第10話 スーパーパラレル

第10話 スーパーパラレル


——遠くで大きな音がした。雷鳴とかそういうのではない。なにかこう、例えるならばゾウが30頭くらい地面に叩きつけられた時の音・・・・・・ともいえば説明できるだろうか・・・・・・。とにかくこう、仰々しいものなのだ。それを聞いたハナは危機感を覚えた。

(何やら外で大変なことが起こってそうね)

この工場には幸い何事もなさそうだが、もし何かあったら倒壊する可能性だってある。実際にこの古びた建物は時々きしむような音を立てている。

(どこかに外をのぞけるような——)

窓のようなものを探して、外の状況を確認しようとした矢先、

「バアアン‼‼」

と何かが打ち付けられたような音がした。その後、すぐに風の音がしたため、今さっきの打ち付けられたような音は風が工場の外壁にあたる音だとわかった。だが、やはり大きくきしんでおり、先ほどの強風で天井から鉄板が落ちてきて、そこから木漏れ日が入ってきた。

(ここに長居するのは危険だわ)

直感的にそう感じたハナは決断をするかどうか迫られる。

(このロープは市販のものだし、少し傷んでる。きっとこれなら——)


ストーム財団はその後デーモン・フェザー率いるデイビル・イーグルの群れと戦闘を行ったが、積極性があったのは数体のみで、デーモン・フェザーも旋風を発生させ、攻撃はしてくるものの、どこか消極的で自らとどめを刺しに来るようなことは決して来なかった。

そのような状況を見ながら、師団を率いていたサルベルは違和感を抱いた。

(なんやこのお遊戯会は)

明らかに全力を出していない。止めている、というよりもただじゃれている、戯れているような感覚に近い。

(最初からおかしいと思っとったんや。確かにデイビル・イーグルは仲間意識は強いほうのSBや。でもな——)

そう言って立ち上がる。

(仲間を弔ったり、かたき討ちなんて性質はない)

近くに置いてあった銃を持つ。

(何かに操られてるか、それとも・・・・・・)

そう思いつつも最前線に立つ。

「まあええわ。見てたら腹立ってきた」

「ふ、副団長!」

「俺がこのお遊戯会に終止符を打ってやる」


「・・・・・・よし。何とかなったわね」

ハナは腕を縛っていたロープから脱することに成功していた。立ち上がって背伸びをする。二階につながる階段から脱出するか、事務室のような所を通るか。

(ここは・・・・・・二階から行きましょう)

そう言って足早に階段を上り、二階にあるドアから外へと出たのだった——


男がその廃工場へと帰ってきたのはそのすぐだった。

「くそっ、やられた!」

女——ハナがいなくなっているのにすぐ気づいたのは言うまでもない。

(くそっ、完璧にやらかしたな。もっと注意しておくべきだった、チカラがあると!)

そういって小脇に抱えているエヴィルを見る。

(・・・・・・だがまだ状況はそこまで変わっちゃいないはずだ。それに、俺は彼女に顔を見られていない。つまりまだ俺にたどり着く算段はあちらにない!)

まだだ、と意気込む。

「このままで終わると思うなよ」

そう言ってあたりを捜索するためだろうか。エヴィルを同じようにロープで括りつけると、部屋から出て行っていしまった。

「・・・・・・。」

(・・・・・・やっぱりここに身を隠しておいてよかったわね)

その様子をハナは二階からこっそりとうかがっていたのだ。

(あの男がエヴィルを連れて堂々と戻ってきてくれて助かったわ。でもそれにしても・・・・・・)

ハナは一階に降り、エヴィルの縄を解こうとする。

(あの男、透明化の能力を持っていた)

ハナが外階段から逃げようとした時だった。エヴィルが空中で静止していたのだ。その後、男の体がエヴィルの近くから生えるように出現したのだ。

(おそらくそういう能力を持つ生物・・・・・・!透明な状態で監視なんてされたらやばかったけど、さっき出て行ったし、ものを持てるってことは実体は透明の状態でもあるってことのようね)

縄をほどき、いったん二階へと運んだ。

(でも多分まだ外にいる・・・・・・。今連れて出てもまた同じ目にあうだけ・・・・・・)

ドアのほうをうかがいながら考える。

(エヴィルの携帯もないみたいだし、外への連絡手段が絶望的にないわね)

これでは自分たちが今どこにいるかもわからない。でもこのままではマズい。

(仕方がないわね・・・・・・。ごめんけど、ちょっと早めに起きてもらうわよ)

