027号室 南国リゾートホテル宿泊体験 ホテル内見学編
リゾートホテル『カシオン・デル・マール』には、誰でも利用できる飲食店が2軒ある。
現在、僕、クラウディア、リリアーヌさんはカフェラウンジ『ギラソル・ダイナー』でコーヒーを飲みながら談笑していた。
この店は南国感を前面に押し出したデザインで、バナナ、ヤシの木、ハイビスカスといった南国植物をモチーフにした絵やインテリアが飾られている。
ちなみに、朝はモーニングセットを提供し、昼はカフェ、夜は照明を控えてバーになるとか。
「へぇ。リリアーヌさんの部屋はオーシャンビューなんだ」
「リオさんとクラウディアさんのお部屋はプールが見えるんですか。そのプール、ちょっと気になりますね」
コーヒーを飲みつつ、僕達は自分たちの部屋について情報を交換していた。
スイートルーム同士レイアウトや広さは変わらないみたいだけど、どうも窓から見える景観が違うらしい。リリアーヌさんの部屋は海が見えるオーシャンビューで、絵画みたいな景色だと言っていた。
「ところで、これからホテルを見て回りたいんだけど」
「賛成ですわ。お部屋にあった案内である程度どんな物があるかわかりましたが、実際に見てみたいですわ」
「ホテルの施設で売り出し方も考えなければいけませんし、ぜひ見て回りましょう」
と言うわけで、ホテル探検に行くことが決定した。
なお、ホテルの施設を見て回っていいかを受付横にあったコンシェルジュデスクへ行って確認すると、なんと許可を貰うどころか案内役まで付けて貰えた。
コンシェルジュは客の要望に応えるのが仕事だと思っていたんだけど、ここまで気を利かせて貰えるなんて。このホテルのコンシェルジュは、かなり優秀らしい。
なお、案内役はモニカだった。
最初に案内して貰えたのは、何やら白くて豪華な扉だった。
この扉を開けると――。
「揃って前を向いたベンチが左右にたくさん並んでいて、正面には壇がある」
「もしかしてここ、教会ですの!?」
「その通りです、クラウディア様。正確に言えば教会の管理下に無い、私的に設けられた礼拝所ですので『チャペル』と呼んだ方が正しいですが。結婚式を想定して作られております」
そう。ここは結婚式用のチャペル。ただ元の世界のチャペルとは違い、所々異世界仕様になっている。
例えば、壇上の奥に掲げられたステンドグラス。この世界の宗教は多神教らしく、教会によって祀られている神が違う。どの神を祀っているかはステンドグラスを見ればわかるようになっているらしい。
そしてこのチャペルは、ステンドグラスを入れ替えられる仕掛けがあるらしい。結婚式を挙げる客の要望に合わせて結婚を誓う神を変えるのだとか。
ちなみに、チャペルの近くには100人以上は収容できる宴会場があった。ここで披露宴を行うようだ。
「なるほど。結婚式と旅行を合わせたパッケージを販売するのも良いかもしれませんね」
リリアーヌさんは早速、新たな旅行パッケージの構想を練り始めているようだ。
続いて訪れたのは、レストラン『マリスコス・グリル』。その名の通りグリル料理を提供する、このホテルのメインレストランに位置づけられている店だ。
マリスコス・グリルは入り口だけ覗いておき、夕食に利用しようということになった。
続いて訪れたのは託児施設。子供が好きそうな丸っこくて鮮やかな色使いのインテリアや遊具を備えており、シッター担当のスタッフゴーストがつきっきりで子供のお世話をしてくれる。
5歳までの子供が利用でき、子供を預けている間に大人は気兼ねなくリラックス出来るのだ。
「このサービス、目玉の1つになりますね」
「そうですわね。シッターを雇えるなんて経済的に余裕のある方ばかりですし、宿泊者なら無料で利用できるのはなかなか無い事ですわよ」
思いがけないところでこの世界の常識を知ってしまった。
なんでも、シッターを『雇う』となるととんでもない金額が必要になるらしく、普通は近所や知り合い同士で子供を預け合ったり、好意で子供の面倒を見てくれる老人の家に預けるのがこの世界の常識らしい。
保育園や幼稚園なんていう存在は、そもそも発想の時点で存在しなかった。
次に見学したのは、土産物店『メモリア』。カシオン・デル・マールのロゴが入ったグッズや貝殻など海の素材を使った工芸品、マカダミアチョコレートといったビーチリゾートの定番土産もあった。
「試食させて貰ったこのチョコレート、食べたことが無いくらいおいしいですね。加工技術がすごく高いです」
「アクセサリーも売っていますのね。真珠や珊瑚をふんだんに使っていますわ」
リリアーヌさん曰く、パラドール王国とリッツ王国においてカカオは自国で栽培できない、輸入に頼るしか無い作物で、当然チョコレートは良い値段で取引されている。それなのにここまでおいしく手頃な値段なので転売の可能性があり、購入制限をかけた方が良いとのこと。
クラウディアは海の素材で作ったアクセサリーが気になったよう。ショーケースに入れられて値段も簡単に手を出せるものではないが、海をテーマにしておりデザインもセンスが良いため、好きな人は迷わず購入するだろうとのこと。
まぁ2人の意見を参考に、メモリアの運営方法を追々考えていくか。
その後に案内されたのは、日用品店『ヴィヴィエンド』。ホテル生活を過ごす上で必要になりそうな物を中心に品を揃えている。
軽く食べられるインスタント食品、スナック、ドリンク、急な体調不良や怪我にある程度対応できる市販医薬品、いきなり服を濡らしたり汚したりしたときに対応できる衣類や下着類など、他にも色々な商品があった。
衣類はカシオン・デル・マールのオリジナルで、お土産としても活用できる。また、日よけ用の日傘や帽子、日焼け止めといった南国リゾートならではの商品もあった。
「あら? リオさん、このお洋服はなんですの? お洋服とは思えない露出度の高さですし、下着とも違いますし……」
「ああ、それは水着だよ。泳ぐときに使うための服だね」
「まぁ! では、あのプールで使うんですのね! わたくし、すぐ行きたいですわ!!」
「賛成です、クラウディアさん。私もプールについて一度見てみたかったんです!」
とまぁ女性陣の声に押され、プールに直行することになった。
もちろん、水着はヴィヴィエンドで購入した。クラウディアとリリアーヌさんは、選ぶのにものすごく時間がかかったけどね……。
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