第6話 その名もSK

第6話 その名もSK《ストームビースト》


「じゃあ、さっさと終わらせるか。」

男の鋭いまなざしが、翼竜たちを戦慄させる。本能的にわかる。こいつとりあってはいけない。

とっさに翼を広げ、空中へと逃げようとするが、それを逃がさない。

「どこに行くんだ?せめて死んで罪の代償ぐらい払わんかい」

そう言った瞬間、翼竜たちの翼に穴が開き、翼竜たちは次々と落ちていった。全く見えなかった。早すぎる。

「ギエエエエエエエ!」

痛みに悶絶している間に男が近づく。

「なんや翼撃ち抜かれたぐらいで。ギャーギャーとうるさいなあ」

銃を直して、素早く腰の後ろにしまってあった小型の剣を抜く。

「早よ両断して仕留めるか」

そう言って踏み込む。仕方がなく、翼竜達も攻撃を仕掛ける。だが、

「その程度でよう僕と戦おうとしたな」

翼竜達は瞬時に首を落とされ、バタバタと地面に倒れていった。

「もういっぺん、赤ん坊からやり直してきな」


その後、警察などの機関が到着したが、もはや片付けを始めているストーム財団の師団に比べればあまりにも遅すぎた。もし来てくれていなければ被害はこれだけでは済まなかっただろう。

「大丈夫かい?」

さっきの男が話しかけてきた。

(この人、見たことがある)

ストーム財団の軍事機関。ストームバスターと呼ばれる機関の内、ここいら一帯のアフリカ北部を担当しているストーム財団北アフリカ師団。その副団長、

(絶対死のサルベル・・・・・・)

剣、銃ともに適性が高く、その威力は類を見ない。だが、性格に難があり、近寄り難いその振る舞いと敵を正確に殺すその両面性から、“絶対死”の異名がついた。

「サルベル副団長!」

奥からおそらく師団の一員とされる男が彼の名前を呼び、近づく。すると、

「俺の名前を軽々しく呼ぶなや、ザコが。一緒に火葬場に送るぞ」

と、急にキレ気味の発言をかました。

「す、すみません!」

慌てて謝り、許しを乞う。

「まあええ、次は腕、反射で折るからな」

(いや、部下に言っていい台詞セリフじゃないでしょ、今の。完全にパワハラだよね)

心の中でエヴィルはツッコむ。

「で、何の報告しに来たんや。簡潔に30字以内に言え」

「はい。瓦礫の撤去が完了して怪我人、死人の搬入が完了しました。」

「ふん、綺麗に30字で言いやがる」

重い腰を上げ、シートがかけられた死体を覗き込む。

「やっぱ圧死は嫌やなあ。誰が誰かわからんからなあ。死ぬ時ぐらいちゃんといい姿勢でいてほしいわ」

ブルーシートを再び元通りに被せ、言った。

「身元の確認ができるものはすぐに家族に伝えろ。それ以外は俺ら預かりや」

「はっ」

短く返事をすると、死体を二つに分けていく。死んだのは5人程度、怪我人はエヴィル含めて30人ぐらいだ。

エヴィルは切られた胸を見る。かなり浅かったのが功を奏して、出血もほとんどなく、特に治療も必要ない、と言われた。

(死にそうなくらい痛かったんだけどなあ。)

自分の傷が軽傷と判断されて少し不満だった。直感では心臓まで抉られたような感覚だった。でも実際の傷を見ると、自分でも驚くように浅かった。医師からも奇跡、と言われた。

(あの死んだ人は、どんな人の家族だったんだろうか)

ぼんやりと、怪我人やその他の人でうごめく、その時間を見つめていた——


「エヴィル、大丈夫?」

気が付いたら隣にハナが立っていた。あまりにも不意を突かれ、流石に飛んで驚いた。

「その胸部の出血・・・・・・大丈夫なの?」

「だ、大丈夫。傷も浅いし服についた血以外は出血していないから」

だがハナは疑念の目を向けてくる。

「大丈夫だって!もしもっと重傷だったらこんなに話してないよ!」

「嘘を隠してるみたいであんまり説得力が・・・・・・」

ウッと、つまるところを突かれた。

「ま、まあとにかく大丈夫だから・・・・・・。あんまり心配しないで」

ハナは生まれつき、というかその生い立ち故、心配性なのだ。もちろん、俺のことを気にかけての発言なのは分かっている。でも、それが少し行き過ぎると面倒なのだ。

(ありがたいけど、ちょっと面倒なんだよな……)

