第14話 終わりはない
第14話 終わりはない
「よう守ってくれたな、この死体」
サルベルは男の死体の解剖室にいた。サルベルの見ている前でおそらく技術班、もしくは研究員だろうか、その人が死体を解剖するのをじっと見ている。
「いえ、先についていたのがコッチだっただけッス」
死体を解剖しているのは北アフリカ師団の技術班の
「いや、
「あー・・・・・・それについては触れないでほしいッス」
「どうしてだ?」
本人はただ興味があったから聞いただけだが、普段のことと相まってものすごく高圧的に聞こえる。それはニーベルンも例外ではないらしく、
「あ・・・・・・はい・・・・・・、えっとですねそれは単純なハナシで・・・・・・」
「早く言え」
「警察にはすでに逃げられたってハナシでいったんです。この人は単に巻き込まれただけだって」
「それで?」
「そしたらすんなりと死体を渡してくれたんで、急いで運び込んだわけッスよ」
そう言い終わると、ゴム手袋をし、死体の前に立つ。
「それじゃあ死体の解剖を始めるッス」
「はい」
複数人のおそらく助手と思われる人が返事をする。
「メス」
彼がメスをとったその瞬間、彼の雰囲気が変わった。彼は刃を肉に当てると、慣れた手つきで開胸をしていく。
「前のやつとは全くの別物ッスね。コレ、ここで変に解剖するよりは施設でやったほうがいいかもしれないッス」
「そうなのか?」
「他のストームヒューマノイドとは比べ物にならないくらい人間と体の構造が似てるッス。限りなく人間に近い種だと思いますよ」
ストームクリーチャーにも大きく2つの種類がある。その一つはデイビル・イーグルなどが含まれる『ストームビースト』と呼ばれる種であり、主に体の構造が人間と全く異なる、もしくは存在した動物に近いものである場合に分類される。本能的に活動している種が多く、言語などを介すことが不可能なSKを指す。
もう一つが『ストームヒューマノイド』と呼ばれる種だ。単純に言うと人間により近い性質や肉体的特徴を持ち、狡猾で知能の高いものを指す。
「具体的にどのへんがそう思うんだ?」
サルベルも死体を覗き込む。
「今切ってみて感じたのは胸筋のつき方とか、臓器ッスね。人間にある胃とか肺があるッス」
「普通のやつにはないのか?」
「いえ、ないことはないっすけど・・・・・・、通常だと胃はもっと体の下辺り、腰の付近にあったはずですし、肺だって、こんな大きくありません」
体を指しながらニーベルンは説明する。ほぼ内臓に関してはド素人のサルベルでもなんとなく理解ができた。
「じゃああれはどうなんだ?“核”」
「えーっと・・・・・・」
サルベルの問を受けて、ニーベルンはメスで体を裂いていく。
「あっ、ありました。でもすげえ場所にデキてるッスねえ」
ニーベルンが指し示した場所にあったのは、赤黒い球体状の器官だ。だが、気持ち悪いほどに完璧な球体で、動けばすぐに体の中を転がりそうだ。
「まさか、首元とはねえ」
しかもその器官は首の根本にあった。
「面白いッスねえ。研究のし甲斐があるッスよ」
そう横で興奮するニーベルンを放っておいてサルベルは死体のその器官を見ていた。
「どうしたんすか?」
「いや、ボクの撃った銃弾がいくら正確でも、胸に一発撃ち込んだぐらいで普通死ぬかいな」
「そう、それなんですけど」
そう言って胸の方を指差す。すると、
「え?」
サルベルも一瞬凍りついた。
「心臓!?」
よく見ると、心臓のような臓器があった。
「そうなんスよ。若干退化はしているものの、しっかりと心臓があるんスよ。これも従来のモノと違う特徴の一つッスね」
「まさか、これって・・・・・・」
「はい。おそらく、コレを一撃で撃ち抜いて、生命維持ができなくなったんじゃないかと思うッス。正確には調べいかないとわからないッスけど・・・・・・」
「いや・・・・・・、いい」
「え?」
ニーベルンは聞き返したが、無視するように部屋を出ていってしまった。
「サルベルさん・・・・・・」
部屋を出たサルベルは誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「・・・・・・すまんな」
「とりあえずこちらの部屋で待機していてください。また何かあったら来ますので」
そういって部屋に案内したサーヤは部屋を出て行った。
「とりあえず一息つけるな」
おじさんはそう言って用意されていた椅子に座った。部屋には椅子と机、それ以外には特に何もなく、実験室だった様子や、診療に使うとは到底思えない部屋だった。
「なんか変な部屋だね」
「そうかしら。私はそうは思わないけど・・・・・・」
「なんかこう、無機質でいやだなあって思った。監視されてるみたいだ」
「言われた通りにしましたよ、副団長」
「おう、ご苦労」
あの部屋を出た後、サーヤはサルベルのいる部屋へと赴いていた。その部屋には大量のディスプレイがあり、その中には多数の映像が映っていた。そして、エヴィル達のいる部屋も映っていた。
「本当にあれでよかったんですか?本来ならすぐに医者に診てもらえますよ」
そうサーヤが言うと、
「俺だって最初はそうしようと思っていた」
「思って“いた”?」
「あいつらに会ってから、ひいてはあの男を射殺してから上が変な動きを見せている」
彼の言う上、とはストーム財団本部から来た人間であり、現状、仲はよくない。
「あいつらに何かあるのか、それとも単純にあのSH(ストームヒューマノイド)に興味があるのか。どちらかは知らんが、こうして上が何かアクションを起こしたらとっ捕まえて話をしようと思ってな」
