第17話 新たなる

第17話 新たなる


ほどなくして列車は動き、目的の駅へと着いた。

「ここから少し行ったところに駐屯所があるらしい。歩ける?」

「ええ、もちろんよ」

少し重そうな荷物を抱えていたハナを心配するが、大丈夫なようなのでとりあえず先を急ぐことにした。


しばらく歩くと、柵で区切られた一区画が見えてきた。

「ここだね」

ついにたどり着いた。

「ここが、ストーム財団ストームバスター北アフリカ師団第四駐屯所・・・・・・」

厳かな雰囲気はないが、確かに近寄り難い雰囲気を醸し出す施設だった。

「取り敢えず中に入って・・・・・・」

そう言って中へと入ろうとしたとき、

「何者だ」

そう言って呼び止める者がいた。二人が振り向くと、年はおそらく自分達と同じくらいだろうか、そのぐらいの少年が自分たちに話しかけてきていた。

「えっと、財団の方・・・・・・ですか?」

「いかにも、私はここの駐屯兵として働くものだが?」

自分たちへの警戒心があるのかずっと睨んでいる。正直に言うと怖い。いつ噛みつかれるかわかったもんじゃない。

「自分たちはここに来るように言われて来たものなんだが、話はきいていないか?」

「・・・・・・そういえば数日前にそんなことを上官たちが話していたかな・・・・・・」

少年は斜め上を見上げながらそう言った。

「取り敢えず中に入れ。話はそれからだ」

そう言ってその少年に着いていく形で施設の中へと入っていく。

「俺は別に他人のことはどうだっていいが・・・・・・先に忠告しておくぜ」

建物へと入る前にその少年は前を向いたままこう言った。

「イカサマしてまで入る組織じゃねえぞ?」

(めっっちゃ嫌なヤツ!)

エヴィルはそう思いつつも、ここで引き返すわけにはいかないと思った。

「それなりの覚悟はしてきてるんでね。それに・・・・・・」

なるべく頭に残るように耳元で言ってやる。

「イカサマかどうかは・・・・・・実力で示そうぜ?」

「フン・・・・・・口だけは達者なヤツだな」

そう言って二人の仲は最悪の状態で入っていった。


「取り敢えずここで待っとけ。上官に話通してくるからよ」

そう言って乱雑にドアを閉められる。

「なんかあの人・・・・・・怖いね」

ハナは率直に自分の感情を述べた。

「多分、実力が相当あるからここに入ったと考えているんだろう。プライドが高くて自己中心的なのは当たり前だ。なぜならそれ以外に取るところがないからな」

エヴィルも散々な思いも持ちつつ、それを心の奥で押し止める。

そうしてたわいのない会話を続けていると、ドアが再び開いた。

「久しぶりやな」

そこにはサルベル副団長がいた。

「話は既にりとる。なにも心配せんでええで」


あのあとにこの話が舞い込んできたときには何かの間違いかと疑った。ここまで積極的に本部が接触を見せてくるのは珍しいことだったからだ。

「どうするんです?断ることもできると思いますよ」

「いや、ここはあえて素直に請けよう」

「え?いいんですか?上層部が直接的に動いてるんですよ!?」

サーヤがそう訴えるが、それにこう説得する。

「別に断ったところでそれ以上に進展はないし、上層部のことや、バックアップとかそういうのはすべて完璧にしてあるはずや。でもこいつらを利用すれば定期的、永続的に上層部の情報を掴めるチャンスになる。俺はそっちに今回は賭けてみようと思うで」

「そう簡単にずっとうちが主導権を握れるでしょうか?」

「あくまで決定権はあちら個人にある。一人の人権までは握れんけど、それはあっちも同じのハズや。今はここに配属するって言うてんのやから大丈夫やろ」

「こちら、というよりあっちの問題、ということですね」


サルベルの狙い通りの展開にはなった。ここからは普通に仕事をさせつつ、情報部からの再コンタクトを地道に待つ。

「ちゅうわけでよろしくな。知っとると思うけど、俺がこの北アフリカ師団の副団長であり、第二兵団を率いるサルベルや」

エヴィルは思っていた以上にコミュニケーションが取れることにびっくりした。

(テレビであんな吠えてた人が仕事中だとこうもなるんだ・・・・・・。やっぱ環境って人を変えるんだなあ)

