第23話 母親の悪巧み

今は三月手前くらい。


今日、赤堀ダンジョン研究所が正式に稼働し始めた。


朝晩通して一日中、夜中までも、大量のライトで現場を照らして行われた工事により、研究所はたったの三ヶ月と少しで稼働が始まった。


その分、稼働までにかかった金は、普通の研究所を設立するのに必要な額の数倍かかったそうだ。


まあ、そんだけ金かけてるのはやっぱり、それだけこの研究所が期待されてるってことだろうな。


あ、土地については、近所の空き地を使ってる。


近所の空き地、うちの土地だったらしい。


山の方だから地価も安くて、相続税ばっかり取られる負債みたいなもんだったんだが、有効活用できて良かった、だそうだ。


大抵は、この手の無意味な地主って、騙されてマンションとか作らされるけど、うちのジジイはそこまでボケてねー。




さて、研究所が正式に稼働する、と言うことは。


職員である俺も正式に仕事が任される、ってことである。


とりあえず、素材調達部は、親父と俺だけしかいない。おふくろもまあ、たまには潜るそうだが、基本的には俺と親父だけみたいだ。当分は。


親父は、五階層以下の素材を中心に集めるそうなので、俺は六階層以上の素材を集めてこいと言われた。


なので、とりあえず、六階層のモンスターを死骸ごと持ってきた。


六階層のモンスターはコボルトだ。


コボルトからは『嗅覚』と言うスキルスクロールが得られたので、それも持っていく。




まず、親父が持ってきた『スライムコア』から調査が始まった。


《スライムコア》

《スライムのコア。汚水に入れると汚れを吸い取る。食用可。》


これがスライムコアの鑑定結果だ。


だが、汚れを吸い取るとは言うがどれくらいの尺度でできるのか?


食べられると言うが、本当に安全なのか?


そして、その他にも何かできることはないか?


など、多角的に研究されるようだ。


その辺はぶっちゃけよく分からんので、優秀な研究員サマにお任せしよう。




それと並行して、二階層のビッグラット、三階層のケイブバット、四、五階層のゴブリンの解剖なども行われる。


また、それぞれがドロップする、『噛み付き』『聴覚』『強打』についても調査される模様。


俺はその研究の間、とにかくポーションを集めてこいとのことなので、高階層の周回をする。


ああ、今まで言ってなかったけど、モンスターってポーションをドロップすることもあるんだよな。


ドロップってのはアレだ、モンスターが死ぬと死体が光で溶けて、ポーションなどのアイテムに変化する現象。


ポーションが20%、レアドロップが10%ってところか?それ以外では普通に死骸が残るから、そこから素材を剥ぎ取る感じだ。


もちろん、モンスターが素材を残すように綺麗に殺すと、素材を得られる確率も上がる。


無論、これはソロでの話だが。


レアドロップは大抵スクロールだな。でもたまに、なんか強そうな武器とか持っているやつがいて、そいつを倒した時のレアドロップは、そいつが持ってるなんか強そうな武器だったりする。