「でも拳銃で足を撃たれてるんですよ?弾は貫通しているとはいえ、診せたほうがいいんじゃ・・・・・・」
「そこが少し引っかかるんだ」
きっぱりと言う。
「普通の人間ならあんな簡単に銃でできた傷はふさがらん。よほど血がドロドロか、そういう体質か、あるいは・・・・・・」
あえてここで言葉を濁した、ということはそうなのだろう。
「・・・・・・で?そう思う確率は?」
「限りなく低い。SK独特の感じもニオイもせえへんしな」
「まあ、別に私はいいですけど、コレ、本当ならヤバい行為ですからね」
「それは重々承知の上や。いかれとるよな」
だが、彼とて奴らの秘密は探りたい。いらない詮索だとしても潰しておく価値はある。
「上の職員、一応このまま帰りそうですね」
映像を見ていたサーヤが言う。だが、
「待て!さっきまでいたもう一人は⁉」
最初は二人で映っていたはずの一人がいなくなっている。
「え?あ、ホントだ!どこに・・・・・・」
「カメラの死角か!くだらんやり口をしおって!何はともあれ行ってくる。ここは任せたで!」
そう言ってサルベルは一瞬で部屋のドアを蹴って飛び出した。
「全く・・・・・・どいつもこいつも・・・・・・!」
その時、職員はカメラの死角となる通路で電話をしていた。
「はい、対象の顔は確認できました」
「で?どうだった?」
「はい、間違いありません。お探しのものでした」
「そうか・・・・・・」
電話の奥で背もたれにもたれかかる音が聞こえた。相手は男のようだが、通話先は???となっている。
「これからどうしましょうか」
「そうだな・・・・・・、私がまた直接指示を師団に下す。お前はそれまで待機だ」
「了解しました。この件はそちらに委ねる、ということで」
「ああ、任せておけ」
そう言って電話を切った男は喜ばし気に紅茶を飲んだ。それからして、何か思い立ったのか、机の上にあった固定電話をとる。
「・・・・・・もしもし、私だ」
「何かありましたか?」
「うれしい報告だ。我が息子たちが帰ってきたぞ」
「まじ⁉超うれしいんだけど⁉」
電話の相手は複数人らしい。いろいろな声が聞こえる。
「それで?どうするの?」
「いったんは奴らの目で監視させる。場合によっては・・・・・・ってところだ」
「なるほどねえ・・・・・・でもあの計画はどうすんのさ」
「もちろんアレも行うさ。だがその中に彼らが混ざるとするならば・・・・・・」
「これは面白いことになりそうっすね!」
「ああ。実に気分がいい」
そう言って立ち上がる。
「我々の計画は、今再び起動したのだ」
電話をかけ終わった職員は、その場をあとにしようとした。が、
「おい」
急に声をかけられ、振り向くと、そこには鬼の形相でサルベルが立っていた。
「オマエ・・・・・・ここで何をしている?」
「業務連絡ですよ。それ以外はなにも・・・・・・」
「ほー?わざわざ立ち入り禁止の場所に行ってまでか?」
サルベルの立っているところの横には、関係者以外立ち入り禁止の張り紙があった。
「確かにオマエらにはうちの施設を自由にうろつく権利はあるで。でもな、こういう場所に入っていい権利は認めてないで」
長年の癖なのだろう。こういうところに入って連絡することは。
「さあ、ゆっくり話を聞かせてもらおうやないの。人がいるところでは絶対できない話をな」
だが、その職員はこう言った。
「単純に新手のSHが出たからその報告ですよ。こういうのは別の師団にも伝える必要があるでしょう?」
「だとしたらなんでこんな所に来たんや」
「相手はあなたでは会えないほどなので。重要なんですよ、私は」
「その口ぶりからして・・・・・・おそらくボスかその幹部クラスか」
ストーム財団のボスはめったに姿をあらわさない。たいていの場合、声のみの場合が多い。そのため、その人物像を知る人は数少ないのだ。当然、その幹部も同じようなものだ。
「そういうことなので。あなたがた下請けとは次元が違うんですよ。」
そう言って男は隣を通り過ぎていった。一人残されたサルベルは壁に拳を打ち付けた。
「クソっ!」
「え?もういいんですか?」
その後、サルベルからの電話に出たサーヤが言う。
「やっぱ尻尾掴むの難しいわ。逃げられた」
「そうっすか・・・・・・」
電話の声から沈んでいるのがわかる。
「とりあえずこれ以上待たせるわけにもいかんし、もう治療させてくれ」
「了解です。案内しておきます」
そう言って電話を切った。
(逃さん・・・・・・オマエらの本性がわかるまでは・・・・・・!)
その後、エヴィル達は治療を受けると同時に、団員から聞き取りの調査を受けることとなった。詳しくはわからなかったが、透明化の能力を保持していることを言うと、とても驚い・・・・・・いや、興味深そうに聞いていた。
傷の方は特に問題はないと言われたものの、やはりボクの傷の治りは異常というふうに言われた。
この一言で片付けてはいけないんだろうけど、そう言うしかないから言うけど、このように傷の治りやすい体質なんだ。ボク自身、あまりわけはわからないけどね。でも、一つわかったことがある。それは・・・・・・
この組織、いや組織の一部の人達にとって、ボクらは“特別な存在”らしい。でも何をもってそう判断するのかは、知らない。それを知るのは、きっと、全てを知ったあとだと思うから——
数日後、ボクとハナ、そしておじさんはある人に会わされた。いや、向こうがこちらを呼んだ、というのが正しい言い方だろう。そして、その人はこう言ったんだ。
「ようこそ、ストーム財団へ——」
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