048号室 会談開始
翌日から会談は始まった。
広い宴会場に両国の交渉団全員が対面で座れる長テーブル、その端に両国の国旗が交わるように配置されている。
両交渉団のトップであるクリスティアン王子とフランソワ皇太子は、もちろん国旗近くに座っている。
「では、この案件はこの方針で決まりですね」
「続いてこちらの件ですが――」
見ている限り、本当に国同士で揉めていたのかと疑ってしまうほど会談はスムーズに進んでいた。
会談の日程は7日間程度を予定しているのだが、予定よりもはるかに短く終えてしまうのかもしれない。
「クリスティアン王子とフランソワ皇太子が学院時代からの友人である事も関係していますが、そもそも事の発端がハッキリしている上に落とし所もよく理解しているからですわ」
「でも、何年も解決していなかったんだろ?」
「それは、第3王子の後ろ盾になっている貴族などが横槍を入れられない状況になっているからですわ。現在第3王子派は肩身が狭い思いをしているそうなので」
第3王子派の現状は、以前デルフィナさんが話してた事だ。リッツ王国が禁じられた領域と距離を置かれるのではないかと勝手に思われた結果、国中の政財界の人達から白い目で見られているとか。
「これはもう、余った時間で遊び始めるんじゃないか?」
「それもいいのではないでしょうか。平和裏に終わって、遊びながら親交を深めるのは両国にとって良い影響を与えるはずですわ」
~クリスティアン、フランソワside~
会談2日目の夜。
ヌエヴォ・グラン本館の1階は共用施設が集中しているが、その1つに『カラヴァーナ』がある。ちょっと薄暗い大人な雰囲気漂うバーだ。
この夜、客はほとんどいなかった。なぜなら現在ヌエヴォ・グランは会談のため交渉団が借り切っており、しかも全ての随行員がグランクラブの利用資格を持つ部屋に泊まっている。
つまり夜に酒を飲みたいならグランクラブに行った方がタダで飲めるため、わざわざ金を払って飲みに来る物好きはほとんどいなかった。
そんな人気の無いバーに、ある2人組が飲みに来ていた。
「お疲れ様、フランソワ。会談は順調だな」
「クリスか。そもそもこの状況で、順調じゃない方がおかしいだろう」
2人組とは、クリスティアンとフランソワだった。
お互いに交渉団のトップであるため会談以外で接触するのは本来やらない方が良いのだが、今回はお忍びで、わざわざ目立たない服装で会いに来ていたのだ。
2人は友人として、カクテルを飲みながら談笑していた。
そんな中、こんな話が飛び出した。
「ところでフランソワ。第3王子派はこのままおとなしくしていると思うかい?」
「そんなわけないだろう。追い詰められた時こそ何をしでかすかわからない。特に主戦派は要注意だ。どうもうちの愚弟がカシオン・デル・マールに泊まっているらしくてな、それに便乗して何か企んでいるとの情報がある」
「だろうな。だから、事前にオーナーと話を付けた。どうも本国と素早く連絡を取れる手段があるようでさ」
実は、両交渉団とリオは、緊急時に備え予約機を使った連絡手段を使えるよう取り決めていたのだ。
予約機はFAXのような機能が存在しており、これを利用してホテルや各予約機間で連絡を取ることも出来るのだ。
「そうだったな。ま、その連絡手段を使うことがないのが最良だがな」
「僕もそうである事を願っているよ。さ、順調に行けば明日が事実上最後の会談だ。今日はほどほどに飲んで、明日に備えよう」
そして2人は、同じタイミングでカクテルに口を付けた。
~リオside~
会談開始から3日目。
当初の予想通り、会談は予定されていた7日間を待たず早々に終わってしまった。全ての話し合いが円滑に進んだため、予定を大幅に前倒して終わらせてしまったのだ。
現在は会談が無事終了し合意委に至ったことを祝し、さらに両国の交流を目的にした晩餐会が行われている。会場は会談が行われた場所と同じで、レイアウトを作り替えている。
「オーナー、この度は場所を提供していただきありがとうございました」
「おかげで横槍が入らず、無事合意に至りました」
「いえいえ。微力ながら会談に協力した身としましては、会談が成功してホッとしております」
僕とクラウディアは晩餐会の接客をしている。相手はクリスティアン王子とフランソワ皇太子だ。
そして2人はクラウディアに顔を向け言葉を交わした。
「モンフォルテ嬢。この会談の成功を持って、ようやく一連の出来事の区切りとなります」
「あとはこの結果を、無事にそれぞれの母国へ持ち帰り公表するだけです」
「そうですわね。今となってはジュリアン王子にわたくしの尊厳を傷つけられた事はどうでも良くなりましたが――やはり、あの事件で様々な方にご迷惑をおかけしたままなのは、心のどこかに引っかかっておりましたの。
それが今回の会談で解決できたとなれば、わたくしとしてもうれしい限りですわ」
その後何度か言葉を交わした後、僕達とクリスティアン王子達は別れようとした。
その矢先――。
(ん? あんな人、いたっけ?)
クリスティアン王子の背後に、いつの間にか人がいた。恐ろしく存在感が薄い人なのだが、交渉団の人にいたのか不明だった。
そんな事を考えていたからなのだろうか。
その人物の手に鋭く光る物体が見えたのだが、行動が遅れてしまった。
結果――鋭く光る物体を構えたまま、クリスティアン王子に突進するのを許してしまった。
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