まあなんかに使えるだろってことで、それらの武具は蔵に保管してある。あ、ダンジョン門がある蔵とは別の蔵な。蔵はいっぱいあるんだよ、うちは無駄に古い家だからな。


そんな感じで、高階層の周回。


それにより、ポイントが貯まり、それでポーションを大量購入する。


周回は三十一〜三十五階層だ。


ミスリルゴーレムの素材報酬がうま味過ぎる。


とは言え、ミスリルゴーレムはデカ過ぎて、俺が持っているマジックバッグでは二体しか持ち帰れないのだが。


だがまあ、現状でそんなに困ってないから良いや。


もっとデカい敵が出始まったら、もっとデカいバッグを買えば良いだろ。




「はい、ポーションおまち」


「「「「ありがとうございます」」」」


俺は、ポーションをダース単位で研究所に納める。


ポーション。


装飾されたガラスの小瓶に入った青白い液体だ。


一階域ポーションは薄い水色の、装飾がされていない小瓶に入った水薬。


十階域では水色、瓶の装飾もグレードアップ。


二十階域では青色、装飾も更にグレードアップ。


三十階域では青色の上、薄らぼんやりと輝いている液体。瓶も、金の装飾がちょっとついている。なお、この装飾の金は純金だったそうだ。


まずは一階域ポーションから検査するらしい。


それと若返りの秘薬(十年)も一本だけ提出した。




それから三日が過ぎた。


「で?どうなんだ?」


「『分からない』と言うことが分かったわ!」


とお袋。


「本当にね、何も分からないの!でも、理論は分からないけど、実験や治験をやってみたら、効果は確かにあったのよ」


「ほーん。じゃあ、理論が分からないなら使えねえんじゃねえか?」


「んー、そのね、世の中って分からないことの方が多いのよ?オームの法則だって、経験則だけど使えてるわよね?」


そうなの?いや知らんけど。


「ってことは、実験の試行回数を増やして、経験則を作るってことか?」


「そうよ!理論の研究もやるけれど、単純な実験は外注するわね!」


「なるほど」


「だから、実験に使う試料がたくさん欲しいの!頑張ってきて!」


「はいはい」


なるほどな。


うーん、でもさ。


「これってさ、国は未だにダンジョンを閉鎖してるけどさ、ポーションが出るとか情報を公開して良いの?」


「私達は公開してないわよ?」


キョトンとした顔やめろや。


「いや、どの道、大々的に実験やるなら何処かから漏れるだろ」


「うん、そうね」


「そうねじゃねぇよ。国に文句言われたらどうすんだ?」


「え?知らないけど?国が隠してるだけで、私達が隠さなきゃいけない訳でもないでしょ?もし何か言われたとしても、私達は隠してるんだから、話を漏らすのは必然的に下請けよね?下請けならいくらでもいるんだから、その時は切れば良いのよ?」


こ、こいつ……!


「逆に、下手に法整備とかされて、ダンジョンから得たものは全部取り上げますー、とか言われたら、藤吾ちゃんは納得する?」


「まあ、確かにそりゃあ……」


「怪我や病気の治るポーションや、若返りの秘薬、まだ見ぬ新素材があるよーって、国より先に公開しちゃえばさ、国も認めざるを得ないわよねぇ……?」


あ、悪い顔してる。


「もちろん、この研究所はコンプライアンスがしっかりしているし、職員も厳選しているから、話が漏れることはないわよ?でも、下請けの中小企業はどうかしら?」


「下請けの中小企業にあえて情報を漏らさせるってことだな」


「そうよ!輸送中のポーションが盗まれた!とかになったら、私達の責任じゃないわよね?」


「そうね」


「それで、情報が漏れたり、盗難されたポーションが出回ったらどうなるかしら?」


「まあ、ポーションなら……、ダンジョン産ポーションと偽った詐欺とか?何にせよ、情報が漏れたらその時点で、政府に人が詰めかけるだろうな」


「ふふっ、そうよ、その通り。そして、そうなったらこっちのものよ!」


そうだな。


政府は今、色々と隠しているようだが、国民にダンジョンが宝の山だとバレたらもう止められない。


政治には明るくない俺だが、日本のあの野党なら、「ダンジョンが宝の山なのを与党は隠していた!!!!」などと言って喚くだろう。


「そして、野党が暴れ始めて、世の中の馬鹿な人間達が『俺もダンジョンに入れろ!』と暴れ始めたら……、しめたものよねぇ……?」


そうだな。


どんな政治家でも、民意、世論には勝てない。


この日本のマスゴミなら、必ずや、ダンジョンの危険性を無視して利点のみにクローズアップした偏向報道をするだろう。


そして、なし崩し的に、ダンジョンの一般公開が議決されれば正に、『しめたもの』だ。


しかし……、そう上手くは行かないと思うのだが……?


「大丈夫よ!私には秘策があるから!」


秘策ねえ……。

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