第6話 運営への提案
「あー……、その、何だ。まず、伊邪那岐大神は何と仰られたんだ?」
「イザナギ様……。おいたわしや、イザナギ様……。大きく弱られた姿で、『人の子を頼む』と仰られていたよ」
うーん……。
なんか証拠がある訳でもないしな。
鵜呑みにしちゃいかんな。
「でも……、折角、ダンジョンを作ったのに、この一年間誰も入ってきてくれなくてね。君が初めてダンジョンに入って来てくれたんだ。嬉しかったよ」
「一年間?一年前からあったのか?」
「うん、そうだよ。君の家の蔵にあるダンジョンは最近できたものだけどね」
うーん、おかしいな。
ダンジョンなんてものができたら、頭のおかしいユウチューバーが突撃したり、自衛隊が動いたりするもんだろ。
「……人が来ないって、どこに作ったんだ?」
「ええと……、全部で四つ作ったんだけれど、一つは君の家の蔵、一つは富士樹海、一つは日高山の谷底、一つは沖ノ島の山の中だね」
うーん?
「お前、ひょっとしてアホなのか?」
「ううん、それは哲学的な問いだね。私は愚かなのかそうではないのか……、それは難しい問いかけだ」
いや、そうじゃなくてさ……。
「もっと入りやすくて目立つところに入り口を設置しないと、人は来ないだろ」
「………………その発想はなかった」
はぁ?
「私の世界の人々は、ダンジョンを探して世界を旅する冒険者という人々がたくさんいてね。そういう人達がダンジョンを見つけてくれるんだ」
「この世界に冒険者は……、まあ、殆どいない。冒険じゃ金は稼げないからな」
まあ、うちの親父は考古学者で冒険家みたいなもんだが、それは例外だろうな。
「そうなのか……!なるほど!参考にさせてもらうよ!折角だから、今までのダンジョンで気になったこととかないか聞きたいんだけど、良いかな?」
「まあ、良いけどさ」
まず、場所。
「まず、ダンジョンの場所な。もっと目立つ場所がいい。けど、かと言って、国会議事堂のど真ん中とか、悪い意味で目立つ場所は駄目だな」
「国会議事堂?」
「あー、なんかこう、国の重鎮が集まって会議する場所だ」
「なるほど、そういうところにダンジョンを出したら迷惑になるね」
そんなことも知らねぇのかよ……。
こいつ、ひょっとして、完全にノープランでこの世界に来たんじゃ……?
それと難易度。
「難易度も高過ぎじゃねえか?」
「そうかな?ゴブリンなんて子供でも頑張れば倒せるじゃないか」
「そもそもこの国では、喧嘩するだけでも捕まるんだぞ?暴力自体に慣れていない奴ばっかりだ。そんな奴らにいきなり、人型のゴブリンの内臓を抉って殺せってのは難しい」
「ええっ、そうなのかい?平安の時代では、武者の人達が嬉々として人を斬ってたんだけど」
「あんなのは遠い昔の話だ。今は、どんな理由があってもどんな身分でも、殺人なんてしたら何十年も牢獄の中で過ごすことになる」
「そうなのか……。じゃあ、この時代の人はゴブリンすら強敵なんだね」
「そうだな。だからまず、もっと弱いモンスターから慣らしていって、段々と、罠とか強敵とかを増やしていけば良いんじゃねえか?チュートリアルってやつだ」
「チュートリアル……!なるほど!」
次に利点について。
「それと、ダンジョンに行くメリットがない」
「え?それはまあ、低い階層では良いものは手に入らないよ?」
「ちょっと入らせた時点で大きな利益があると確信させないと、後に続かないぞ」
「でも、努力していない人を甘やかすのは……」
「それなりの利益がないと、国がダンジョンの入り口を封鎖して、永遠に封印……とかになると思うぞ」
「それは困るな……。分かった、少し考えてみる」
それともう一つ。
「あとさ、もっとこう……、モンスターを倒すことに対するメリットを提示してくれんかな?例えば、モンスターを倒すとポイントが溜まって、そのポイントで欲しいアイテムと交換できる……、とかさ」
「えっ、な、何だいそれは?!」
は?
