026号室 南国リゾートホテル宿泊体験 客室編
「カギはこのように、こちらのスリットに入れ抜くと数秒開く仕組みとなっております」
部屋の前に到着すると、案内係のスタッフゴーストが部屋の開け方をレクチャーしてくれる。
そう、このホテルはカードキー方式なのだ。カードキーはホテルの外観にインスパイアされたパステルカラーと幾何学模様のデザインで、宿泊者分用意される。
しかも宿泊日程を終えるとデータが消えカギとしての機能を消失するので、旅の記念として持ち帰ることも可能。もちろん、いらなければ返却することも出来る。
それと今回の部屋割りだけど、グランピング場『エンカント』と同じくクラウディアと同室だった。
まぁ、案内係のスタッフゴーストが2人しか来なかった時点でなんとなくそんな気がしていたけどね、うん。
「うわ、広っ!」
「外の景色が綺麗ですわー!!」
部屋に入った最初の感想は、部屋の広さと窓に映る景色だった。
部屋の広さは普通の部屋の2倍はある。そしてラタン製のテーブルセットやソファセット、テレビとテレビ台、内線などはあるが、なぜかベッドが無かった。
そして窓の外だが広めのバルコニーとなっており、ラタン製のビーチチェアとミニテーブルが置かれている。
眼下には貝殻を重ねたようなデザインのプールが見え、アール・デコらしい美しさに目を奪われる。
「こちら、スイートルームのリビングになっております。寝室はこちらです」
スタッフゴーストが部屋の扉を開けると、そこにリビングと同じくらいの部屋が現れた。
かなり大きめのラタン製フレームベッドが2台に、ラタン製ベッドサイドテーブル、テレビ、ランプなどが配置されていた。
「こちらのお部屋は2名様でご宿泊されることを想定しておりますが、補助ベッドを2台まで設置することが出来まして、最大4名様までご宿泊可能です」
「いや、4人でもまだまだ余裕でしょ……」
と部屋の広さに嘆息していると、さらに追い打ちをかけるように驚愕の仕掛けが明かされた。
「こちらの扉はコネクテッドルームになっておりまして、隣のスタンダードルームと繋げることが出来ます」
扉を開けると、スイートルームのリビングの半分ほどの広さの部屋にダブルサイズのベッド2台、ソファセット、テレビ、デスク、ベッドサイドテーブルが収められていた。もちろん、全てラタン製だ。
……まぁ、この部屋だけでも十分広いんだけどね。
ところで、なんでスタンダードルームと繋がるんだろう?
「なるほど、従者用の部屋ですのね」
僕の疑問の答えは、クラウディアが持っていたようだ。
「貴族や裕福な家の人間は、旅をするときに従者を連れて行く場合が多いですのよ。中には従者を付けずに旅行をする方もおられるようですが」
ああ、そういえば貴族や富豪と言える人は複数人分の予約を取ることが多かったな。あれはそういう理由なのか。
そしてこのコネクテッドルームは、従者用に使うことを想定した客室だと。どうやら僕のスキルで建てたホテルは、この世界の事情を多少勘案した構造になっているらしい。
「それでは、お部屋の説明は以上になります。何かありましたら内線で受付かコンシェルジュまでお申し付けください」
「あ、ありがとうございます」
スタッフゴーストが退室したと同時に、僕達は客室を詳しく調べてみた。
まず、水回りのチェック。トイレはリビングとベッドルームの2カ所にあり、当然ながら温水洗浄便座だった。そしても広く、普通のトイレの1.5倍はある。
リビングにはトイレの隣にもう1つ扉があり、そちらは洗面所だった。この洗面所、なんと洗面台が2台もあり、それに見合うような広さが十分あった。
洗面所は脱衣所と兼用になっており、脱いだ服を入れるカゴが用意されていた。そしてリビングとは反対側にあった扉の先には、風呂が。
「このお風呂、湯船の他に透明なお部屋がありますわ」
「うわ、シャワーブースじゃん」
ホテルの部屋のランクが高くなると、風呂にシャワーブースが付くことがある。このホテルも例に漏れず、スイートルームはシャワーブース付きになるようだ。
このシャワーブース、手持ちシャワーの他に天井固定のシャワーが付いており、なんとミストシャワーを出すことが出来るという多機能っぷりだ。
「ところでリオさん。先程洗面所に、このような物を見つけたのですが……」
「ビニールの巾着袋?」
調べてみると、どうやらクリーニングサービスを利用するための袋らしい。
ベッドメイクまでに洗濯物をこの袋に入れベッドに置いておくと、ホテル側で洗濯してくれるらしい。
普段着ならその日の夕方、フォーマルな服や特殊な素材が使われた物でも明日の朝までには仕上げてくれるとか。
「いいサービスですわね。旅は洗濯物が溜まりやすいですから」
「ああ、そういえばそうだね」
この世界、車も飛行機も無いため旅となると洗濯物が溜まりやすい。だから高級ホテルともなるとクリーニングサービスを売りにしている場合もあるとか。
前の世界でも、海外旅行には船を使うしか無かった時代は同じような事情だったらしい。かの有名な帝国ホテルはクリーニングサービスが代名詞だが、これはそのような事情から生まれたサービスだったとか。
そして考えてみれば、僕がスキルで建ててきたホテルでは度々洗濯機の前に行列が出来ていた。これは洗濯物が溜まりやすい、この世界の旅事情による物だったのだ。
気を取り直し、部屋の探索に戻ろう。アメニティをいくつか見つけた。
クローゼットの中には持ち帰りOKのスリッパ、洗面所にはタオル、バスタオル、足拭きマット、歯磨きセット、櫛、シェービングセット。シャワーブースにはボディソープ、シャンプー、リンスがあったがこれはボトル詰めされた備え付けの物で、別に用意されたミニボトルであれば持ち帰りできる。ベッドサイドテーブルには綿棒とコットンが置かれていた。
また飲み物類はティーセット、コーヒーセット、さらにミニバーも付いていた。本来ミニバーは利用した分だけ宿泊費に上乗せされる形だが、スイートルームは飲み放題らしい。ま、僕はまだ酒を飲むには1年早いけどね。
テーブルの上に色々冊子が置かれていた。このホテルや周辺情報を記載した物だが、中には今までのホテルには見られなかった物があった。
「ルームサービス……ですか?」
「部屋で食べる食事を注文できるサービスだよ。内線で注文して、食事を持ってきて貰うんだ」
そう、一定規模以上のホテルであれば提供しているサービス、ルームサービス。
とうとう僕のホテルで注文できるようになったのだ!
「朝食に頼むのが乙じゃないかな? キレイなプールを眺めながら食べるんだよ」
「いいですわね、それ。ちょうど朝食の予約サービスもありますし、明日の楽しみにしましょう」
リゾートホテルで朝食というと、僕はビュッフェか専用の朝食セットかルームサービスかっていうイメージなんだけど、他の人はどうなんだろう?
ホテルの立地とか泊まった部屋によると思うけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます