009号室 冒険者ギルド開設

 ブルーノさん達が1週間に渡る調査を終え帰国した後、僕達はまた客を待つ日々を過ごすことになった。

 ただ以前とは異なり、1ヶ月に何度か客を迎えることになった。ブルーノさんが派遣した、追加調査を行う冒険者に一団だ。

 その人達はギルドから依頼された調査の他、個人的に気になる所を調べているようで、それらをまとめて報告するらしい。


 ある時、調査団として加わったアルフレドとセシリオを見つけた。


「リオ、すまないがこの金属板に手を触れてくれないか?」


「えっと……それは?」


「スキルの鑑定をする魔導具だ。触れた者が持っているスキルと概要を知らせてくれる、冒険者ギルドの施設ならどこでも最低一つは持っている。ルッツ王国側へ説明する際の証拠の一つとして集めておくんだ。今の禁じられた領域の状況は、ホラ話と受け取られかねないからな」


 そういうことならと、僕はスキル鑑定の魔導具に手を触れた。すると、ただの金属板にしか見えなかった魔導具に文字が現れ、僕のスキル名と説明がざっくりと書かれた文章ができあがった。

 その瞬間、セシリオが紙を取り出し、スキル鑑定の魔導具に押しつけた。


「スキル鑑定の魔導具専用の写し紙だ。これも魔導具の一種で、スキル鑑定の魔導具に押しつけると浮き出た文章を写し取り、文面を記録することが出来る。

 この紙はスキル鑑定の魔導具専用だから偽造された物では無いという証明にもなる。これをルッツ王国側に見せ、交渉することになる」


「俺達の役目はリオのスキルを鑑定して記録することなんだが、一応調査もやるつもりだ。これから1週間泊まるつもりだから、よろしくな」


 アルフレド達の調査は特に問題無く終了し、そのまま帰国した。

 ただそれから、調査団の中にアルフレドの母国パラドール王国の冒険者だけでなく、ルッツ王国の冒険者もちらほら見受けられるようになった。

 ルッツ王国の冒険者の数は調査回数を重ねるごとに増えていき、ついには調査団の3分の1を占めるまでになった。


 そして、ブルーノさんが帰国してから3ヶ月が経った頃。


「久しぶりだな、リオ!」


「ブルーノさん。いらっしゃったということは……」


「ああ。話がまとまったぜ」


 とうとう、このエントラーダの街に冒険者ギルドが出来るのだ!

 冒険者ギルドが出来ればここを訪れる冒険者が増えるし、冒険者を相手に商売しようとする商人も訪れる。そうなれば、僕のホテルに宿泊してくれる人も増えるって寸法だ。


「まずギルドマスターだが、俺がアーティチョークのギルドマスターと兼任することになった」


「結構大変じゃないですか?」


「いや、アーチョークのギルドの仕事はほぼ手順が完成されているからな、それなりに能力があるヤツを代理にすれば回るのさ。すでにその人材も見繕っている。

 問題は、こっちの方だ。これから立ち上げる上に、調査を進めちゃいるが周囲の状況も不明点が多い土地だ。面倒事が次々にやって来るのは明白だからな、俺が直接指揮を執った方がいいって事になった」


 さらにブルーノさんは、こう続けた。


「ギルド職員は、パラドール王国とリッツ王国から半数ずつ派遣されることになった。条約を守るため、可能な限りどちらかの国が加担していると見られないようにするためだな」


「なるほど」


 こんな細かい所まで気を遣うなんて面倒だと思ってしまうが、これも両国の和平を継続させるための知恵だろう。国際社会って言うのは、こういうことに敏感なんだろう。


「……実はここだけの話なんだが、禁じられた領域に冒険者ギルドを開設する件、頓挫しかけたんだ」


「な!?」


 まさか、そんなことになっていたなんて。禁じられた領域に冒険者ギルドを作るのは、そんなに危ない話題だったのか!?


「そもそもパラドール王国とリッツ王国は、戦争と和平を繰り返してきた国同士だ。現在は和平が結ばれて両国間で貿易なんかも行われているが、平和な時代を長く続けるためにあらゆる手段を使い続けている。

 その一つが、両国の王族や王家と血縁的に近しい貴族同士で結婚をすることだ。これは古くから行われている事なんだが、その関係でパラドール王国の国王や王族、一部の貴族はルッツ王国の王位継承権を持っている。数十から数百位だがな。もちろん、逆もまた然りだ。

 現在は、ルッツ王国の第3王子とパラドール王国のモンフォルテ公爵令嬢との婚約がなされている、んだが……」


「何か問題が?」


「俺みたいな市井の者が詳しく知る由はないが、どうも婚約に暗雲が立ちこめているという噂がある。その影響からか、禁じられた領域に冒険者ギルドを設立するのを待って、しばらく様子見をしようという意見が関係者から出たんだ。禁じられた領域の冒険者ギルドは、ルッツ王国との共同運営状態になるからな。

 ま、一部の慎重派の意見だったから、俺がなんとか説き伏せたけどよ」


 そんな事情があったとは……。

 なんにせよ、当初の予定通り冒険者ギルドが開かれることになってよかったと思う。ただ、これからは社会情勢に注意を払わなければならないが……。




 それからしばらくして、エントラーダに禁じられた領域初の冒険者ギルドが設立された。

 また、エントラーダ周辺の探索に出るにはBランク以上、ゴーストへの対抗手段を持っている場合はCランク以上である事と条件が引き下げられた。探索場と補給や宿泊を行える場所が近くなったのがその理由らしい。

 今のところ、禁じられた領域の探索を行おうと集まってきた冒険者と、冒険者に関わる仕事をする関係者が多くエントラーダに訪れている。

 それはもちろん、僕のホテルであるファシルキャビンの宿泊客が多くなることにも直結していた。


「オーナー、このペースですと、来月あたりには累計宿泊者数が100人に到達しそうです」


「そうなんだ。となると、ちょっと人員補強が必要かな?」


「はい。ですが見つけたゴーストを片っ端からというのはオススメしません。私であればある程度見定めることが出来ますので、リクルートに向かわれる際はお声がけください」


「わかった。スケジュール調整するから、決まったら教えるよ」

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