頭をかきながら困惑する。

「まあ、一旦家に帰ろう?おじさんにも色々話したほうがいいと思うし」

ハナの提案にエヴィルも頷く。

「そうだね。帰ろうか」

それを上から見ている一人の姿があった。

「クックック、よくもやってくれたな。さて……」

その男はエヴィルたちに鋭い視線をやりながら言う。

「反撃開始といきましょうか」

その男は、瓦礫に埋もれて死んだはずの、あの男だった。


この世界にはストームと並ぶ、もう一つの厄災がある。それが、未知の生物の誕生である。先の翼竜型の怪物、あれがそうだ。主にそれらはストームクリーチャーと呼ばれている。

ストームクリーチャー、略してSK。根拠があるわけではないが、ストームの発生の後に現れるため、こう呼ばれる。先程の怪物もその部類にふくまれる。

その分類を決めているのも、ストーム財団であり、財団にマークされたSKはすべて、番号が振り分けられる。主に『ストーム:番号』というように振り分けられ、その後に通称がつく場合もある。これは民間に対してわかりやすくするためなどで、基本的には世界には通用せず、主に各地域だけの呼び方であるため、論文などでは使用することは基本的にない(書く時には正式なナンバーを用いて表示する)。

現在のストームクリーチャーの確認種類数は約2100種類おり、未確認を含めるとその数は5000種を超える可能性もあるという。それぞれが違った種としての特徴を持ち、中には人知を超える能力を身に着けた生物も存在する。

ストームクリーチャーは危険度などによって三つの部類に分けられる。もちろんこれもストーム財団が定めたものだ。それぞれ「Safe(セーフ)」「Caution(カウション)」「Dead(デッド)」となっている。それぞれ危険性や人類への利害などで決定されており、今でもなお審議されている個体も多く存在する。セーフクラスは「危険性が極めて少なく、人間との有効的関係を築くことが容易である。または成功している。」という基準に沿って分けられる。この指針にそってわけられたSKは約400種ほどしかおらず、また、すでに絶滅したとの情報も入っており、年々登録数を減らしつつある。また、近年の新種は危険度が高く、攻撃的な特徴を持つものが多い傾向があるため、残念ながらここ十年の間に登録された数はたったの四種のみである。

カウションクラスが「比較的危険であり、人間との意思疎通が難しいもの。または少なからず人的被害をだしているもの。」となっており、この部類が一番属しているSKの数が多く、一番日常的に出会いやすい。ものによっては人を見境なく襲うので注意しなければならないほか、知能を持つ個体も数十種類いるためストームバスターが苦戦を強いる相手でもある。ものによっては民間で討伐することも可能ではあるが、比較的危険なのでやめるべきである。

デッドクラスが「人間との意思疎通がほぼ不可能なもの。または壊滅的、生活を根幹から破壊するような被害を出すもの。」となっている。デッドクラスの中にもクラス分けがあり、「デッドクラス」と「デッダスト(Deadest)クラス」があり、デッドクラスの中でも危険なSKを指す。これは特に危険だと判断された場合のみ特別な審査を経てつけられる、いわば称号のようなものである。つけられる事案はかなり少なく、広範囲、長期間にわたってかなりの被害を出しているもの、もしくは短期間で核兵器並みの破壊をもたらし、今すぐにでも討伐しなければならないものをさす。特に危険なのに変わりはないが、デッドクラス単体でもかなり危険なので、近づいたり、なにかアクションを起こすことは禁忌に等しい。

セーフクラス以上は基本的に捕獲、もしくは駆除・殲滅が普通で、セーフクラスは危険性が確認されなければそのまま国や財団の管理下に置かれるのが基本である。

では、いろいろとわかったところで先ほどの翼竜型のSKの解説をしよう。『ストーム:1655 デイビル・イーグル』翼竜型のSB。危険度のクラス分けはカウションクラス。鋭い爪と、卓越した飛行能力があり、個体差はあるものの、時速70㎞で飛行する。アフリカ大陸のほぼ全土で生息が確認されており、身近なSKであるとも言える。今回はバスターたちにずっと追いかけまわされており、ひと段落してエヴィルたちの町に休憩するために立ち寄ったのだった。主食は肉でほぼなんでも食べるため、人間を狙った結果ガラスに突っ込んだり、あまりにも体重が重すぎて銀行の天井が耐えきれなくなって落ちた、というわけだ。


これが、この世界の二つの大きな厄災。逃れることのできない運命だとしても、それはあまりにも人間にとっては大きすぎる脅威だった。人間の運命を握るのはストーム財団であり、ストームバスターたちだともいえるだろう。だが——


運命というものは、自分が変えるものであり、それは未知の大地に道を指し示すことに等しいことである——

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