第76話 戦後のあれこれ
『速報です。先日、我が国に降伏したロシアは、事実上のデフォルトを……』
『今日未明、中国の中総書記はヨーロッパに亡命し、それに伴い空白化した勢力が争いを……』
『アメリカはジョンソン・ローデン大統領が無理な軍事遠征による批判を受け失脚し……』
「つまらんな」
俺は、テレビの電源を切った。
時城のジジイにニュースくらい見ろといつも言われるが、ニュースの面白さを理解できん。
こんなものより、杜和が最近買っている妖術回戦とかいう少年漫画の方がよほど面白い。
因みに俺は殺し合い以外だと大河ドラマとか時代劇とかが好きだ。
他にも、温泉やらサウナやら、酒飲みやら旅行やらと、趣味はそこそこにある。
とは言え、それらは、そんなに金を使う趣味でもないので、あいかわらず金は余っているな。
まあ……、歴史物ドラマの制作会社である日本放送総会ドラマ制作課には、投資という名のお布施をしているが。
お陰様で今年の大河は、普段の十倍の予算で藤原秀郷(俵藤太)の話をやってくれている。
俺の先祖である俵藤太の話をするのは、俺に忖度してとのことらしい。
内容はめちゃくちゃ面白いので文句は一切ないのだが。
あ、因みに、取材と称してソラからもインタビューして作っているらしいぞ。
タイトルは『蜈蚣切』だ。
今までの史実に独自解釈を加えながらドラマにするという大河ドラマの流れから外れて、ソラに語られた内容を元に、武士同士の戦いよりも人対モンスターをメインで描いている。
そして、魔法やテイムモンスターなどを映像演出に組み込んだ実験作でもあるらしい。
まあうん……、テイムモンスターは本物のモンスターだから、CGなんかよりよほどリアルだろうよ。だって本物だし……。
さて。
「ひいお爺様から、旦那様に近況報告をしろとお願いされたさかい……」
と、愛人の時城紗夜が俺の前に来た。
「まず、ロシアどすけど、経済的崩壊してもうたそうどす」
「ふむ」
「うちは経済に詳しないさかい、うもう説明はできしまへんが、ルーブルは紙切れ同然と化したそうどすえ」
そりゃヤバいな。
「債務不履行……、デフォルトしたらしゅうて、ルーブルの信用はアフリカの新興国並みまで下がったらしおすえ」
「国際経済は大丈夫なのか?」
「もうボロボロどすえ。言うか今も、現在進行形で第三次世界大戦の真っ只中どす」
あー……。
そういやそうだったな。
プロセス的にはこうだ。
経済大国の日本が潰れる?!
↓
世界恐慌が来る?!
↓
治安が乱れて戦争が起きるかも?!
↓
なら、近所の仮想敵国にやられる前にこちらから先制攻撃だ!
↓
全世界で同時多発的に開戦、第三次世界大戦勃発
と、こんな感じらしい。
「実際のとこ、世界中戦争を始めたせいで、世界恐慌くらいに国際経済は低迷してますなぁ」
「そんなにか……」
「日本が負けて早期に終戦したら、そこまで傷口は広がらへんかったんどすけど……」
「勝っちゃったもんなあ」
「そやさかい、あとは引っ込みのつかへんくなった国々が泥沼の争いどすえ」
うーん、地獄だな。
「ほんで中国は、今まで好調やった経済が急停止したことと、総書記が国外逃亡したことで治安が……」
「なるほど」
まあそりゃそうだな。
戦争なんて、俺のような気狂いが刃物振り回せて楽しめる以外に特に利点はない。
戦争経済などと言う言葉もあるが、今の時代、兵器を作ったり開発したりするより、民間で民生品を作った方がよほど儲かるし社会のためになる。
こう言うのを何と言うんだったか……、そう。
戦争は『オワコン』なんだよ。
杜和はなあ、あいつはかなり気合い入ったオタクだからなあ……。
今年の夏もコミケ?とか言うところに連れていかれそうだ……。
なんか知らんが、今年の俺は『ドラグーンクエスト・ディーの大冒険』に登場する、竜族の王にして主人公の父親のコスプレ売り子をさせられるらしい……。
ああ、因みに、その漫画も読まされたが結構面白かったな。杜和のおすすめ作品は今のところハズレはない感じだ。
っと、それは良いとして。
中国は治安が崩壊してしまったのか。
そうか……、それはまあ、しょうがないだろうな。
あの、中総書記とかいう奴が独裁していたのに、「ダメだったから逃げます!」だもんなあ。
そりゃあ、荒れるだろうよ。
しかし、中国の歴史からして、内乱しているのがデフォルトみたいな感じだろうし別に良いんじゃないか?
あの国は本当にしぶといからな。
勝てたとしても滅ぼすことは不可能だろう。
「アメリカも、経済が低迷して大変なんやそうどす」
「そうだろうな」
むしろ、低迷で済んでいるあたり、世界一の大国の威厳を見せつけたなと俺は思う。
紗夜の話によると、事実上崩壊しているような国もかなり多いらしいしな。
え?第三次世界大戦が起きる前から事実上崩壊しているような国?それはまあ、うん、そうだな。そんなのもあるな。
「まあ、日本はロシアと中国に不可侵条約を取り付けたさかい。このままの調子でいったら、二年後には経済も復興して、鎖国も解けるはずやとひいお爺様言うてましたで」
「そうか……」
別に、鎖国云々は俺は困っていないからな。
あれは単にスパイ防止法みたいなもんだし……。
実際、身元が確認できるレベルのビジネスマンとかなら、今でも外国人が出入りできると聞くぞ。
要するに、観光客やら技能実習生やらのふりをしたスパイを立ち入れない、そして国から追い出すための鎖国法だ。
そんな鎖国法を解くと言うことは……。
「……つまり、時城のジジイは、二年もあればスパイが入ってきても問題がないくらいに国を立て直せると、そう言っている訳か」
大言壮語、傲慢極まりない言葉を吐いていることになる。
できるのか、そんなことが?
「ひいお爺様は、やる言うたやったら、必ずやりますえ。時城の家訓は、『有言実行』どす」
「ふぅん、そういうことか」
まあ、あのジジイなら、できもしないことをできると言い張る、典型的な無能政治家みたいなことはやらんだろう。
俺には理解できない、なんか凄い感じのロードマップがあるんじゃないか?
その辺の政治の話は、家族とはいえ気軽に話せないんだろうということもあるが。
守秘義務ってやつだろう。
俺は結局、高校も卒業扱いになって、プロの冒険者として働いているが……。
冒険者には、守秘義務なんてものはないからな。
政治家なんて難しい仕事の話は、正直理解できん。
その辺は、まあ、俺は御影流の伝承者として、『壊し方』さえ知っていればそれで良いだろう。
「二年後……、全ては二年後どす」
二年後、ねえ……。
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