第13話 The end and now never the last
第13話 The end and now never the last
「動くな!」
その声は唐突に響いた。誰もが驚いた。そして、瞬時にスキが生まれた。
「消えろ」
その瞬間、銃声が響いた。
「がっ・・・・・・」
男は胸を抱いて倒れる。
(クソ、俺としたことが・・・・・・、まさか・・・・・・ストーム財団にやられるとは・・・・・・)
男の胸中には後悔の念がこみ上げた。しかも相手は・・・・・・
(絶対死のサルベル・・・・・・。流石だ。一撃で心臓を撃ち抜きやがった)
もはや助かることはないだろう。だが、このままでは終われない。一抹の希望を託す。目の前の少年——エヴィルに地を這い、近づいた。そして——
「!!」
男の体は空気を取り入れるのをやめた——
その直後に警察と財団、両方が一堂に集い、再び言い争いになっていた。でもそんなことは心底どうでもよかった。
「エヴィル、大丈夫?」
ハナが話しかけてきた。ハナが工場地帯の外れで出会ったのは、サルベルだった。その後、サルベルは財団の職員を全員この付近に集合させ、しらみ潰しに僕らを探していたらしい。でも・・・・・・。
「いや、あの判断が、正しかったのか、わからないんだ」
あの男は即銃殺された。たしかにあの状況なら正当防衛で、何もお咎めなしだろう。でも、エヴィルにはどうしても、あの男が悪者だとは思っていないようだった。
「・・・・・・」
「僕が逃げるのを手間取ったせいであの人が死んだとも考えられるんだよ。僕のやったことが果たして正しいことだったのか・・・・・・、他に方法はなかったのか・・・・・・、それをどうしても悔やまずにはいられないんだ」
「どっちでもいいと思いますよ」
いつの間にか背後にサーヤが立っていた。
「私達からしてもわかりません。あの男が何の目的で、何で行動を起こすのか・・・・・・」
サーヤは遠くの夕焼けを見ながら言う。
「でも、我々は我々の信条に基づいてやることをやったまでです。いちいちそんな小さなことを気にしていたら、この先の何十年、やっていけませんよ」
そうして後ろを振り向く。
「特に、ああいう人の下で働くにはね」
そう言って笑った。
「それにしても、よく逃げ回れましたね」
急にサーヤが言う。
「人じゃないかもしれませんが、大人一人から逃げるってけっこう大変ですよ」
「とにかく、必死で・・・・・・」
そう言って弁明するエヴィルを見つめる。
「まあ、そうですね。危険なときほど、人間という生物は、燃えるものです」
そう言ってサーヤは一人納得したように頷いた。
「あなたも銃で足を撃ち抜かれてるはずです。我々の救護施設に来てください。もちろん、貴女も一緒に」
そう言ってハナの方を見た。
「ええ、わかりました」
「それではまた、車のほうが手配できたら呼びに来ますね」
そう言ってサーヤは財団員の集まりの中に入っていってしまった。
「エヴィル!」
サーヤと入れ違いになるように、大きな声を上げて近づいてくる人がいた。
「おじさん!」
ハナが手を振って答える。
「無事だったか!」
おじさんは自分たちが無事だったということに、ひとまず安堵したようだ。
「大丈夫か!?怪我はないか!?」
「大丈夫よ。私は特に怪我してないし、エヴィルの方は・・・・・・」
そう言ってハナが視線を移すと、
「右足を銃で撃たれちゃって・・・・・・。このあとストーム財団の救護施設に行くことになってるんだ」
会話の途中、おじさんの顔が一瞬、険しくなったように感じた。でも、気のせいだと思うことにした。
「・・・・・・そうか。痛くはないのか」
「止血はしてるし、弾はどうやら体内で溶けるやつだったっぽいんだよね。だから今は特に痛いところはないかな」
「なら安心だな」
おじさんは上を向いた。その時だった。
「おーい、準備できたよー」
サーヤが走って戻ってきた。そして、近くに立つ、謎の男に視線が移る。
「あのー、すいません。誰でしょうか?」
「あ、この子達の保護者です。子どもたちがお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ」
サーヤは男と少年たちを見比べるように見る。その視線に気づいたのか、おじさんは言う。
「この子達は孤児なんです。それで、私が今、家に引き取って面倒を見ています」
そう言うと、サーヤも納得したようだった。
「そうだったんですね」
「似てないでしょう?」
おじさんはニヤッと笑う。みんな笑った。
「それじゃあ三人とも、あちらに車を用意していますので、そちらまで来てください。首都の方まで少し時間がかかりますが・・・・・・」
「首都!?首都ってオベリズグのことですか!?」
