第11話 運命

第11話 運命さだめ


「ここが例の場所か」

サルベルはナブド礼拝堂に着くなり、顔をしかめた。

「相当イカれてんな」

礼拝堂の上は吹き飛び、中は抜け落ちた天井に潰されたであろう人の紅き血が滲み出していた。臭いも相当なものだ。

「こんなところで作業したくねえな。結果だけ報告してくれ」

そう言って背を向けようとした時、サルベルの目にあるものが映り込んだ。

「ふ、副団長⁉︎」

驚いて振り返ると、そこには地面を触っている副団長の姿があった。

「副団長・・・・・・?どうかされましたか」

「・・・・・・いや、なんでもない」

手は紅に染まっていた。


「そういえば頭の怪我は大丈夫?」

ハナの言葉にふと気付く。

「あ、そういえば飛ばされた時に後頭部を打ったんだよね。でも特にひどいわけじゃないから大丈夫だよ」

「そう・・・・・・。それならよかったわ」

少し嬉しそうに微笑んだ。


その頃、サルベルは少し礼拝堂から離れたところに来ていた。

「どうされました?」

サルベルの右腕であり、補佐を務めるサーヤが尋ねた。

「この血痕、変やと思わんか?」

そう言って地面を指し示す。確かにそこには血痕があった。でも特に不自然ではないように見えるが・・・・・・。

「言われてみればそうですね・・・・・・、多量の出血にしてはよく動いてますね」

サルベルの後ろにも血痕は続いていた。ここから礼拝堂まで歩いて十分。血痕は点々と落ちているが、それでも結構な量になるだろう。それでもこれほどまで動けるとは、考えにくい。

「でも別の人が運んでいた可能性もありますよね?」

「それは無いだろ。だって・・・・・・」

そう言って目の前を見る。

「ここは町外れの工場地帯だぜ?病院があるわけないに決まっとるやろ」

言うことはもっともだ。こんなところに来たとしても意味はない。普通に避難するにしても、こんな町外れまで来ない。

「人攫い、っちゅうことですか?」

「まだ可能性があるってところや。確証も確信もない」

「でもあなたの勘は?」

「ほぼクロや」

「じゃあ私もそう思います」

サーヤのその言葉を聞いて振り向く。

「私の役割は貴方の補佐です。貴方が納得いくまで付き合いますよ」

「・・・・・・フン、今の言葉、永遠のモノにしてやる」

「別にどうぞ」

「じゃあ行くぞ。しっかり着いてこいよ」

「その前にこの血液調べますね」

いい感じなところに水をさされて少しムカついたが、言っていることはその通りなので反論出来ない。

「オマエ・・・・・・あとで覚えとけよ」

そう言いつつ、結果を待つ。

「で?どうだ?」

その問いに顔をしかめつつ答える。

「血液は人間・・・・・・だと思います。でも・・・・・・」

「どうした?」

「血液中に例のストームエネルギーが混ざっていて正確な判定ができません。なのでグレーってところですね」

「初めての事象やな。これは早急に解析班に解決してもらわんとなあ」

SKやストームエネルギーの解析、研究は師団内でも行われているが、それだけではない。ストーム財団本部も独自の研究機関を有しており、そこが一番最先端のストームに関する研究を行なっている。

だが、これは時折師団と研究や調査権利などをめぐって対立することが多く、そのため現場での指揮を行なっているサルベルにとって彼らは憎き存在であるのだ。

初めてのことに少しワクワクするが、これでほぼクロと言っても過言ではなくなった。

「さあ、追うで。血祭りにあげてやる!」

そう言ってサルベルは走っていく。

(いつにも増して殺意高いなあ)

サーヤはそう思いながらもサルベルの後を追って行った。


(想像以上にまずいことになったな)

街のあちこちにストーム財団の団員が見える。

(これ以上ここいらを嗅ぎまわれたらバレる可能性もある・・・・・・!)

男は建物の屋上から降りながら周りを探る。

(ここら辺はまだあまり調べられてない。1人抱えて町外に逃げることはできる・・・・・・)

床についた手を見ながら考える。

「多少の誤算はあるが・・・・・・仕方がないか」

男はついに決めたようだ。


(どうやったら犯人から逃げれる?どうやったら周りを探れる?)

エヴィルは廃工場から逃げる算段を考えていた。

(外にいるか、中にいるかもわからない。なんとかして犯人の居場所を特定出来れば・・・・・・!)

その時エヴィルは思い出した。焦っている時は、足元が疎かになることを。

(あれを使えば・・・・・・!)

エヴィルは下の階にある紐を見た。

(よし!)

エヴィルは下の階におり、紐を持つ。そして自分の考えをハナに話した。

「流石にそれは危険よ。それに貴方だって・・・・・・」

「今はそれ以上に助けが必要なんだ。多少の危険性はわかってる。でも、結局このままここにいても結果は同じなんだ。ならやってみようぜ」

エヴィㇽの目はいつもより野性味があふれているように見えた。そのまなざしを見て、ハナもついに折れた。

「分かったわ。でも、くれぐれも無茶はしないでね」

「ああ、きっと生きて帰ってやるさ」


数分後、男は廃工場に戻ってきていた。

(夢を見るな、今ある目の前のことだけに集中しろ。ただ前を・・・・・・)

そう思いつつ、あの少年を閉じ込めた部屋に行き、ドアを開ける。すると、そこにあったのは驚きの光景だった。

「っ・・・・・・オマエ・・・・・・!」

そこには自力で縄をほどいたのか、自分の掌に縄をもって立っている。エヴィㇽがいた。

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