028号室 南国リゾートホテル宿泊体験 プール・食事編

 女性陣が水着選びに没頭している間、僕はさっさと自分の水着を決めて一足先にプールへ行くことに決めた。

 ちなみに、僕はオレンジ地に白抜きで魚の鱗を表現した、ハーフパンツスタイルの水着を選んだ。


「実際に入ってみると迫力がすごいな」


 プールに入ると、輝かしい白い床、彩りを添えるヤシの木やトロピカルフラワー、段々状に作られたプール、所々に設置されたビーチチェアとパラソルと、リゾートとして非常に絵になる光景が広がっていた。

 そんな光景に目を奪われていると、後ろから声がかかった。


「すみません、遅くなりましたわ」


「品揃えが豊富で、結構目移りしちゃいましたしね」


 クラウディアとリリアーヌさんが合流したのだ。

 クラウディアは赤地に白く大きなハイビスカスが描かれた、膝まであるパレオタイプのビキニに、ツバ広の麦わら帽子を着用していた。

 ビキニとしては露出度が低いタイプなのだが、決して落ち着いた印象は感じさせず、露出度が高い水着とはまた違う魅力を感じさせる。


「上品な水着だね。クラウディアによく似合ってるよ」


「う、そんな事を言われると照れてしまいますわ……。でも、ありがとうございます」


 一方リリアーヌさんは、青地に上下一体型の競泳タイプ――わかりやすく言えば、スク水にかなり近いデザインの水着だ。まぁ名札は無いし、青もスク水によくある紺に近い色じゃ無く、明るい淡い青でポップな印象を受けるが。

 さてこの水着、リリアーヌさんにハマりまくっている。小柄でスレンダーな体型のリリアーヌさんに驚くほど似合っているのだ。


「リリアーヌさんは……初めて着たとは思えないほど似合っていますね。自然体と言えるくらいです」


「なにか含みがあるような言い方ですが……褒め言葉と受け取っておきます」


 さて、全員揃ったところでプールを楽しむ時間になった。最初にやることは……。


「リオさん、わたくしに日焼け止めを塗っていただけません?」


「え?」


「強い日差しはお肌を傷めてしまうとモニカさんからお聞きしまして。だから日焼け止めを買ったのですけど……背中に手が届きませんの。お手伝いしてくださらない?」


 それならモニカに頼めば良いのでは……と思ったが、モニカはリリアーヌさんの背中に日焼け止めを塗っていた。しかも僕に向かって『頑張って下さい』的な視線を送ってきたので、おそらくモニカが手引きしたんだろう。

 色々言いたいことはあるが、ここは腹を括ってクラウディアに日焼け止めを塗るしか無いだろう。


「それじゃ、塗るぞ」


「よろしくお願いします」


 ビーチチェアに寝そべったクラウディアの背中に、日焼け止めを手で塗り伸ばしていく。


「リオさんの手、大きくて暖かいんですのね……」


「気温が高いからな。身体の末端が暖かくなるのは当たり前だ」


「……もう少し情緒がある事を言ってくださった方が良いと思いますわよ」


 そんな他愛の無い事をしゃべりながら日焼け止めを塗り終えると、今度こそプールを楽しむ態勢に入った。

 始めにやったことは、プールに浮き輪を浮かべ、そこへ座るように乗ってただ浮かぶだけ。非常にシンプルだが、南国リゾートをゆっくりと味わうのに最適なプールの楽しみ方だと思う。

 ちなみに、このプールは水深が浅い子供向けのプールもあるので、小さい子でも問題無く楽しむことが出来る。


「水泳の常識が破壊されますわね……」


「この世界って、水泳が無いの?」


「ありますけど、もっとお堅いんですよ」


 クラウディアとリリアーヌさんが言うには、この世界における水泳とは漁師、船員、海軍の兵士といった海や水辺で仕事をする人が、仕事のために訓練する物らしい。

 つまり、楽しむために泳ぐことはまず無いと。だからこそ、このホテルは常識の1つを破壊する可能性を秘めているんだとか。


 十分プールを楽しんだ後は、プールサイドにあるプールバー『パルメラ』へ。プールは宿泊者しか利用できない施設なので、パルメラは宿泊者しか利用できない飲食店だ。

 ここでは酒、カクテル、ソフトドリンク、軽食といったプールでも楽しめるメニューを提供している。

 

