043号室 シティホテル・ステイ その1
「どうぞお入りください」
モニカがカードキーでドアを開け、僕とクラウディアを案内した。
「わ、すごい空間」
「部屋の広さ、インテリア、窓の景色、全てが今まで泊まったお部屋の中で最高ランクですわ!」
「では、お部屋のカギはこちらに置いておきます。ごゆっくりお過ごしくださいませ」
モニカが退室すると、僕達は部屋の探検を始めた。
今回宿泊するヌエヴォ・グラン・スイートは、いくつかの部屋に分かれている客室だ。
まずはリビング。廊下と繋がっている扉がある部屋で、ソファセットとダイニングセットを中心に様々なインテリアを配置している。客室のメインルームとなる場所だ。
「へぇ、公園があるんだ」
「緑が多くて過ごしやすそうですし、後で行きましょう」
ホテルの前は大きな公園があるのだが、この公園の全体がリビングの窓から見える。非常に自然豊かな公園で、見ているだけでも楽しい。
続いては寝室。なんと寝室は2部屋もあり、クイーンサイズのベッド2台置いてある部屋とキングサイズ1台が置いてある部屋がある。
ちなみに、ベッドは希望すれば入れ替えが可能らしく、全部屋クイーン2台にすることも、逆にキング1台だけにすることも可能だ。
なお、僕達はキング1台の部屋を二人で使うことになりそう。
「見てください! キッチンまでありますわ!!」
「買ってきた物を温めるだけじゃない。本当に家庭用のキッチンと変わらないじゃないか」
なんと、この客室はキッチンまで完備していた。
設備としては家庭用のキッチンと同じだが、より正確に言えば『料理好きな家庭のために設計されたようなキッチン』で、かなり本格的なのだ。
食材が手に入って料理に自信があれば、いつもと違う空間で手料理を食べるのも乙かもしれない。
最後に水回りだが、トイレは2箇所、洗面台は2台あり、シャワーはシャワーブースとバスタブに分かれているという高級客室といえばコレ、という印象の水回りであった。
時刻は昼過ぎ。昼食の時間になったので、僕とクラウディアはホテル内の飲食店へ向かった。
ヌエヴォ・グランの飲食店はレストラン3軒、バー1軒がある。また飲食店に含まれるかどうか怪しいところだが、ロビーの脇にラウンジがあり軽食がいただけるし、名前に『スイート』が付いているかクラシックランクの部屋の宿泊者限定で利用できるラウンジ『グランクラブ』に行けばいつでも軽食やお酒を楽しめる。
その中で僕達はコーヒーハウス形式のレストラン『グラン・カフェ』にやってきた。
「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」
店内は明るいながらも落ち着きがあり、正に居心地が良いカフェと言ったところ。
場所は本館1階にあり、窓から見える町並みとマッチしているのもグッドだ。
「あら、見慣れない料理がいくつかありますわね」
「僕は見慣れた料理ばかりだけど……まぁ、気になるもの注文してみてよ。取り皿を頼めばシェアできるから」
そして注文して出てきたのは……。
「お待たせしました。こちらナポリタンとドリアでございます」
「では、お先にいただきますわ。ナポリタンはパスタ料理ですが、使われている具材や味付けが独特ですわね。でも多くの方に受け入れられると思いますわ。
ドリアはお米を使ったグラタンですのね。パラドール王国やリッツ王国では米をあまり食べませんから、非常に珍しいですわ」
ホテルが社会に及ぼす影響は色々あるが、料理もホテル発祥のものがいくつかある。
ナポリタンとドリアは、どちらも横浜にあるホテルニューグランドが発祥。つまり日本産の洋食なのだ。
「失礼します。こちらデザートのプリン・ア・ラ・モードでございます」
「プリンを中心に果物が生クリームがたくさん! 贅沢ですわ」
前世では世間に名を知られているプリン・ア・ラ・モードだが、これもホテルニューグランドが発祥の日本産スイーツ。
どうもこの世界は日本産のもの、特に近代以降に出来た物は存在しない場合が多いようだ。そのためか、日本産の洋食は知られていないようだった。
逆に言えば、これらのメニューはヌエヴォ・グランの強みになる。クラウディアの反応を見る限り、ウケは良さそうだしな。
続いて訪れたのは、部屋の窓から見えていた公園。クラウディアが気になっていたので、約束通り訪れに行ったのだ。
「木が生い茂っているのかと思っていましたら、意外と広場のようなスペースもあるのですわね」
「うん。これなら人を集めて色々出来るかもね」
何らかのイベントなどで使えるだろう。こういうのはリリアーヌさんなら興味があるはずだ。
そして奥には、意外な建物があった。
「これは……教会、ですわね?」
「結婚式向けの教会らしいよ。ヌエヴォ・グランと提携していて、この教会で式を挙げた後にホテルの宴会場で披露宴をやったりさ」
ウエディングプランはカシオン・デル・マールやカサ・セニョリアルにもあるが、規模が最も大きいのはヌエヴォ・グランだろう。
ただこの国の人は結婚式をホテルで挙げるという発想がないらしく、まだウエディング客はゼロのままなのだ。
「でしたら、わたくし達がここで式を挙げましょうか?」
「いいね。収容人数が多いからたくさん招待できるし、いい宣伝にもなる」
と、婚約者らしい会話をしながらしばらく公園内を二人で散歩していた。
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