第4話 それは唐突に
第4話 それは唐突に
次の日、エヴィルが出社すると、銀行の前はたくさんの人間とパトカーで埋め尽くされており、あたりは騒然としていた。
(いやな感じだな。)
エヴィルはそう思いつつも人混みを掻き分け、前に出た。数人の同僚がすでにおり、そこに入っていった。
「どうしたんですか?お金でも盗まれたんですか?」
「いや、どうやら人が死んでいたらしい」
僕が聞いた事件のあらましはこうだ。
午前5時ごろ、銀行を巡回していた警備員が、背面を鋭利な刃物で斬りつけられた状態の被害者を発見。その後すぐに警察に連絡し、事件発覚。だが、問題が2つあった。一つ目はなぜ銀行関係者ではないこの男が銀行内に居たのか。エヴィルはもちろん、他の職員もこの男と面識がなく、唯一わかったのは、男の内ポケットに入ってたのはストーム財団の人間であることを示す身分証を持っていたことである。また、銀行のデータと照らし合わせた結果、実際にここにお金を預けているようだった。だが、なんのために終業後に入ったかは不明である。
もう一つは現場に残されていたあるものである。
「君にはこれが何かわかるかい?」
警察の事情聴取に参加することになったエヴィルは1枚の写真を見ていた。
「なんですか?これ」
そこにはおそらく被害者と思われる人がおり、その人の指先にマークがつけられていた。
「これがどういう意味か分かるか?」
そこには『SK:OUT』と血で書かれていた。
「いえ、全く分かりません」
その文字は全くもって何を示すのか分からなかった。警部は頭を掻きながら、
「唯一の手掛かりなのに・・・・・・」
と言った。あまりにも被害者の情報が漠然とし過ぎていて警察も何も掴めていないようだ。
「・・・・・・もう少し話を」
してもいいか、と言いかけた時、
「バン!」
ドアが荒々しく開けられた。驚いて振り向くとスーツの男が立っていた。だが、胸にあるバッチでどこの者かはすぐに分かった。
(ストーム財団・・・・・・!)
「ここは一般人立ち入り禁止だぞ。出て行きたまえ」
そう警部が言ったが、
「残念ながら貴方達はこれから手を引いてもらいましょう」
そう冷たく言い放った。
「何⁉︎」
警部が立ち上がるが、
「貴方は知っているはずです。我々が国家並みの権力を持っている事も」
「クソッ!」
警部は荒々しく立ち上がり、部屋を出ていった。
ストーム財団は国家に等しい権力を持っている。それは各国に偉大な貢献をしてきた成果でもあり、見返りでもある。並み大抵の国では財団に逆らうことなど不可能だ。特にこの国は支援が大きく、財団との関係は切り離せない。近くストーム財団関係の機関が置かれるらしいし。
「君ももう大丈夫だ。今日は帰ってゆっくりするがいい」
そう言って財団の男も、部屋を出ていった。でもエヴィルは何か少し引っかかった。
結局犯人に繋がるようなものは無く、その人の人物近辺から探った方が効率がいい、ということで結局犯人は今のところ分かってない。口座なども調べたが普通のお金が数十万入っているだけで、あの血文字も結局何か解らず仕舞いだ。
(ストーム財団・・・・・・、分からない集団だなぁ)
そう思いつつも、早く帰れることに少し嬉しいエヴィルであった。
その夜
「カツ・・・・・・カツ・・・・・・。」
夜の銀行に響き渡る足音。どうやら2人いるようで、会話が聞こえる。
「まさかアイツがやられるとはな・・・」
「仕方がないじゃない。これでようやく炙り出したんだから」
1人はあのストーム財団の男。もう1人もおそらくストーム財団の団員。響いている足音はもう1人の財団員の女性のヒールのせいだろう。
「だが奴はしっかりと役割を果たしてくれた。成果は上も賞賛していたらしい」
「そりゃそうよ。なんたって“アレ”を無傷で守り抜いてくれたんですから」
そう言って2人は銀行の大金庫の前に来た。
「コードは?」
「大丈夫よ。抜かりないわ」
「よくあの短時間で金庫のキーコードを盗み見たな」
そう言うと、金庫のドアがガコン、といい、厳重な扉が開いた。
「無理矢理事件に介入したのはコードを見るため?」
女が聞く。
「それもあるが銀行内の防犯システムをダウンさせるためでもある」
それを聞いて女がなるほど、と呟いた。
「そのおかげで金庫に入ってもバレないってわけね」
「ああ、ようやく対面だ」
目の前には大量の鍵付きのロッカーがあった。
「ここは企業や個人の重要な書類を保管するといったこともしていてね。この中にアイツは隠したのさ」
「でも、取り出す前に何者かに殺された」
「でも手掛かりはあった。アイツの死体、かなり物色されてた。それこそ、財布の中身をひっくり返すほどに」
「つまり何かを探して——」
そこで気付いたのか女は喋るのをやめた。
「でもそれだけ漁ったってことは全然見つからなかったんだろうな。そして相手が引き上げるのを確認した後、血文字を残し逝った、ってとこだろう」
「つまり、まだここに——」
「ああ、あるだろうな」
目の前にある巨大な棚を見上げる。
「場所はわかってるの?」
「逆に聞くが何故わからないんだ?ちゃんと見てきただろ?」
「え?」
「あの血文字は、一体何を示すと思っていたんだい?」
「あれは特に意味のないものだと・・・・・・」
「そんなわけはないだろう。あれが棚の位置を示してくれているんだ」
そう言って棚を指し示した。
「まず最初のSKは略称だ。それは言うまでもないな。その後に続くOUT。普通に英語で読めばアウト、外に出すとかそういう意味もある。だが、これは巧妙に隠された数字の羅列だ」
「数字?数字なんてどこにもないけど・・・・・・」
「“隠されている”のさ。まず英語のO。これは読み方を変えればゼロと読むことができる。そして難しいからUは置くぞ。Tは、小文字に直すとtだ。これは読み方を変えれば漢字の十、つまりは10を表しているんだ」
「Uは?」
「Uは数字、というよりもおそらく記号だ。Uは数学の集合を表す文字として使われている。この場合だと“且つ”という意味をもたせることになる。難しいなら高校数学を見直せ。」
「つまり、0かつ10ということね。でもそれがなんなのかしら」
「Uは主に和集合を指すときに使う。だからおそらく・・・・・・」
そう言って男は手を伸ばした。棚のナンバーは、010。
「ガチャ」
音を立ててロッカーが開いた。中には書類がいくつか入ったファイルがあった。だが、彼は見逃さなかった。
「なるほど、細心の注意を払っていたってワケか」
ファイルの一つの書類が貼り付けられていた。そしてその中に硬く、重いものがある。
「ビリ、ビリリ」
破くとそこにはお目当ての、例のものがあった。
「・・・・・・あったぞ。これだ。これぞまさしくストームキーカード!」
一枚の大きなカード。財団の機密書類。これを彼らは探しにきたのだった。
「これさえ有れば良いのだ。これから情報を引き出されたら、な」
女は黙って頷いた。
「さあ、さっさとずらかるぞ。これは本部に戻さなければならないからな」
そう言ってキーカードをしまい、彼らは金庫を後にした。
2日後、銀行にある人が尋ねてきた。その人は僕たちの命運を、左右する人物であった。
「キミに少し話を聞きたいんだが、大丈夫かな?」
そう窓口で語った男は不敵な笑みを浮かべた。
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