクラス。これは『人間との意思疎通がほぼ不可能なもの。または壊滅的、生活を根幹から破壊するような被害を出すもの。』を指すぞ。こいつらはやべえ奴らだぞ。一個師団クラスで殲滅するぐらいだからな。故に出現頻度は低いが、現れたときの被害はハンパねえ。“ストーム”単体の被害と肩を並べるやつもいるからな」
(でもこれよりも上のクラスがあるんでしょ!?どうなるんだよ、そいつら!)
「最後に説明するのが。デッダストクラスだ。もうこれは説明のしようがないが、一応例に乗っ取って説明すると、『デッドクラスの中でも特に危険、または地域的、国際的に壊滅的な被害を出すもの』が分類される。その独特な分類のされ方から、現状、先にここに分類が決められてから戦ったSKは存在しねえ。戦ってマジでやばかったやつ、そういうのがここに全部入るんだ。キャラやカードの殿堂入りと同じだと思ってくれていい。もし例を挙げるとするなら・・・・・・、あれがいいか。ストーム:934
そう言って今まで書いたものを消し、概要を書いていく。
「体長90m、翼開長200mというバカでかい翼竜型のSKだ」
体長を聞いただけでわかる。この世に存在し得ないほどの大きさを持つ生物。正に最強の生物だろう。
「2231年4月30日、サウジアラビア沖に出現し、強力な
この災害の一番恐ろしいところ。それは、ストームを発生させつつ、移動を行う、という習性にある。現在、ストームには専用のミサイル、“バスター”を撃ち込めばいとも簡単に消滅する。たとえ大型であったとしてもバスターを五発も撃ち込んでやれば自然消滅するのだ。
だが、当時にはそれがなかった。その結果、永続的に生み出される規模の大きいストームの影響を常時受けながら戦うことになり、戦闘地帯はもちろん、その生み出されたストームは全て
「討伐はサウジアラビアなどの中東を管轄とする第7師団、ヨーロッパのEU師団、北米師団が行い、最終的に24万4000人が亡くなったとされ、怪我人は1000万人を超えるという統計データがある」
怪我人の桁がぶっ飛んでいる。一体原爆何個分の被害なのだろうか。
「その壊滅的な被害を単体でもたらしたこと、その凶悪性を天災の如く人々が語った。それにより分類がデッダストクラスに格上げされ、学名が
このSKについては教科書で説明したり、当時の映像を用いて解説されることもある。それほどに今までの常識をぶち壊したやつなのだ。
「そして、このSKはまだ死んではいない」
そう、これがさらにコイツを恐ろしいと思わせる原因。そして厄災として語り継がれる理由。
「現在、マンハッタン島の近くにコイツの死骸が沈んでいるが、その死骸は完全に息絶えてはいなかった。誰も立ち入ることのできないフィールドを生成し、自己再生を行っているという」
これが分かったのは2280年に行われた
「あらゆる国際機関は混乱を防ぐため、表向き、『復活することはなく、復活したとしても以前の強さはない』と説明したが、お前たちは特別だ。だからあえて言うぞ。
急に告げられた事実に震えが止まらなかった。あんなやつと戦うの?無理だって!
「死にたくなれば必死に自分を磨くことだな。このヒヨコどもが」
そう言われるのは少し腹立たしかったが、言うことは最もだ。強くならなければ明日はない。
(僕は——明日のために、強くなる!)
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