013号室 ビジネスホテル体験 その2

 続いて僕は、ホテル内を探索することにした。共用設備を見て回るつもりだ。

 まず始めに訪れたのは、各階に設置されている自販機コーナー。なんと何種類もの自販機が揃えられていた。

 水、お茶、ジュースといったメジャーなもの、コーヒーミルを内蔵しいつでも挽き立てのコーヒーを味わえる紙コップ式のもの、そして酒類専用の自販機もあった。


「やった、こんな物まで!」


 一番うれしかったのは、フード系の自販機があったことだろうか。ホットスナック、カップ麺、冷凍食品を扱う物の他、お菓子やアイスクリームの自販機もあった。

 さらに、自販機コーナーに電子レンジも備えられており、冷凍食品の調理も出来るようになっている。


 これらフード系自販機のおかげで、前々から悩んでいた食事問題の解決に一歩近づけた。

 カプセルホテルのファシルキャビンもそうだが、食事は基本的に朝しか提供されていない。昼と夜は自由に食べに行くスタイルなのだが、いかんせん禁じられた領域に食堂は未だ存在しない。というか店自体が存在しない。

 冒険者ギルドの開設によって、ギルドの支給品という形で物資が提供されているが、まだまだ色々な物が足りていない状況なのだ。


 なので、食事に悩まなくてよくなったのは喜ばしいことなのだ。

 

 最後に、共用設備が集中しているという1階に行ってみた。

 まずは食堂。ここは朝食の会場になるのだが、基本的に朝食だけに使うので現在は入ることが出来ない。

 食堂はパスして次に向かったのは、大浴場。なんとこのホテル、24時間入れる大浴場があり、部屋の風呂よりものびのびと入浴できるのだ。

 ただし、温泉施設やスーパー銭湯のように何種類も風呂があったりとか無いし、露天風呂も存在しない。昔ながらの銭湯のように洗い場と湯船があるだけだ。

 その代わり壁が凝っており、色タイルでネゴシオの街の夜景が描かれている。一見の価値があるくらい迫力がある絵だ。


 最後にやってきたのは、ランドリー。このレッツォインもファシルキャビンと同じく、各自洗濯できるようになっている。

 ただし、ファシルキャビンはドラム式とはいえ家庭用の洗濯機を置いているだけだったが、レッツォインはコインランドリーに近い形態だった。

 そのため、わざわざ自分で洗剤を入れる必要が無いし、乾燥時間もパワフルだから時間がかからないのが売りかな。


「ホテルの様子は大体見終えたし、部屋に戻ってテレビ見るか」


 ホテルや街が増えたことで、番組の内容が変わったのか気になるんだよね。

 早速『ホテルニュース』を見てみると、やはり宣伝が増えていた。


『レッツォインはネゴシオの大通りというビジネスの中心地に位置しており、お客様のビジネスシーンに便利なホテルです』


 レッツォインの情報が流れているな。これ、ファシルキャビンの宿泊客も見ているだろうから、自然とレッツォインの事も広まるんだろうな。

 後は、エントラーダの街情報も流れていた。どうもホテルニュースは街のニュースも発信しているようで、街が発展していくといつの間にか流れるようになっていたのだ。


 ホテルニュースを見た後は、夕食としてカップ麺をすすりながら『領域情報』を見ることにした。ネゴシオ周辺の様子もチェックしておきたいしね。


「……味は前世と変わらないな。懐かしい……」




 そのまま風呂でシャワーを浴び、就寝。

 翌日の朝は、食堂で朝食を食べる。


 朝食はビュッフェ形式だった。レストランや高級ホテルとは違い品数は少ないが、それでも満足できるバリエーションが揃っている。

 和洋揃っていて、主食はご飯、パン、シリアルがある。ご飯はのり(佃煮含む)やしらすをかけられて、さらに卵かけご飯にすることができるし、パンはバターとジャムが付けられる。

 飲み物は水の他に紅茶、コーヒー、緑茶、牛乳、オレンジジュースが用意されている。

 サラダもドレッシングが何種類も並んでいるし、スープは味噌汁とコーンスープの2種を用意。おかずは肉も魚も卵もある。

 デザートまで揃っていて、カットフルーツとヨーグルトが食べられる。

 

 充実した朝食を楽しんでいると、アルフレドとセシリオがやってきた。


「お、うまそうなもん食べてんじゃねぇか」


「ファシルキャビンの朝食もすごかったが、ここの食事はさらにすごいな」


「おはよう、2人とも。調査の方はどうだった?」


 ネゴシオ周辺については『領域情報』を視聴してある程度状況を把握していたが、実際に現地に行った人から話を聞くことも重要だからな。


「ゴーストが出る頻度や魔物の分布についてはエントラーダ周辺と変わらなかったぜ」


「ただ、未発見の遺跡が多かったな。まぁ、まだ誰もここまで来たことが無いから、当たり前と言えば当たり前だが。

 その遺跡についてだが、倉庫らしき建物が多かったな。さすがは商業都市と言ったところか」


 なるほど。かつて商会の商品を保管している倉庫の跡が多いのかな。

 中身がちょっと気になるので、セシリオに聞いてみた。


「それで、何が入っていたの?」


「いや、中には入っていない。カギがかかっていたからな。一応カギを開ける方法はあるんだが、時間がかかる。今は全体像を把握しておきたいから、倉庫内の調査はもう少し後だな」


 なんでも、古代遺跡の解錠方法はある程度パターン化されているらしく、冒険者ギルドで教えてもらえるのだとか。

 ただ、悪用すれば他人の家に泥棒出来てしまうことから、解錠方法を教えてもらうにはギルドから信用を得て認められるか、既に解錠方法を教えてもらい遺跡探索で実績がある冒険者から推薦してもらう必要があるらしい。


 ちなみに、スキルの中にはカギを解錠できる能力のものもあるらしく、そういうスキル持ちをパーティーに加えていると遺跡調査がはかどるとか。


「とりあえず、簡単に調査したら冒険者ギルドへ報告するつもりだ。一応、情報の報告だけでも報酬がもらえるからな」


「それに、ここにも冒険者ギルドの支部をいずれは作るだろう。リオはギルド用の建物を見繕っていた方が良いんじゃないか?」


「そうだな。物件を探しておくよ」


 そうして僕は一旦部屋に戻り、持ち込んだ荷物を回収するとチェックアウトした。

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