第75話 セカンドインパクト

因みに、中国はどうなっていたかと言うと。


「全く、困りますわ。わたくしも暇ではないのですが……」


「しょうがないでしょ、交渉なんて出来そうなの、アンタと海千と、あと瑛伝くらいしかいないし」


「それならば、瑛伝さんをこちらに付けてくださったらよろしかったですのに」


「何よ!アタシじゃ不満だっての?!」


「不満でしてよ!極力殺すなと指示が出ていたのに、もう三十人も殺して!」


「しょうがないじゃん、ボディーガードはさあ?!」


「殺さずに制圧もできたでしょう?」


「手加減したんだけど……、思いの外脆くて」


「全くもう……!」


一人は、有角半獣の女。


もう一人は、虫のような甲殻を纏う女。


『あ、ああ……!うわあああっ!!!』


総書記の中(ちゅう)は、人間の『そぼろ』がこびりつく、赤いペンキをぶち撒けたかのような血溜まりの中で、絶望の声を上げた。


『悍ましい饕餮と、蝗害の化身だ!化け物だあっ!!!』


「妖怪扱いとは失礼ですわねえ。これでも、グラビア撮影をいくつもこなす、アイドル冒険者なのですが」


「あんたのグラビアを買う奴なんて、キモい性癖持ちの変態しかいないでしょ」


「本っ当に失礼ですわねェッ?!!貴女こそ、古臭い特撮作品みたいな見た目の癖に、わたくしによく言えましたわねそんなセリフ!」


「誰が悪の組織の女幹部よっ?!!!」


「あらぁ〜?そこまでは言っていないのですが、そういう自覚があるんですのぉ〜?!」


「ぶち殺すわよ、草薙ぃ!」


「さんを付けなさいな、御坂さん!」


「「ガルルルルッ!!!」」


狂ったように叫ぶ総書記を完全に無視して、二人で取っ組み合う冒険者の女が二人。


暫く力比べをして、人民大会堂を半壊させてから、金髪ドリルの獅子半獣が言った。


「あら、お役目を忘れていましたわね。とりあえず、無条件降伏を宣言していただけますか?」


『な、なんだ、と?』


「こちらの要求はただ一つ。今後、永遠に日本と不干渉でいることですわ。賠償金も、領土も、何も要りませんことよ」


『こ、ここ、降伏だと?!日本相手にそんなことをしたら、私は破滅だ!』


「知りませんわよ、そんなことは。降伏しない場合は、こちらの国の軍事拠点を日本に近い順から破壊していきますわ」


『こ、国際社会が許すと思うのか?!まずは交渉を……』


「……国の指導者の前に敵国の戦士が立っている状況で、交渉の余地とかあるんですの?」


『せ、せ、せめて、私の亡命を!』


「したければ後で個人でしてくださいな。今はとりあえず、敗戦国としての義務を果たしてくださいまし」


『そ、そんな!そんな!どうして、何故?!勝てると、部下は勝てると言っていたのに!』


「ですから、知りませんわ。早く降伏の宣言を」




アメリカはどうだ?


戦争のどさくさに紛れて本州を掠め取ろうとしていた、アメリカは。


いや、掠め取ろうとしたと言うのは正確な表現ではない。


アメリカでは、狂った日本の首脳部を倒して、平和を愛する日本の人民を救おう!と言うことになっている。


実際、日本首脳部は、他国から見れば狂ったとしか思えない動きをしているので、残念ながら当然と言えるが。


事実はどうあれ、自由の国、民主主義の国ということになっているアメリカでは、善良な人民は絶対正義なのだ。


悪いのはいつも首脳部、力を持った権力者である、と言うのがあちら側の考え。


第二次世界大戦も、戦争を開戦した昭和天皇やら東條英機やらが悪いと、そう考えているのだ。


……まあ、当時の間抜けな日本人民が戦争を煽っていた、だとか。軍部が暴走していたとか。


昭和天皇に実権らしいものはなく、何も口出しできない立場にあった、とか。


そういう、民主主義神話の看板に傷がつく事実は認めようとはしないのだが。


彼らの中では、いつも悪いのは反キリストと間違った支配者、王侯なのだった。


そして、誠に残念なお話ではあるが、今回の戦争も煽っているのは間抜けな人民である。


国家の首脳たる令和の天皇陛下も、首相の時城政史郎も、政権与党も。


皆、戦争なんぞしたくはない。


だが、相手が攻めてくるので、仕方なく防衛戦をしなければならないと。


余計な被害を出す前に、敵国の首脳部を制圧し、戦争を長引かせないようにせねば、と。


第二次世界大戦の頃の日本首脳部よりも、余程理性的な判断を下した……。


だが。


非常に情けない話なのだが……。


———「ですからねぇ、私は前々から言っていたんですよ!中国なんて早く潰しておいた方が良かったって!」


———『いかがでしたか?以上がモニモニちゃんねるの提示する考えです!今こそ外国からの支配に逆らって、世界一の国へ……』


———《ベストアンサー:「基本的に国というのは潜在的な敵同士にあり〜……なので、外国に攻撃するのが正解です!」》


———《何故日本は戦わないのか?〜戦後に牙を抜かれた国の末路〜週刊文秋が見抜く弱腰外交の本音!!!》


この通り、日本国民の方が、賢明な首脳部より間抜けだという有様で。


つまるところ、アメリカが正義だと思っている民主主義の結果、日本では戦争開戦論が主流になっている訳だった。


それを、アメリカは理解できていない。




そんなアメリカは、艦隊を太平洋に差し向けていた。


原子力空母を筆頭に、潜水艦から、数多くの巡洋艦が群をなして日本に向かっていたのだが……。


米海軍の艦隊は……、原子力空母を百隻並べても尚足りないほどの全長を持つ、水でできた龍が、海の中から鎌首をもたげる様を見た。


あんなもの、あれだけの水量が解放されれば、高波が起きて船は横転するだろう。


そしてその龍の頭の上には、半魚人とエルフの二人組が立っていた……。


『まさか!本当に冒険者とかいう生物兵器を保有しているだなんて!』


『生命倫理を何だと思っているんだ!』


『そんなこと、許されていいはずがない!やはり日本首脳部は狂っている!!!』


船内でいきり立つアメリカ軍。


だが実際は、そんなふうに直接文句を言った者は一人もいなかった。


正義を重んじるとは言え、勝てない敵に喧嘩を売るほど馬鹿ではない。


そこで、エルフのように見える金髪長耳の美青年がこう言った。


「ここは日本領海です。米軍が、何用ですか?」


と……。


『わ、我々は、日本の、横暴なる軍国主義化を止めるために……』


「日本国民はそんなことを頼みましたか?」


『わ、我が国独自の調査では……』


「仮にそうだとしても、内政干渉される謂れはないのですが……。とにかく、軍艦の通過は国家の安全保障的に看破できかねます。直ちに撤退してください」


『せ、生物兵器が何を抜かす……!日本の人民は平和を望んでいるはずだ!』


「はい、そうですね。ですがそれは、自国内の力による、自国内のみの平和です。外国がどうなろうと、日本人はもう関与しません」


『平和を愛する日本の人民はそんなことを望んでいないはずだ!』


「えぇ……?いや寧ろ、外国は全部滅ぼそうとか言ってますよ……?私達はそれを止めている側なんですが……」


第二次世界大戦期もかくや、というイケイケな好戦ムードであることは確かだ。


『そんなはずはない!我々は日本首脳部に軍事的圧力を加え……』


「なるほど。であれば、軍事的圧力とやらをこちらも仕掛け返してもよいと」


瞬間、水の龍が、十体追加される。


ギガトン級の水の塊が複数宙に浮かび……。


それどころか、米軍の軍艦が浮かぶ海そのものが、巨大な水の龍になった。


『う、うわああああっ?!!!』


『か、神よ!』


『助けてくれー!』


そのまま、水の龍の上で行動不能となった米海軍の艦隊は、アメリカ近海まで物理的に送り返された……。

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