「あ、そうそう。一応おまえも来い」

そう言って手招きをした。すると、先ほどこの部屋に通してくれた少年が脇から出てきた。

「お前たちとおそらく同期・・・・・・ちゅうことになるんかいな。互いに自己紹介せいや」

「・・・・・・訓練兵のアランだ。よろしく」

「エヴィルといいます。よろしくお願いします」

「はじめまして。名前はハナです。以後宜しくお願いします」

「・・・・・・互いに自己紹介ができたみたいやな。じゃあアラン、こいつらにここの施設を紹介してこい」

「え?」

「え?やなか。やれ」

「はい!」

一瞬でサルベルの声が変わる。一気に圧のかかる話し方へと変わった。

「じゃあな。俺は別の仕事があるんでまたな。夕方ぐらいに戻るわ」

そう言ってサルベル副団長はどこかへ行ってしまった。

「どこに行くんだろう・・・・・・」

「SKを倒してきたらしいからその報告書を提出しに行ったんだよ。俺も行きたかったなあ」

(根っからの戦闘狂かよ・・・・・・)

エヴィルは少し引き気味に距離を置くことにした。


「なんで俺がおまえらの世話を見なくちゃならねえんだよ!」

急にアランが大声で言う。

「そりゃあ先輩だからじゃない?」

エヴィルがそう返すと、

「俺もここに来たの一週間前くらいなんだけど!?まだこの施設全体の構造よくわかっちゃいねえし!」

確かにそうだ。同期・・・・・・ということはこの4月中にこの仕事についたということだからな。

「ま、取り敢えず教えられるところだけ教えてやる。二度は教えねえからな!」

そう言ってアランは歩き始めた。

「ぐずぐずしてると置いてくぞ!」

「待ってよ〜」


「ここが集会所だ。」

少し開けた場所に来た。天井は吹き抜けになっており、光がよく差し込んでくる。

「戦闘前にここに集まったり、集合!って言われたときはここに集まるんだぜ。ちなみにここに集まるっていう訓練もあるらしい。何のための訓練だって思うけどな」


「ここが訓練場だな」

彼らは道場のような建物の前にやってきた。

「まだ先輩が使ってるから中には入れねえがまあ大体イメージはつくだろ?俺は最初コレなにかわからんかったけど、地元民ならわかるだろ」

「え?おまえ、ここらへんの住人じゃねえのかよ」

「ああ、俺はインドネシアからここに来た。文化も全く違うから一から学んでるんだよ。土地勘も全くねえし、どうしようもないんだ。」

なんだか情報弱者、ってことがわかった瞬間、悪い笑みが零れそうになった。でも、まだ初対面だし、このことが後々響いてくるかもしれないから一旦は心の奥にしまっておくことにした。

「どうしてこんなところに?」

ハナがそう聞くと、

「俺はアジアの試験を受けたんだが、なんか推薦で飛ばされちまった。俺と一緒に何人か来たが、そいつらは第二駐屯所の方に配属されて、俺だけ一人なんだよ」

なんだか聞けば聞くほどかわいそうになってきた。

「優秀だからこういうふうに推薦されたりするのはわかるんだけどさあ、もうちょっとやり方があるってもんでしょ!」

一人でキレているアランを放っておいて、別のところに視線を移す。

「あっちの運動場は?」

「え、あ、ああ。あっちは屋外訓練場だ。射撃場とかも併設されてる。実際に兵装を使うこともあったりして、より本格的に実戦に近い形で訓練が行われるんだぜ。やったことないけど」

(どう考えても最後の一文、蛇足だよね)

そう思いながら次の場所へと足を運んでゆくのであった。


「ここが食堂だぜ。どうせだしなんか食べていこうぜ」

気づけばいつの間にか時刻は昼過ぎになっていた。エヴィルはブリック(チュニジアの料理。春巻きのような包み揚げ)を頼んで食べた。ハナはオムレツを食べていた。アランは・・・・・・おそらくインドネシアの郷土料理らしいご飯を食べていた(後で調べたがナシゴレン、という料理らしい)。

