029号室 南国リゾートホテル宿泊体験 朝・チェックアウト編

「わ、すごい華やかですわ!」


「いいでしょ。日用品店で見つけたんだ」


 部屋に戻った後、僕達は風呂に入って就寝する予定であった。

 その風呂なんだけど、日用品店『ヴィヴィエンド』で見つけた品で少し工夫をしてみた。

 入浴剤でミルクピンクにお湯を染めた後、浴用の花びらを浮かべて見た目を豪華にしてみたのだ。


「先に風呂、入って良いよ」


「ど、どうせなら、リ、リオさんもい……いえ、先にいただきますわ」


 何か言いかけていたみたいだけど、クラウディアが先に風呂に入ることになった。


「お待たせ致しました。見た目だけで無く、香りも華やかで今までに無いバスタイムでしたわ」


「そんなに良かったんだ。これは楽しみだな」


 そして僕の番になり、風呂に入る。


「お、花の香りが浴室に広がって、気分が良くなるな。さて、まずはシャワを……イダッ!!」


「リ、リオさん!? どうかなさいましたの!?」


「ああ、心配ないよ。日焼け跡が沁みたんだ」


 声が大きかったかな? 扉越しにクラウディアに心配されてしまった。

 それにしても、プールの時に日焼け止めを塗っておくべきだったな。贅沢なバスタイムが、地獄の時間になってしまった……。




 翌朝。


「おはようございます、リオさん。お肌の様子はどうですか?」


「おはよう、クラウディア。まぁ、大分マシになったかな」


 起床して30分ほど経つと、部屋の扉をノックする音が。

 これは、昨日のうちに予約していたアレが届いたんだな。


「おはようございます。朝食のルームサービスをお持ちしました」


「はーい。ありがとうございます」


 朝食を持ってきたスタッフゴーストは、リビングのテーブルに食事を見栄え良く置いていく。


「お食事後の食器類はそのままにしていただいて結構です。ベッドメイクの際に片付けますので」


 そう言って、スタッフゴーストは退室した。

 改めて並べられた朝食を見る。数種類のパンとバター、ジャムのセット、サラダ、ベーコンエッグ、ピッチャーに満たされたオレンジジュース、紅茶とコーヒーのセットが並べられていた。


「結構ボリュームがありますわね」


「ああ。料理もだけど、飲み物の量もすごいよね」


 普通、料理と飲み物の比率は料理が多く、飲み物が少ないパターンが多いと思う。でもこの朝食、料理と飲み物がほぼ1:1なのだ。

 飲み物の種類を多くした影響もあるのだろうが、ちょっと完食できるか心配になってきたな……。




 朝食を食べた後、チェックアウトまで少し時間があるので荷物をまとめながらゆっくりくつろぐ。

 その最中、テレビを調べていたら新たなチャンネルが解説されていることに気付いた。

 『映画チャンネル』と言い、その名の通り映画を放送するチャンネルだ。前の世界のみならず、前の世界ともこの世界とも異なる世界で制作された映画も取り扱っていた。

 だが、映画1本を見ているほど時間に余裕があるわけでは無い。気付くのが遅くなって少し残念だ。


 チェックアウトの時間が来たので、2人揃ってロビーに降りる。

 ロビーではリリアーヌさんと合流し、朝食談義に花を咲かせた。


「へぇ。リリアーヌさんはギラソル・ダイナーでビュッフェだったんだ」


「はい。カフェとは思えない充実ぶりでしたよ。特に卵を好みの焼き方で注文してその場で焼いてくれるサービスは目を引きました」


 そしてモニカに呼ばれ、カウンターでチェックアウトの手続きを始める。


「今回はプレオープンということでお代はいただきませんが、本来であればスイートルーム1部屋1泊当たり10万Vとなります」


「や、安い!」


 リリアーヌさんが驚きの声を上げた。どうやらパラドール王国やルッツ王国で同等の部屋を用意するとなると、『おそらく』100万Vはくだらないだろうとのこと。

『おそらく』と言ったのは、様々な面で比較できない要素があるからだ。使用されている魔導具はもちろん、プールで泳いだり海に行ったりしてバカンスを楽しむという概念が、まだこの世界には生まれていないから。

 つまり、需要の基準がまだない状態なのだ。


 ちなみに、スタンダードルームだと1万V、今回見学する機会が無かったがファミリールームという4~6人の家族向けに設計された部屋があり、そこは1万5000Vらしい。

 そして経営者としては気になる維持費だが、おおむね月50万Vだそう。


「よし。とりあえず、来月7月に向けて開業準備を始めよう。最優先は海水浴場の調査だ。海水浴が出来るかどうかでリゾートとしての強みに関わってくるからな」


「わたくしは、ホテルで提供されるサービスを見直してみます。もっと洗練できる部分があると思いますので」


「私はバノデマールに運び込める物資の確認と確保を行います。それとカシオン・デル・マールの宣伝も。この世界には今までに無いバカンスの過ごし方になるはずですので、必ず伸びると思うんです」


 こうして、僕達は来月の開業に向けて本格的に動き出すことになった。

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