047号室 お出迎え
デルフィナさんにヌエヴォ・グランを国家間会談の会場として貸し出す事を承諾してから3ヶ月が過ぎた。
この日、僕は玄関前に立ってあるお客様を待っていた。
しかも失礼がないように、きちんとクリーニングした礼装を来ている。ヌエヴォ・グランは僕のホテルの中で一番クリーニングの品質が高く、シミやシワどころかほつれや無くなったボタンを完璧に修復してくれるのだ。
「オーナー、いらしたようです」
「わかったよ、モニカ」
しばらくすると、ヌエヴォ・グランが出している送迎バスの1台がやってきた。
バスから降りてきた人物を見つけると、クラウディアから仕込まれた最敬礼で出迎えた。
「ようこそ、ヌエヴォ・グランへ。オーナーのリオ・ホシノと申します」
「総支配人のモニカです」
「オーナーの秘書兼礼儀作法指南のクラウディア・モンフォルテです」
「これはこれは、お出迎え感謝いたします。僕はパラドール王国第2王子のクリスティアン・パラドール。パラドール王国側の交渉団の代表を務めています。この度は、ホテルの貸し出しに応じていただきありがとうございます」
この全身から陽キャオーラを出している人物が、パラドール王国側の代表か。
パラドール王国の王子であり、クラウディアの姉・デルフィナさんの婚約者でもある。王位を継ぐ予定はないので、何もなければこのままモンフォルテ家に婿入りする予定の人だ。
クリスティアン王子は僕への挨拶もそこそこに、モニカへと話しかける。
「総支配人と言うことは、ホシノオーナーのホテル全てを仕切っている方ですね? 実は何度かお忍びでホシノオーナーのホテルに宿泊したことがありまして。どれも客室、設備、サービス、全て体験した事がないものでした」
「お褒めいただき光栄です」
最後にクラウディアの前に進み、言葉を交わした。
「クラウディア・モンフォルテ嬢。君のお姉様にはお世話になっているよ。そして、いよいよ君が巻き込まれた事件に一応の決着が付く」
「今となってはあまり気にしなくなりましたが……やはり決着は付けねばなりませんわね。よろしくお願いしますわ」
「それでは王子。お付きの方々と一緒にこちらへ。チェックインの案内を致します」
モニカに案内され、クリスティアン王子はホテルの中へ入館していった。
その15分ほど後に、もう1台のバスがやってきた。
「お初にお目にかかる。リッツ王国交渉団の代表を拝命されている、フランソワ・リッツという」
この男性のこともあらかじめ聞いている。
フランソワ・リッツ。リッツ王国皇太子――つまり次期国王だ。
暗い印象、ハッキリ言ってしまえば陰キャのオーラが漂っているのだが、なんと性格が正反対であるクリスティアン王子とは学院時代からの友人なのだとか。
「ようこそヌエヴォ・グランへ。私は当ホテルのオーナーを務めているリオ・ホシノです。こちらは総支配人のモニカと、礼儀作法指南役と秘書を務めているクラウディア・モンフォルテです」
「これはこれは、ホシノオーナー。お噂はかねがね。そしてモニカ総支配人、私はお忍びで何度か――半ば無理矢理だった気もしなくはないが――ホシノオーナーのホテルに泊まる機会があってね、どれも大変満足する宿泊だったよ」
そしてフランソワ皇太子はクラウディアの目の前に歩み寄ると――なんと深々と頭を下げた。
「モンフォルテ嬢。この度は、我が愚弟の愚かな行為によって迷惑をかけてしまったこと、本当に申し訳なく思っている」
「頭をお上げください、皇太子殿下。もう過ぎたことですし、良い縁に恵まれることも出来たので、わたくしとしては悪くなかったと思っていますわ」
「良い縁……か。だが、それは結果論なのだ。一歩間違えればあなたは命を落としていたかもしれない、危険な状態だったのだ。だからこの会談で必ず落とし前を付け、あなたにも納得がいく決着になる事を誓おう」
そして、フランソワ皇太子一行はホテルの中へ入館し、チェックイン手続きに入ったのだった。
~ジュリアンside~
「見てごらん、ジェルヴェーヌ。青い海、白い砂浜、晴れ渡る晴天! こんな場所、リッツ王国でもパラドール王国でもお目にかかれないぞ!!」
「ほんとですぅ~! わたしぃ、ジュリアン王子とこんな素敵な場所に来ることが出来てぇ、テンション上がっちゃいますよぉ~」
リッツ王国第3王子のジュリアンとジェルヴェーヌ・メルキュール男爵令嬢は、学院の卒業式前最後の旅行と言うことで、念願の禁じられた領域にやってきていた。
行き先は、もちろん観光名所として有名になりつつあるバノデマール。宿泊先はカシオン・デル・マールで、部屋は当然スイートだ。
実は、ジュリアン王子の禁じられた領域への旅行は後ろ盾になっている連中からは反対されていた。特に『これから何が起こるか』知っている一部の者達からは強く反対されていた。
だがジュリアン王子がわがままを押し通した結果、この旅行を決行したのだ。
そのため、ジュリアンの後ろ盾となっている者達は彼の身の安全を守ると同時に利用することにしたのだ。
「楽しんでおるようですな、殿下」
「おお、バジルじゃないか。なに、楽しむのはこれからだよ」
ジュリアンの身の安全を守るのは、ノボテル商会長の弟バジル・ノボテルが請け負った。
もちろん、表向きの名目は異なるが。
「それはそれは、失礼しました。それにしてもこのバジル・ノボテル、殿下に同道できて幸運でした。なにせ交通費も宿泊費も殿下がお持ちくださるのですから。
本来ワシの『仕事』のためにこの地に来る予定だったので、それらの費用はワシが払うべきものだったのですから」
「商人らしい感想だな。ま、せっかく禁じられた領域のリゾート地に来れたんだ。少しは楽しめ」
「ぶほほほ、それではワシは早く『仕事』を終わらせて、一刻も早くリゾート気分に浸れるよう頑張るとしますか。というわけで、ワシはこの辺で」
バジルは不敵な笑みを浮かべながら退室し、自分の客室へと戻っていった。
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