第3話 厄災
第三話 厄災
鳴り響く警報の音に驚いたのはエヴィルだけではなかった。その場にいる全員が警報を鳴り響かせている端末――スマートフォンを凝視する。
『ストーム警報、レベル3です。速やかな屋内退避を勧告します。繰り返します……』
この警報自体、聞くのは久しぶりだ。数年ぶりに財団が発令してきた。
「オイ、早く避難するぞ!進路予測だとこの街を突っ切る可能性が高い!!」
この世に核戦争が産み落とした厄災。その名は――ストーム。
この厄災は紫色の雲によって引き起こされる強力な嵐のことだ。だが、単なる爆弾台風とか、竜巻のことを言っているわけではない。
この嵐が通った場所はすべて文字通り破壊される。樹木はもちろん、鉄筋のビルは土台ごと吹き飛ばされ、生物は全て死滅する。人間も例外ではなく、この嵐に巻き込まれれば命はおろか骨すらも残さずにこの世から消える。文字通りの死の嵐だ。
内側にカメラや観測機器をおいてもすべて破壊され、人間の目による観測も難航していることから、ほぼその実態は解明されていない。
どのようにして破壊が引き起こされるのか、どのような条件下で発生するのか。それらの解明を行っているのが財団、というわけだ。特にストーム財団はほかの財団と比べて規模が大きく、ほかの財団が自分の国だけで活動を行っているのに対して、ストーム財団は国際的に事業を展開し、より積極的にストームの解明に力を注いでいる。その活躍はほかの財団とは一線をかき、ストームという名称の命名、二次被害の最小限化、復興支援などいろいろ活躍をしているが、一番画期的なものが、この“ストーム警報”だ。
ストームの発生をいち早く察知し、その進路情報を付近の地域に発信するというものだ。これは突発的におこるストームの被害をおさえるには十分すぎる働きをしてくれるものだった。
エヴィルが外に出ると、遠くのほうに紫色の雲がかすかに見えた。
(あれが……ストーム……)
エヴィルはほぼ初めて目にするものだ。実際にこの国はたしかにストームの発生は比較的多い地域だが、ここ数年はまったくもって発生していなかった。
(まずはシェルターに行かないと……。ハナ達も避難してるといいんだけど……)
一抹の不安を抱えながらエヴィルはシェルターに向かった。
シェルターは三層構造になっており、頑丈に作られており、もしストームが真上を通過しても大丈夫なようになっていた。 シェルターは国が管理しており、場合によってはストーム財団管理の場所もあるが、基本的には国が管理するようになっている。今の国が成立する前はシェルターの環境も劣悪で、伝染病が蔓延し、その死体で埋め尽くされていた場所もあったという。だが、財団が関わってその環境改善に取り組んだのだ。その結果、今現在ではほとんどのシェルターで百人が約一か月ほど暮らせるようになっている。まさに財団様様ってわけだ。
「エヴィル、大丈夫だったか⁉」
サチヤおじさんとハナはすでにシェルターの中に避難しており、エヴィルは安心した。
「それにしても何時ぶりかなあ。ストーム警報なんて久しぶりすぎて忘れていたよ」
おじさんは頭を掻きながら言う。それはエヴィルも同じだった。正に急だった。こんな事が起こるなんて……と、急なことに戸惑いと混乱を隠せなかった。
ほどなくしてストーム警報は解除された。ストームは街から大きく外れ、すでに消滅していたらしい。
「なんだよ、大袈裟だな」
中にはそういう事を言う人もいたが、ストームのことを考えると、財団と国の判断は真っ当だと思う。命よりも大切なものは存在しないからね。
「初日はどうだった?」
おじさんはシェルターを出るときに僕に尋ねた。
「初日はまあなんとかなったよ。結構大変だったけど」
「まあ何事も経験さ。一年もすればなれるよ」
「ハナはどうだったの?」
エヴィルは自分たちの会話をそばで聞いているハナに尋ねた。
「私?まあいい感じだよ」
急に振られた話題になんとか反応する。
色々あった一日はここで幕を閉じた。数年ぶりのストーム警報とストームの発生でその日の話題は持ち切りだった。実際にストーム財団が動いていたらしく、この後、複数の財団が合同調査を行うようだ。ただそこでも何も進展はないだろう。しかし、もう止まらない歯車の車輪は、確実に動き出していた。
4月2日 午前5時
銀行の中を警備中の警備員が背面を鋭利な刃物のようなもので切り付けられ、死亡しているスーツの男を発見した。その男の所持品と思われるものが辺りに散乱し、また、その男の近くに「SK:OUT」という文字が書かれていた――
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