6—2
ギルマスの執務室を出たログナ達は、ギルドを出るとパビリオの商店街を訪れていた。
腹が減ったと言い出したキースに、確かに昼飯がまだだったと思い出す。
「適当に昼飯食べたら、道具屋見がてら備品の買い出ししようか」
「さんせー」
「アマンダに教えて貰ったところ、行ってみるか?」
午前中にゴブリンの討伐をしてきた三人は、何となく串に刺さった肉を食べる気にはならなかった。
こういう事にも徐々に慣れて行くもんなのかなぁと思いながら、ちょっとお洒落な屋台でパンに色んな具材が挟まった『サンドイッチ』を買ってみる。何を挟むかは自分で選べるようだが、なんせ初めて見る三人には何が正解なのか分からない。
屋台でまで田舎もんと言われたく無かったキースは、いかにもなこなれ感を装い「お姉さんのオススメで」と注文した。よって若い男子が食べるならと、お肉増し増しにされて「おっふ」となったが、結果的にはボリュームもあって食べ応えもあって美味しかったので良しとした。
アマンダに紹介して貰った道具屋は、流石ギルドが斡旋するだけあって品揃えが豊富だ。おまけに素材の買取もやっているようで、ギルドからの紹介だと伝えると、初回の買取額を五%上乗せしてくれると言う。早速ゴブリン討伐の成果である魔石を買取って貰う事にした。
「お客さん、良い品持ってるね! 銀大貨三枚でどうだい」
「おっちゃん!! これはオレ達の初討伐の成果なんだよ? オレ達田舎から出て来たばっかでめちゃめちゃ頑張ったんだよ? もうちょっと色つけてくんない?」
「「(ここは田舎もんで通すんだな……)」」
何やらひしひしと圧を感じたので買取交渉をキースに任せ、ログナとクラインは店内を見て回る事にした。
最初に向かったのは薬草の棚だ。
「思ったよりも種類が多いね」
「オレは薬局かと思ったぞ」
傷に効く麻痺に効くなどの一般的なものから、眠りを深くする、胃もたれに効く、イライラを抑えるなど、日常生活でも役立ちそうなものまである。とにかく種類が豊富で、きちんと乾燥してある為長期間の保存に向いている。結局買った物は全部空間魔法に入れてしまうから、そこまで神経質になる必要は無い。無いのだが日持ちするに越した事はないと言うことで、乾燥してある薬草を効能毎に数種類購入した。
後はロープなどの必需品や、野営用に基本的な調味料やなんかを買い足す事にした。
購入する為カウンターに持って行くと、キースの交渉も終わったところだった。にんまり満足そうなところを見るに、交渉は上手くいったようだ。
道具屋を出ると、先日立ち寄った武器屋の看板が目に留まり、三人とも自然と足を向けていた。
カウンターで剣の手入れをしている小柄な髭の翁がちらりと視線を寄越すと、無愛想な「いらっしゃい」が聞こえた。
ここの店主がドワーフ族の職人だと言う事は、アマンダから教えて貰った。無口で頑固で妥協を許さないが、良い職人だと言っていた。たまに武器の手入れを頼むのだと。
ログナが以前目にした
「(銀大貨五枚……うー……)」
買うにはまだ厳しい値段だと思いながら視線を上げると、カウンターの翁と目が合った。
「お前さん弓使いか」
「え? あ、はい」
「新調するつもりか」
「あー……ちょっと考え中で、色々見て回ってるところです」
「素材持ち込むなら強化してやるぞ。買うよりずっと安く済む」
「おっちゃんそれ本当!?」
別の棚を見ていたキースとクラインもログナの元へやってくる。広くない店内だ。ログナと店主の会話が聞こえたのだろう。
得物を見せろと言われ、三人はそれぞれ使用している武器をカウンターへ置いた。クラインの槍は乗らない為立て掛ける。
「冒険者だろう? ランクは?」
「Fだ」
「ど新人か」
「ど新人だけど、史上最短でEランク昇格目指してます」
「おっちゃん、そんなオレ達に相応しい武器にしてくれんの?」
目をぱちくりさせてこちらを見た翁へ、キースがニヤリと笑みを返す。
そんな彼を翁は「生意気な」と言いながら笑ってあしらう。その瞳には好戦的な色が見え隠れしている。
「希望は?」
「軽くて飛距離が伸びる物があれば……」
「カッコ良くて切れ味良いやつ!」
「強度としなりだな」
「ふむ……」
少しの間考え込むと、翁は近くのペンを取り紙にさらさらとメモを取っていく。書いたものを見返し納得がいったのか、そのメモをログナに向かって差し出した。キースとクラインも両脇から覗き込む。そこには簡単なイラストと共に素材名が書き連ねて合った。
「それらを集めて来れるなら、わしが今のお前らが持てる最高の武器にしてやるわい」
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