「ここの料理、結構いけるだろ?どれもクオリティが高くて好かれてるんだぜ。中には外食するよりもこっちのほうがいいっていう人もいるらしいぜ」

それはそうだろう。舌の肥えていないエヴィルでもわかる。コレを作っているのは間違いなく腕のいい料理人であると。

「腹もふくれたし、別の場所でもいくか」


「ここが、武器庫だ」

エヴィル達は訓練場から少し離れた、おそらく施設の入口から最も遠い場所に来た。

「ここに駐屯所の武器と、俺等の訓練用の武器、実戦用の兵器とあらゆる武器が格納されてるんだ」

内側を覗いてみると、確かに銃やおそらく隊員のスーツらしきものがいくつも見える。

「それにしても武器庫ってこんなに大きいんだね」

武器庫の全容は横が10mぐらい、縦には20m弱、高さは6m程度だろう。だが、武器を収納するには大きすぎる。

「もしかしてここ、装甲車とかも格納してるの?」

「そうだぜ?奥に一応置いてある。それの手入れとかで見る機会はあるだろうな」

「へー」

エヴィルたちにはあまり武器には執着がない。まあ当たり前なのだが。

「とりあえず、ここはあんま説明するものがねえから次行くか」


「ここは?」

「そこは兵団長の部屋だ。」

「ていうかここの師団編成ってどうなってるの?」

「公開されてんだからそれぐらいは知ってろよ・・・・・・。まあいいわ。教えてやる」

そう言って一息ついて話し始めた。

「とりあえず一番上にストーム財団っていう財団の上の組織があって、その下にストームバスターっていう下部組織があるわけ。ここまではわかるな?」

「流石にそこはね。その下がわからんのさ」

「まずストームバスターは複数の師団から構成されている。第1師団から第7師団までは日本から中東のエリアをそれぞれが担当する。ヨーロッパにはEU師団があるけど、これはほとんどEUの指揮下に入っているからほぼほぼストーム財団の指揮下から外れてEUの傀儡軍になってるぜ」

「あ、EUの軍勢ってストームバスターEU師団のことだったんだ」

「認めたくねえけどな。アフリカには北アフリカ師団以外にも中央アフリカ師団、南アフリカ師団があるぜ」

「え?南アフリカ師団なんてあったっけ?」

「最近発足したんだってよ。アフリカも度重なるSKの連発で管轄地域をもっと小さくしないともたないらしい。で、それ以外にも北米師団、南米師団があるよ」

「オーストラリアは・・・・・・そっか別の財団が影響力を持っていたんだっけか」

「そう、そこだけはストーム財団の影響をほぼ受けてない地域なんだよね。まあその理由は先の大戦の影響をほぼ受けていないからなんだけど」

「で?北アフリカ師団の下は?」

「師団長が統括するシステムになっていて、師団長が直々に指揮する第一兵団、サルベル副団長が率いる東側に駐屯拠点のある第二兵団、西側に駐屯拠点のある第三兵団、各師団との管轄が重なるところに駐屯されている第四兵団。これらが全てだね」

「北アフリカ師団の第四兵団とかほとんど聞いたことなかったんだけど・・・・・・」

「まあ、第一兵団以外は地域を限定して動くからな。」

「どうして第一兵団は直属の兵団なの?」

「まあ、それは・・・・・・、俺にもよくそこの仕組みはわかってない!また今度副団長に聞いてみよう!!」

「結局おまえも詳しくはわからんのかい!」

「仕方がないだろ!まじで軍団編成複雑なんだもん!いちいちわかるわけ無いだろ!」

(おまえが説明し始めたんだけどな・・・・・・)

だが、この組織が複雑な構造によって成り立っているということはわかった。

ちなみにサルベルの言う上層部とは、一番上のストーム財団直属の人たちを指す。位としては各師団の師団長と同等、あるいはそれ以上の地位となっており、強力な資本家や権威のある研究者がその地位を牛耳る形となっている。だがそれも所詮、その程度の者たちである。本当にこの組織の最高幹部達、ひいては財団の長が誰なのかは、上層部でも知る人は限られ、接触できる人となるとさらに少なくなる。故に最高幹部達は存在すらも怪しまれる存在であり、都市伝説的な説には機械頭脳、AIが創始者なのではというものもある。だが、それはあくまで一説にすぎず、真相は明かされない。だが、時折、映像などで財団の長らしき人が出ることがある。だが、その姿は逆光で顔を捉えることはおろか、本当に人間なのかさえも確認できない。それほどまでに自身の素性をさらさない、慎重な、悪く言えばひきこもりなのである。


「ま、主要な施設は全部回ったな」

その後の数時間で残りの主要施設を回りきり、最初にここに入ってきた門のところに来ていた。いつの間にか日は地平線に落ちようとしている。

「お、丁度いい時間みたいやな」

声のした方を見ると、サルベル副団長が複数人の戦闘員らしき人たちを連れて戻ってきていた。

「こっちも報告と後処理が終わってな。今帰ってきたっちゅうわけや」

副団長の仕事も色々と大変そうだ。

「とりあえず寮に行こうか。荷物は既に届いとる」

「そうだった。今日から寮の暮らしなんだ」

アランはそう言って施設の中に入っていった。

「僕達もいこうか」

そう言って荷物を取りに向かうのだった。そして、ついにストーム財団ストームバスター北アフリカ師団の一員としての、生活が新たにスタートするのだった。

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