2—1
「……すげぇ……」
「ここがギルドか……」
「村の集会所が丸々入りそうだ……」
パビリオの中心部に位置する広場に面し、他を寄せ付けない存在感で佇むそれを見上げる。
『広場』と呼ばれるこの場所ですら、ログナ達の故郷であるカタール村が収まってしまいそうな程の広さを有している。その広場の端からでも直ぐに視認出来たこの建築物は、やはり三人が今まで見てきた物の中で群を抜いてデカかった。
カタール村を治める領主の館もそれなりの大きさではあったのだが、もはや比べるべくも無い。都会はすげぇを繰り返す、もう既に語彙力の死んだ幼馴染に苦笑を浮かべ、緊張しながらログナ達はギルドの扉を潜った。
中はホールの様に仕切りの無い一つの広々とした空間になっており、中央に一本太い柱が通っている。その周りを囲むようにベンチが設置され、ゆっくり腰を降ろせる場所になっていた。
その奥には職員達がいる長いカウンターが見える。人はそれほど多くはないが、それでも村の集会所くらいの人数はいるだろうか。
入り口から見て左手には、休憩スペースなのかテーブルと椅子がセットでいくつか置かれている。冒険者らしき男達が一角を陣取り、地図のようなものを広げて何やら話し合いをしている。そういった事に使える場所のようだ。
右手には広く取られたスペースの壁に、何枚もの紙が貼られた大きなボードが設置されている。キースがそちらへ足を向けたのに続き、ログナとクラインもボードの前に立った。
「これ、全部依頼か」
「……すげぇ」
ボードにはまばらではあったが多くの依頼用紙が貼られている。採集依頼であったり、魔物の討伐依頼であったり、街人からの手助けの依頼であったりと、様相は様々だ。
それらをまじまじと眺め、村とは全然違うと話す二人にクスリと笑みを零し、ログナはギルド内をゆっくりと見渡した。
カウンターでは女性職員と熟練の冒険者っぽい男が談笑している。気安く話している様子からも、職員と冒険者の関係も良好なのだろうと推察する。
職員らしき女性は何人かいたが、皆揃いの制服を着用している。冒険者ギルドの様な荒事の多そうな職場にも関わらず、女性が多いのには正直なところ驚いた。
流石都会なだけあってみんな見た目も装いも綺麗だ。年齢層はバラバラだろうが、日に焼けて焦げた肌のおばちゃんも、邪魔だと言う理由で無造作に髪を纏めるだけの少女もいない。見られる事に慣れているといった様子の彼女達は、やはり肌も髪も仕草も都会人と言わんばかりの様相だった。
と、カウンターの奥から職員達の後ろを横切って移動してくる一人の女性に、ログナの目が奪われてしまった。
姿勢良く歩いてくるその人は、頭の後ろで一つに束ねた髪をさらりと揺らし、颯爽と歩いている。例に漏れず綺麗な顔立ちで、涼しげな目元が印象的だった。髪が珍しく白かったからか、先程路地で見たあの白猫を連想した。海の様な空の様な真っ青な瞳が余計に映えて見え、ログナは目を離す事が出来なかったのだ。
不意に目が合って心臓が飛び跳ねた。カッと頬が熱くなり、見つめてしまっていたことが恥ずかしくて顔を逸らす。
そんなログナの様子を後ろから見ていたキースが、ニヤニヤしながらやって来て肩を組むと、意味深な眼差しを向けて来る。嫌な予感にログナが口を開こうとした時、正面からやってきた男が気安く話しかけてきた。
「坊主ども、田舎から出て来たんだろ? 冒険者志望か」
「ええ、まぁ……」
「あんまり新人丸出しだと、良くないのに目ぇつけられんぞ」
先程カウンターで受付嬢と話していた熟練の冒険者の男だ。近くで見ると背も高ければガタイも良い。歳はログナ達よりも大分上だろうに、それを感じさせない体躯と快活さがある。服の上からでも身体が引き締まっているのが良く分かった。
そんな手練れの狩人にも似た独特のオーラを放つ壮年の男に、物怖じしないキースが応える。
「良くないのって?」
「ん? 知らんのか? 最近新人を狙ったタチの悪りぃのがいるらしい」
「そうなのか」
「まぁ狙われてんのソロばっからしいが、気を付けるこった」
そう言うとじゃあなとギルドを出て行ってしまった。
あれくらいの年齢層によく絡まれるなぁと零すキースに、クラインが静かに頷く。確かにこの街に来る時に世話になった冒険者も、今の人くらいの歳だった様に思う。よっぽどガキだと思われているのか、それともキースの人好きのする性格のせいなのか。はたまた心配になってしまうくらい田舎モンに見えるのか。
後者で無いと良いなぁと思っていたログナに、キースが再び肩を組み直してくる。ハッとそちらを見れば、やはり顔がニヤついていた。
「何だよ……」
「いやぁ、別にぃ」
訳知り顔で見てくるキースにイラっとしながら、クラインにも促され、三人はようやく冒険者登録する為カウンターへと向かった。
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