「そ、その発想はなかったよ!すごいねそれは!それなら、たくさんの人がダンジョンに来てくれる!」
いや……、あるあるな発想だろ。
「うん……、よし!藤吾君!」
「えっ何?」
「良かったら、新しいダンジョンのテストをやってくれないかな?もちろん、そのポイントって言うので報酬も払うよ」
「まあ、良いけどさ。俺はまだ学生だから、平日午後と土日しか手伝えないぜ?」
「充分だよ。とりあえず、来週までにポイントシステムを作っておくから、来週にまた来てくれるかな?」
「おう」
この一週間は、明空命……、ソラが、一日中俺の家にいた。
そこで、うちのパソコンを貸してやり、使い方を教えてやったところ、大はしゃぎして色々なことを一日中調べていた。
そして、土曜日。
ダンジョンに入ると……。
「お」
ダンジョンに入った時点でデバッグルームだった。
「おーい、ソラー」
「ああ、来てくれたんだね!じゃあ、はい、これ」
「おう。で、これは?」
掌の上にあったのは、最新式のスマホ。俺のスマホは二世代前のやつである。なんか悔しい。
ん?
でもこれ、ちょっと違うな。
本体の色は黒で、りんごの会社のモデルより角張っていて、カメラの部分が平ら。
「スマホか?」
「名前はまだ決まってないけれど、そんな感じだね」
ふーん?
画面に触れてみる。
すると、いくつかの項目が出てきた。
画面にアイコンが並んでいるのはスマホと変わらない。
まず、『ダンジョン電話』『ダンジョンメール』『ダンジョンお知らせ』だ。
これは分かるな、ダンジョン内で使える通話機能などだ。
で、それと、『モンスター図鑑』か。
「モンスター図鑑は、今まで遭遇したモンスターの図鑑だよ。私が調べた限りでは、人間はテレビゲームで『コンプ』するのが好きなようだね。だから、アチーブメントとして図鑑を作ったよ」
「へー、これって揃えるとなんかご褒美が貰えたり?」
「……その発想はなかった!次回に実装するよ!」
で、次は……、『ポイントショップ』か。
「ポイントショップは、藤吾君が言っていた、モンスターを倒して得られるポイントでアイテムを買うショップだよ!」
お、初期段階で十万ポイントもある。
「藤吾君には、今まで戦った分と、私からの特別ボーナスを入れておいたよ」
品物は……、ポーションやら武器やら。
うお、若返りのポーションまであるのか。
武器は……、おお、魔剣的なやつだ。
「あ、でも、藤吾君には必要ないよね。俵藤太君の武具を受け継いでいるみたいだし」
「え?これ、本物なの?」
「知らなかったのかい?本物だよ」
ほー、そうなんだ。
「あ、あとね、武器や防具も装備し続ければレベルが上がるからね」
「そうなのか。道理で、この刀は刃こぼれしないと思ったわ」
ふーん、使えるな、これ。
「で、これ、アイテムとか素材を売れないのか?」
「売る?」
「ああ、モンスターの素材とかドロップアイテムを売れれば助かるんだが」
「その発想はなかった!次回までに実装するよ!」
「それと、武具が壊れた時にポイントで修復できたりすると助かるんじゃない?」
「うんうん、いつか実装しよう!」
他には『実績』『成長記録』か。
そのまんまだな。
「『実績』の方はまだ軽くしか作っていないんだけど、君の意見を取り入れて、実績を達成したらご褒美にアイテムやDポイントを得られる仕組みにしようと思うよ」
「良いんじゃね?あとこれさ、成長記録だけど、ステータスを数値で見れるようにした方が良くねえか?」
「それは私も考えているんだけど、中々難しくて……。色んな人が来て、サンプルデータが集まったら、数値化しようと思う」
「ふーん、良いんじゃねーの」
「まだパンチが弱いような気がするんだ……、何かないかな?」
「うーん、あとは……、ガチャ?」
「ガチャ?」
「ああ、要するにくじ引きだ。運が良ければすごいアイテムが手に入るんだけど、基本的には普通のアイテム、みたいな」
「でも、それだと、努力していない人間が……」
「運も実力のうちだろ?」
「運も実力のうち……?!な、なるほど、そう言う考え方もあるね。考えてみよう」
ま、端末はこんなもんか。
「じゃあ、早速、チュートリアルを体験してみてくれるかな?私が頑張って作ってみたんだ」
「おう」
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