 僕達はここで、トロピカルジュースを注文した。色々な種類があるが、僕はオレンジ、クラウディアはパイナップル、リリアーヌさんはパッションフルーツをメインにしたジュースを選んだ。

 出てきたジュースは子供の頭くらいはあるグラスにカットフルーツを刺し、食用のトロピカルフラワーをあしらった、見た目にも楽しいジュースだった。

 このジュースを片手にビーチチェアで横になり、ゆっくりと飲む。


「このジュース、以前飲んでいた果実の絞り汁とはまた違うおいしさですわ。ですけど、それ以外にも――」


「あ、クラウディアさんもそう思いました? 合いますよね、このジュースと南国の雰囲気が!」


 やはり、ビーチチェアで南国の太陽を浴びながら飲むトロピカルジュースは格別だ。2人もその相性の良さに気付いたらしく、ジュースを飲み干すと2杯目のトロピカルジュースを買い求めていた。




 プールから引き上げるとまあまあ良い時間になっていたので、僕達は夕食を取ることにした。もちろん、ホテル内を見学したときに決めていた『マリスコス・グリル』。

 店内は緑の絨毯が敷き詰められ、壁にはアール・デコ調の木が、天井には空が描かれている。窓は大きく、海が一望出来る。これらの内装が屋内にいながらアウトドアをしている気分になり、グリル料理を楽しむのに一役買う効果を担っているようだ。


 今回注文した料理は、『ロブスターのグリル ウニソース付き』。100センチに迫る大型のロブスターを豪快に縦に割り、そのままグリル。付け合わせのウニソースをかけながらいただく、豪快な料理だ。


「こんなに大きなエビ、見たことありませんわ!」


「見た目はオマールに似ていますけど、体長がケタ違いですね」

 

「へぇ。パラドール王国やリッツ王国にも似たようなエビがいるんだ」


 詳しく話を聞いてみると、パラドール王国やリッツ王国には高級食材としてオマール海老が漁獲されているらしく、今回出されたロブスターの半分くらいの大きさだという。

 ただ、このロブスターを食べてみてわかったことらしいが、オマール海老は味が濃厚なので繊細な料理に向き、ロブスターは比較的大味であるためグリルのような豪快な料理で輝くのではないか、とのこと。

 

「インパクトは抜群ですし、大味なのもあくまで『オマール海老に比べれば』という話ですので、十分おいしいと思います。このホテルの武器になれますよ」


「マリスコス・グリルは宿泊者じゃなくても利用できるからな。レストラン単体で宣伝するのもアリか……」


 そしてロブスターをおいしく食べ終えた僕達は、食後のひとときを楽しむためスイート専用ラウンジへ。

 スイート専用ラウンジは、文字通りスイートの宿泊客しか利用できない。扉もスイートのカードキーが無ければ開くことが出来ない仕組みで、その他の者を絶対に侵入させない造りになっている。

 

 内装はホテルの外観や多くの内装に採用されているトロピカル・デコとは打って変わり、落ち着いた色調をメインにしたアール・デコ様式。そのため、ラウンジ全体が落ち着いている。

 レイアウトは中央にソファセットを10組程度、壁際に無人のカウンターとスタッフゴーストが常駐しているカウンターがある。

 無人のカウンターには軽食やデザート、ソフトドリンク、コーヒーや紅茶を好きなように取れるようになっている。有人カウンターはバーカウンターの役割を担っており、酒類を注文するときに利用するのだとか。


 そしてなんと、このラウンジで提供されている物は全て無料! ……正確に言えば宿泊費込み、なのだが。

 ただし酒類は有料。その代わり、バータイムになっているギラソル・ダイナーにはないメニューがあるらしい。


「本当に至れり尽くせりですわね。ほとんど食べ放題飲み放題なんて」


「うまく利用すれば、スタンダードルームで宿泊するよりも安くなるんじゃないですかね?」


「さぁ、どうだろう」


 とラウンジの感想や明日の予定、今日の感想などを語りつつ、夜9時頃まで語り合った。

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