第7話 消えて、はじまる
第7話 消えて、はじまる
そのあとは何事もなく、家に帰ることができた。いや、何事もなかった、とは言えないだろう。気のせいかもしれないが、ずっと帰り道、誰かに見られているような気がした。刺さるような視線だった。でも、振り返ってみてもそこには誰もいなかった——
(あの人の霊でも憑いたんじゃないか)
そう考えるたびに、背筋が凍るのだった。
「大丈夫か⁉︎エヴィル!」
おじさんの第一声もやはり同じだった。
「なんとか大丈夫だよ。全然ケガも浅いし」
「そうか・・・・・・、良かった・・・・・・」
おじさんはホッとしたようで近くのイスにもたれかかった。天井を見上げている。
「ご飯にしましょうか」
ハナがそう言ってキッチンの方に向かっていった。
ハナは料理が上手い。というか手先が器用なのだ。指先の感覚が優れているようで、裁縫の糸通しなどもほぼ一発で糸が通る。エヴィルとは対照的に。ハナが料理ができるようになってからは、一家の料理を作ってくれている。
(献身的というか、生真面目というか、良くも悪くも家庭を持てばいいお母さんになりそうだな)
そう思いつつ、テレビをつけた。やっぱり先ほどの事件がどの局でも大きく取り上げられていた。
「今日午後二時ごろ、市内の国立銀行にて・・・・・・」
「こればっかりだよなあ。出てくるたびに心配したよ」
おじさんが横から言う。申し訳ない気持ちになった。
「一旦着替えてくるなり、風呂入るなりしな。その状態でずっといるのもアレだろ?」
確かに血が固まって気持ち悪い。
「そうだね。ありがとう」
エヴィルは服を脱いで傷を確認する。一文字に切られているが、やはり浅い。斜めに入ったから痛く感じたのだろうか。
(絶対もっと深かったと思うんだけどなあ・・・・・・)
そう思いつつも、風呂に入るのであった。
「やはりアイツ、何かあるな?」
死んだと思われていた男は、近くの建物からエヴィル達の住む集合住宅を見つめていた。
(違和感は感じていた。人を寄せ難い、いや寄せ付けない雰囲気があった。そして・・・・・・)
彼は自分の手元にあるスマホを見る。
「極め付けはコレか・・・・・・」
そこにはエヴィルとハナが写っていた。
「ククッ、やっとだ。やっとあそこに辿り着ける!ワハハハハハハハ‼︎」
男の笑い声が不気味にこだまするのであった。
風呂から上がり、彼が再びリビングに戻ると、
「ご飯できてるよ!食べよう!」
と言われた。エヴィルも素直に卓につき、
「「「いただきます」」」
と言って食事にするのであった。
「キズの方は大丈夫か?」
おじさんが急に話しかけてきた。
「うん、全然大丈夫だよ」
「そんなふうに喋れるなら心配する必要はないな」
と言ってイスにもたれかかった。
「でも本当に痛かったからね。あの爪の翼竜、本当になんてことをしてくれたんだって思うよ」
「まあ追われてたらしいからな。最後に一発かましてやろうと思ったんじゃねえか?」
少しそんなふうに言われると不満だったが、グッとこらえてそのまま会話を続ける。
「・・・・・・僕よりもひどい怪我を負った人もいたよ」
「そうか・・・・・・。でもな、」
おじさんは静かに告げた。
「オレはおまえが今も息をして生きている。その事実だけが重要だ。それ以外は正直どうでもいいんだよ」
「・・・・・・」
「いいか?自分は自分、他人は他人だ。でもな、どこまでを自分として、どこまでを他人とするかは人それぞれなんだよ。オレにとっておまえは自分と同じくらい大切な存在だ」
おじさんには、昔家族がいたと聞く。その悲しみを癒すために僕らを引き取ったのだろうか。
(いろいろなものを失っているのは、おじさんなのかもしれない)
そう思いつつ、夜が明けていくのだった。
次の日。
「行ってきまーす♪」
ハナはそうやって仕事にいった。僕は少々傷を負ったし、銀行も復旧作業中のため、数日間仕事を休むことにした。
ハナが玄関から出ていくと、閉まったドアから視線を感じ、振り返る。だがドアがただ単に閉まっただけだった。
「どうした、エヴィル?」
「いや、誰かに見られてる気がして・・・・・・。気のせいかな」
(見つけたぞ。)
「ようやくだな」
ハナの背後に急に現れた男は言った。その男は、死んだあの男だ。だがハナはそのことを知らない。
「来てもらうぞ、未来のために」
2人の影は、光へと消えた。
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