そう言ってエヴィルの胸に手をあてる。木漏れ日以外の光が照る。

「エヴィル、起きて」


そのころ、市街での戦闘はほぼ終了していた。いや、決着がついていた。

「・・・・・・ふう。無駄に耐えやがって」

なんとかデーモン・フェザーを撃破して、その死体の上に立って見下ろしながらサルベルは言う。

「ちゃんと死ぬ時だけ抵抗してきよって。あ~疲れた」

そう言って銃を投げ捨てる。

(・・・・・・かなり被害を出してしもたな。こりゃ後で怒られそうやな)

残ったデイビル・イーグルたちは散り散りになってどこかへと飛び去ってしまった。やっとのことで倒して肩の荷が降りたと思ったその時、

「副団長!」

と自らを呼ぶ声が聞こえた。

「・・・・・・なんや?」

明らかに声から疲れが見て取れる。怒られそうだなと思いながらも報告は報告である。

「市街の状況報告です。町の約10%が壊滅的な被害、町全体の40%が被害を被っています」

「・・・・・・思ったよりも被害広いなあ。ボクの腕なまった?」

「・・・・・・。」

・・・・・・言えない。口が裂けても意見なんて言えない・・・・・・っ!

「なんか反応してくれ、寂しいやろ」

「・・・・・・私にはわかりません。たまたま強い個体だったのか、それとも本当にそうなのか・・・・・・。私には判断できません」

「・・・・・・そうか。そうよな・・・・・・」

(確かにそうだよな。変な個体やったし、うん。そう割り切ろう。そのほうが気持ち楽や)

「ありがと・・・・・・」

「それと・・・・・・」

感謝の気持ちを言おうとしたが、それをさえぎられ、再びイラっとする。

「あ、何か・・・・・・」

「もうええわボケ。さっさと報告せんかい」

「はっ、はい。最初にデーモン・フェザーが降り立ったという礼拝堂ですが、中にいた人たちはほぼ即死で、何があったかさえわからない状態でした」

「想像させんな。気色悪・・・・・・」

「でもそこにはっきりと残されていたものがあって・・・・・・」

「・・・・・・。」

「昨日の件の報告書、覚えてます?」

「なんかあれやろ。微量の対象以外のストームエネルギーが検出されたやつ」

「その件です」

「で?それがどしたん」

「それと同種のストームエネルギーが検出されたんですよ。礼拝堂の付近で。しかも完全に基準値を超えています」

SKたちは、常時エネルギーを体から放出している。その理由や原理はよく判っていないが、肉体の構造を安定させるためや、基礎代謝の一環であるというのが一般的な説だ。それらを指して“ストームエネルギー”と言うのだが、実を言うと、これは全てに一貫してあるわけではない。

エネルギーは波として観測されるのだが、その波長は種によって変化する。つまり波長の違う2種類のエネルギーが検出された場合、別のSKがいる可能性があるということなのだ。

「・・・・・・信憑性に欠けるな」

「礼拝堂の周りで数カ所あります。調べる価値はあるかと」

サルベルは黙って聞いていたが、突然起き上がった。

「損はさせんのやろな」

「もちろんです」

「ほな、さっさと行くで。このままじゃ終われんやろがい」

(あの群れがここに来たのが偶然じゃなくてもし何かに惹きつけられてきたんなら、粛正せなあかん。死んだヤツらのためにもな)


(まばゆい光に包まれている・・・・・・。天地もわからぬまま、空間上を落下しているような・・・・・・とにかく不思議な気持ちだ)

急に光が強くなる。自分を包み込むように。

(も、もうだめだ。目を開けていられない)


「う、うーん・・・・・・」

「エヴィル、起きて!」

ハナの声で気がつく。

「え、えーっと」

まだうつつだ。だが、しっかりと目を開けている。しばらくすると、やがて意識もしっかりとした。

「ここは・・・・・・」

どこかわからない場所に来て、まだ混乱している。

「あなたも私と同じように誘拐されたのよ。場所はわからないけど・・・・・・多分町外れの工場じゃないかな」

「な、なるほど・・・・・・」

エヴィルはやっと状況を飲み込んだようだ。

「犯人は?」

「私を探してこの付近をうろついてるはずだわ。戻ってこないうちは大丈夫だけど・・・・・・」

「逆にこっちも逃げれないってことか」

硬直状態になってしまった。携帯もないから助けを呼ぶこともできない。

(どうする・・・・・・)

閉ざされた状況から逃げることは難しい。どのようにして、この檻から逃げるのだろうか。


——それは、硬い檻を柔軟な力でこじ開けるというものしか無いだろう。

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