この国、北アフリカ共和国、もとはリビア、チャド、エジプト、スーダン、エチオピアなどを中心とする地域だった。その首都はスーダン、チャド、リビアの国境付近であり、この国のほぼ中心に居座っている。
「そうなんですよ~、近くを当たったんですが、なにせあの被害でしたから・・・・・・」
「何かあったの?」
ハナがそう聞く。
「ああ、ストームクリーチャーが街を吹っ飛ばしてったんだ。それに巻き込まれた人が多くてね。エヴィルは巻き込まれなかったのか?」
「僕もそれは喰らったけど、地面に伏せる形だったからあまり怪我はしなかったよ」
「それは幸運だったね。巻き込まれた人はみんな重傷だから大変なことになってるんだよ」
ストーム財団は各自に直属の病棟がある。それは戦闘での傷を癒やすとともに、ストームやストームクリーチャーでの被害者の回復に努めているからである。
「それもあって近隣の病棟が全て埋まってしまったんだ。デッドクラスがここまで大きく暴れるのも久しぶりだし、完全に不意打ちをくらってしまった。そこは反省点ですよ」
「それで首都の病棟にか?」
おじさんがそう聞くと、
「それもあるんですけど、あのヒトについても二人からは聞くことがありそうですから」
そうサーヤは返した。
首都への道のりは少し長い。だが、主要幹線道路が整備されつつある今、首都へのアクセスはけっして悪くはない。だが、広大な砂漠のど真ん中にこのような素晴らしい幹線道路ができるとは考えにくかった。
「周り、全部砂漠だね」
「そりゃあこの辺は乾燥帯と熱帯だからな。特にこの変にはサハラ砂漠っていうどデカい砂漠があるからな。これだけ周りが砂だらけでも、こういう文明の利器は活躍できる時代が来たってことだ」
「ふーん」
エヴィルは再び窓の方を向く。ところどころに村のような集落がいくつか見えるが、どれもちっぽけで前時代的だ。
「でも、その文明は平等に配られるものではない・・・・・・」
そのような状況のエヴィルを見て、おじさんがつぶやいた。
「いつかみんなに平等な文明の時代が来るといいね」
「来ると、だけどな」
おじさんの目は少し悲しそうだった。おじさんのことはあまり僕らは知らない。おじさんが働いてるのは町工場だ。だからあの場所でも大体の場所がわかった。昔はよくついていっていたものだったが。
元は違う職種についていたようだけど、それについては全く知らない。というか教えてくれない。
(だからおじさんは兵士だったのかなって思うんだよね)
実際に僕たちを見つけて拾ってきたところ、国の北東部なんてほとんどの人は行こうなんて思わない。でも、その最前線で戦う兵士なら別だ。行きたくても行きたくなくても平等に行かされるのだから。
(世界一いらない平等だよね)
未だにその傷が消えていないのでは、癒えていないのでは、とエヴィルは思っている。何かを失うのがつらいのは誰もが知っている。でも、それよりも罪悪感というものを持ってしまった人間ほど、つらい。それが一生消えない罪咎だとしても。
しばらくしてくると遠くにビル群が見えてきた。
「久しぶりだな、首都オベリズグ・・・・・・」
「前に来たことあったっけ?」
エヴィルがそう尋ねる。
「たった一度かな、お前たちを連れては・・・・・・」
だが、その先の言葉を発することはついになかった。
「ここが我々、ストーム財団ストームバスター、北アフリカ師団の拠点にして、師団の持つ最大の医療病棟、北アフリカ第一拠点です!」
その建物は、想像よりも遥かに大きかった。おそらく表向き、の入口なのだろうが、あまりにも一般受けを狙うかのような清潔感ある、だが厳粛な雰囲気を感じさせない、そんな入口だった。とても軍事施設だとは思えない。
「でもここって昔、軍事工場があった場所だよな?」
おじさんがそうサーヤに尋ねた。
「はい、以前はそうでしたが今は我々の拠点となっています。もともと、第一拠点は別の場所にあったのですが、大規模なゲリラの襲撃で壊滅的な被害を受けたんです。特にあの戦争はひどかったですから。我々のような公的な軍事機関も少なからず目標にされたんですよね」
「思い出したくもないことだな」
「そのとおりですよ。実際にうちの戦闘員も巻き込まれて死んだ人も少なくありません」
エヴィルたちが生まれた年に勃発した戦争。その戦火は瞬く間に国中を巻き込むほど大きくなった。
「その後、政府が反軍閥、戦争反対の方針に変えたことによって使われなくなった工場を、我々の拠点として作り直したわけですよ。敷地自体はすごく大きくて中央でしたからね。さあ、いきましょうか」
そういってサーヤに言われるまま、拠点の中へと入っていくのであった。
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